「パートナーシップ構築宣言」 登録企業がこの2年で3倍超に
ー 中小企業の底上げに尽力する商工会議所ですが、小林さんは中小企業の位置づけをどのように捉えていますか。
小林 日本企業の99.7%、約340万社が中小企業であり、労働人口の7割を支えています。さらに従業員の家族を含めれば、日本人口の約3分の2が、中小企業からの給与や報酬に依存しています。
日本が成長と分配の好循環を目指すには、GDP(国内総生産)の約6割を占める個人消費を伸ばすことが基本です。そのためには、中小企業の発展を政策の中心に据える必要があります。中小企業が持続的に成長することこそ、日本再生の鍵だと考えます。
ー 日本の再生は中小企業の再生にかかるということですね。では、いかに中小企業の価格転嫁と賃上げの好循環を実現していくべきと考えますか。
小林 個人消費を押し上げるには、中小企業の収益と賃金を向上させる必要があります。もちろん、中小企業自身が自己変革をしながら、生産性を高め、付加価値を創出する努力をすることが前提です。
しかし、物価高や円安など、自己努力だけでは解決できない外部要因もあります。そのため、官民一体で賃上げのための環境整備を進める必要があります。
ー 官民一体で取り組んでいくべきだと。
小林 ええ。そういう意味からいうと、価格の適正化は当然必要です。あらゆる原材料やエネルギーを輸入している日本にとって、円安は諸物価の上昇につながっています。企業にとっては仕入れコストも上がりますし、電力、ガス料金も上がるということです。
円安や物価の上昇が短期的な施策ではなかなか改善が難しいという状況であれば、日本全体の企業構造の中でお互いに協力してやっていかなければならない。そのためにも価格転嫁は必要です。
これはわたしの2022年11月の会頭就任時からの命題で、随分と取り組んできました。
例えば、「パートナーシップ構築宣言」というのがありますが、これは大企業と中小企業、あるいは中小企業同士の間でも、元請けと下請け、または規模や系列を超えて共存共栄関係を構築していこうという理念で推進しています。
これはわたしが就任した2年前には、宣言への登録企業が約1万6千社であったのに対し、今は約5万6千社(11月13日現在)と、3倍以上になっています。これは、規模や系列を超えた共存共栄を目指す取り組みの成果です。
企業の経済価値・社会価値・ 環境価値の三つを上げていく
ー これは、大企業の理解も進んできたと言っていいですか。
小林 はい。やはり、デフレマインドを払しょくし、経済の好循環を実現していくためには、企業は社会的責任を果たす必要があると思います。
円安の影響について、例をあげましょう。中小企業の場合、原材料は自分で買って、輸入します。これは円安の影響を直接に受けます。そして、製品や部品をつくり、元請けに納品するわけです。それは円建ての取引です。
つまり、大企業は為替リスクをほとんど負っておらず、中小企業がその分を引き受けているということです。経済社会全体を考えれば、やはり、大企業は中小企業あるいは下請け企業に対し、その部分を取引価格に反映させることが必要です。
公平の原則からいうとそうでしょう。
ー つまり、社会的責任を大企業も考えるべきだと。
小林 そういうことです。なぜ社会的責任と申し上げるかというと、企業はどういう価値を求めて経済活動をすべきか、ということが、経済成長真っ只中の頃に問われました。
わたしも会社生活を始めてしばらくの間は、やはり経済価値を徹底的に追求する、要するに、儲けることに集中してきました。そして、日本経済はここまで成長してきたわけです。
ところが、それから金融ショック、オイルショックがあり、さらに環境問題や地球温暖化問題も出てきた。また、経済価値を追求して、株主に還元することを最重視する株主資本主義の時期がありましたが、それだけでは上手く行かなくなってきたのです。
そして、わたしが社長になった前後の頃、15年くらい前から、企業は経済価値だけでなく、三つの価値を同時追求すべき、となりました。経済価値・社会価値・環境価値の三つを高めるということです。
ー なるほど。三つの価値を同時に上げていく。
小林 経済価値でしたら、収益を上げる。環境価値は環境に配慮し、よい地球をつくっていく。そして、三つ目の社会価値は、企業の社会的責任は何かということを追求していく。
今は、その三つの価値を高める企業が、今後の優良企業として認知されるということです。
ー このことは大企業の人たちと話をしていて、皆さん共感されますか。
小林 今の話をすれば共感します。しかしながら、それを実行するには、少し時間と労力がいるわけです。
産業社会の中で社会的使命を果たすということから言えば、大先輩である永野重雄さん(元・日本商工会議所会頭)が『石垣論』を提唱しました。日本経済の強さの源泉は、大企業と中小企業が、堅固な石垣の大小さまざまな姿形の石のように、がっちりと組み合い、それぞれ所を得て、発展し、力を発揮するところにあると。
したがって、その石垣のすべてに恩恵が行き渡るようにするのが、本来的な社会の底上げにつながるということです。そういう意味での社会的使命が、大企業には問われているのです。
【財界賞 受賞・喜びの声】日本商工会議所会頭・小林 健さん
ー 中小企業の底上げに尽力する商工会議所ですが、小林さんは中小企業の位置づけをどのように捉えていますか。
小林 日本企業の99.7%、約340万社が中小企業であり、労働人口の7割を支えています。さらに従業員の家族を含めれば、日本人口の約3分の2が、中小企業からの給与や報酬に依存しています。
日本が成長と分配の好循環を目指すには、GDP(国内総生産)の約6割を占める個人消費を伸ばすことが基本です。そのためには、中小企業の発展を政策の中心に据える必要があります。中小企業が持続的に成長することこそ、日本再生の鍵だと考えます。
ー 日本の再生は中小企業の再生にかかるということですね。では、いかに中小企業の価格転嫁と賃上げの好循環を実現していくべきと考えますか。
小林 個人消費を押し上げるには、中小企業の収益と賃金を向上させる必要があります。もちろん、中小企業自身が自己変革をしながら、生産性を高め、付加価値を創出する努力をすることが前提です。
しかし、物価高や円安など、自己努力だけでは解決できない外部要因もあります。そのため、官民一体で賃上げのための環境整備を進める必要があります。
ー 官民一体で取り組んでいくべきだと。
小林 ええ。そういう意味からいうと、価格の適正化は当然必要です。あらゆる原材料やエネルギーを輸入している日本にとって、円安は諸物価の上昇につながっています。企業にとっては仕入れコストも上がりますし、電力、ガス料金も上がるということです。
円安や物価の上昇が短期的な施策ではなかなか改善が難しいという状況であれば、日本全体の企業構造の中でお互いに協力してやっていかなければならない。そのためにも価格転嫁は必要です。
これはわたしの2022年11月の会頭就任時からの命題で、随分と取り組んできました。
例えば、「パートナーシップ構築宣言」というのがありますが、これは大企業と中小企業、あるいは中小企業同士の間でも、元請けと下請け、または規模や系列を超えて共存共栄関係を構築していこうという理念で推進しています。
これはわたしが就任した2年前には、宣言への登録企業が約1万6千社であったのに対し、今は約5万6千社(11月13日現在)と、3倍以上になっています。これは、規模や系列を超えた共存共栄を目指す取り組みの成果です。
企業の経済価値・社会価値・ 環境価値の三つを上げていく
ー これは、大企業の理解も進んできたと言っていいですか。
小林 はい。やはり、デフレマインドを払しょくし、経済の好循環を実現していくためには、企業は社会的責任を果たす必要があると思います。
円安の影響について、例をあげましょう。中小企業の場合、原材料は自分で買って、輸入します。これは円安の影響を直接に受けます。そして、製品や部品をつくり、元請けに納品するわけです。それは円建ての取引です。
つまり、大企業は為替リスクをほとんど負っておらず、中小企業がその分を引き受けているということです。経済社会全体を考えれば、やはり、大企業は中小企業あるいは下請け企業に対し、その部分を取引価格に反映させることが必要です。
公平の原則からいうとそうでしょう。
ー つまり、社会的責任を大企業も考えるべきだと。
小林 そういうことです。なぜ社会的責任と申し上げるかというと、企業はどういう価値を求めて経済活動をすべきか、ということが、経済成長真っ只中の頃に問われました。
わたしも会社生活を始めてしばらくの間は、やはり経済価値を徹底的に追求する、要するに、儲けることに集中してきました。そして、日本経済はここまで成長してきたわけです。
ところが、それから金融ショック、オイルショックがあり、さらに環境問題や地球温暖化問題も出てきた。また、経済価値を追求して、株主に還元することを最重視する株主資本主義の時期がありましたが、それだけでは上手く行かなくなってきたのです。
そして、わたしが社長になった前後の頃、15年くらい前から、企業は経済価値だけでなく、三つの価値を同時追求すべき、となりました。経済価値・社会価値・環境価値の三つを高めるということです。
ー なるほど。三つの価値を同時に上げていく。
小林 経済価値でしたら、収益を上げる。環境価値は環境に配慮し、よい地球をつくっていく。そして、三つ目の社会価値は、企業の社会的責任は何かということを追求していく。
今は、その三つの価値を高める企業が、今後の優良企業として認知されるということです。
ー このことは大企業の人たちと話をしていて、皆さん共感されますか。
小林 今の話をすれば共感します。しかしながら、それを実行するには、少し時間と労力がいるわけです。
産業社会の中で社会的使命を果たすということから言えば、大先輩である永野重雄さん(元・日本商工会議所会頭)が『石垣論』を提唱しました。日本経済の強さの源泉は、大企業と中小企業が、堅固な石垣の大小さまざまな姿形の石のように、がっちりと組み合い、それぞれ所を得て、発展し、力を発揮するところにあると。
したがって、その石垣のすべてに恩恵が行き渡るようにするのが、本来的な社会の底上げにつながるということです。そういう意味での社会的使命が、大企業には問われているのです。
【財界賞 受賞・喜びの声】日本商工会議所会頭・小林 健さん