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人口減少、人手不足の時代をどう生き抜くか? パーソルHD・和田孝雄の社会課題克服論

財界オンライン 2025年2月5日 7時0分

"スキマバイト"が 人事トレンドワードに

「スポットワーク市場の拡大は一気に広がっている。裏返すと、通常のアルバイト人材が圧倒的に足りておらず、人材が確保しきれていない。2時間だけでいいから働いてくれとか、必要人材を確保したいという企業の切迫した事情がそこにあるのだと思う」

 こう語るのは、パーソルホールディングス社長CEO(最高経営責任者)の和田孝雄氏。

 近年、時間の空いた時に数時間だけ働くことのできるスポットワーク市場に注目が集まっている。副業を解禁する企業が増加したことで、隙間時間を利用して1回限りの単発バイトとして働く人たちが増加している。

タイミーが「スキマバイト」を開拓した理由とは? 企業と働き手双方の新たなニーズに対応

 パーソルグループのシンクタンク・パーソル総合研究所の調査でも、2024年~25年の人事トレンドワードの一つに「スキマバイト」が選ばれた。

 この市場のけん引役となっているのが、タイミーとパーソルグループのシェアフル。シェアフルを例にとると、希望者はスマートフォンで必要事項を入力。5~10分のスマホ入力のみで、履歴書作成や写真撮影、面接などの過程を経ることなく働くことができる。当日応募も可能だ。

「採用ツールの多様化で、非常に現代的なビジネスモデル。一度アルバイトとして働いてもらったら、今日は2時間しか働かなかったけど次は5時間働いてくれないかとか、居心地がいいからそのままレギュラーで働きますとか、そういう事例も結構多い。シフトを埋め、人手を確保したい企業側と働き手側双方の需要が合致しているビジネスモデルだと思う」(和田氏)

 現代を象徴するような働き方である"スキマバイト"。体調不良などでアルバイトが欠勤した時に誰かが働いてくれれば店は助かるし、働く側も一時の小遣い稼ぎにはなる。しかし、一方で、若者がこうした働き方だけを選択し続ければキャリアアップにはつながらない。

 市場が成熟するにはまだ時間がかかるかもしれないが、ここへきて、LINEヤフーやメルカリなどのIT企業も参入。人手不足を補う上で、スキマバイトがどのような形で根付いていくか。社会的な課題である。




2035年に384万人の 働き手が不足する見通し


 少子高齢化・人口減少、人手不足の時代をどう生き抜くかーー。全ての日本企業にとって、大きなテーマである。

 パーソル総合研究所の調査によると、2035年に1日当たり1775万時間の労働力が不足、働き手で換算すると384万人が不足する見通し。2023年と比較すると、1.85倍人手不足は深刻化。このまま何も手を打たなければ、現状の2倍近く深刻さを増すことになる。

 日本の人口は2023年に1億2435万人。それが2035年には1億1664万人と、800万人弱の減少が見込まれている。

【著者に聞く】『この一冊でわかる 世界経済の新常識2025』大和総研副理事長・熊谷亮丸

 年明けからは、大企業を中心に賃上げのニュースが相次ぐ。

 ファーストリテイリングは新入社員の初任給を、現在の30万円から33万円に引き上げると発表。三井住友銀行も25万5千円から30万円に引き上げ、東京海上日動火災保険は28万円から最大41万円に引き上げることを検討。いずれも待遇改善によって、優秀な人材を確保することが狙いだ。

 また、近年は日立製作所や富士通、三菱ケミカルホールディングスなど、職務内容に応じて賃金を決める「ジョブ型」の働き方を導入する企業が少しずつ増加。これも従来の年功賃金ではなく、スキルの高い人には相応の高い報酬で報いる仕組み。

 中小企業はなかなか賃上げできない状況が続いているが、今後も人材獲得に向けた企業の動きは活発化しそうだ。

「ジョブ型の導入も含めて、労働移動は間違いなく進んでいく。一人あたりの生涯転職回数が増えていく。企業における事業のライフサイクルが早くなっているので、求められる人材像も10年前と今では大きく変わってくる。そういうことで、間違いなく2030年までは日本の人材紹介マーケットは伸びていくと考えている」(和田氏)




垂直統合で顧客に 価値提供できることが強み


 パーソルHDの創業は1973年。当時はまだ社会で働く女性が少なかった時代で、創業者の篠原欣子氏が働きたいと思う全ての女性が活躍できる社会をつくろうと考え、人材派遣のテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)を設立した。

 その後、2008年にピープルスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)と経営統合し、テンプホールディングス(現パーソルホールディングス)を設立。13年に人材紹介のインテリジェンスホールディングス(現パーソルキャリア)を連結子会社化するなど、業容を拡大。

 創業から50年余、今では総合人材サービス企業として、売上収益約1兆4550億円(25年3月期見通し)の企業へ成長している。

「新紙幣発行がキャッシュレス化を後押し」リクルートが進めるキャッシュレス戦略

 和田氏が社長に就任したのは21年4月。当初はコロナ禍で人材紹介の需要が急落。赤字寸前のところまで追い込まれたが、コロナ禍の収束と共に企業の採用が活発化。人材業界にとって経営環境は悪くない。

 現在の人材業界は、リクルートHDが売上収益3兆4687~3兆5487億円(同見通し)で首位。パーソルが2位で続き、3位は同7496億円(23年12月期)で、未上場のアウトソーシング。4位に売上高3300億円(25年5月期見通し)のパソナグループが続く。

 ただ、同じ人材業界とは言え、立ち位置はそれぞれ違う。

 リクルートHDは近年、テクノロジーの力で"働く"ことを進化させるグローバルテックカンパニーへと変貌。製造業などへの人材派遣が中心のアウトソーシングは昨年、MBO(経営陣が参加する買収)して株式を非公開化。パソナグループは兵庫・淡路島での地方創生事業を次の成長事業へ育成中だ。

 そうした中、パーソルHDは人材派遣『パーソルテンプスタッフ』や転職サービス『doda(デューダ)』、スキマバイトアプリ『シェアフル』など、国内最大級の人材サービスグループとして、"総合力"に磨きをかける日々が続く。

「求人メディアから人材紹介、人材派遣まで、垂直統合でお客様に価値を提供できることが当社の強み。企業が人材を採用したい、活用したいと考えた時に、当社にご相談いただければ、どんな切り口からでも人材を確保できる。人材における全てのサービスが1社で完結できることが当社の強みになっており、企業と求職者双方のミスマッチを無くしていきたい」と語る和田氏。

 少子高齢化・人口減少、人手不足の時代にあって、人材業界に求められる役割や責任は大きくなるばかり。和田氏の挑戦は今後も続く。

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