渋滞とは無縁で気軽に移動
東京・大手町にある高層ビルのオフィスで働くビジネスマン。朝から分刻みのスケジュールをこなした後、夜には米国に出張する。成田空港を発つ米国便の出発時間は午後7時。午後6時、オフィスでの会議を終えると、屋上にあるヘリポートへ移動。そこにはヘリコプターのような乗り物が待機していた。
そのビジネスマンが飛び乗ったのは機体にプロペラがつき、垂直に離着陸する「空飛ぶクルマ」だ。あらかじめアプリで予約していた日時の空飛ぶクルマに乗ると、静かに飛び立った。眼下には大手町界隈を走る車の渋滞の列が広がる。しかし、渋滞とは無関係に、約15分後には成田に到着。予定通りの飛行機で米国に旅立った……。
「これまで街中を飛行機が飛ぶことはなかったが、空飛ぶクルマでそれが実現できれば、これまで諦めていた移動が可能になる」ー。こう語るのはANAHD未来創造室モビリティ事業創造部リードマネジャーの保理江裕己氏である。
同社は空飛ぶクルマを使った新たなエアタクシーサービスの展開に向けて動いている。前述したようなビジネスマンを対象に、東京都心と成田を結んだり、都心から富士山を周遊する観光への活用などだ。成田を結ぶ運賃は1時間で10万円以上するヘリコプターよりも安く、タクシーと同水準となる「数万円にして日常生活で使える移動手段にしたい」(同)という考え。
そもそも「空飛ぶクルマ」とは①電動②自動操縦③垂直離着陸する"航空機"を指す。クルマと言われるが、道路を走行するわけではない。電池が動力源のモーターが付いた小型航空機というイメージが近い。特徴は電動のため、ヘリコプターよりも静粛性が高い点だ。同氏によれば、地上500メートル上空を飛行中の騒音は45 dB(デシベル)程度。美術館の館内の静かさだ。
さらにエンジンを持つ航空機と比べて部品点数は少ないため、製造コストは下がり、自動操縦が可能になって操縦士が不要になれば運用コストも下がる。そして離着陸の際に滑走する必要がなく、ほぼ垂直に上昇または降下する能力を持つため、滑走路が不要。そのため、ビル屋上のヘリポートを活用できればインフラ設備にかかる費用も少なくて済む。
では、機体をANAが製造するかというと、そうではない。米ジョビー・アビエーションが手掛ける。同社はカメラやスマートフォンで写真を撮影するときに使う三脚「ゴリラポッド」を開発したエンジニア、ジョーベン・ビバート氏が2009年に設立した会社だ。
他の空飛ぶクルマを手掛ける企業と違うのは、モーターやソフトウェア、バッテリーマネジメントシステムなど、ほぼ全ての部品を一から設計している点だ。技術力が評価され、12年からはNASA(アメリカ航空宇宙局)とパートナーシップを結び、トヨタ自動車とも協業している。26年中にはドバイで運航サービスを始めるとも言われている。
今のところジョビーは22年に国土交通省に安全性の認証を受けるための型式証明を申請中。米国でも型式証明の取得に向けた審査プロセスを進めているため、テスト飛行を積み重ねて飛行機と同程度の高い安全性の担保を目指しているところだ。
一方のANAの役割は運航体制と離着陸場の確保、そして法律・ルール整備だ。「当社はヘリコプターから始まり、プロペラ機やジェット機を導入して安全運航のノウハウを蓄積してきた」(保理江氏)。パイロットや地上業務を担う人材の訓練をはじめ、離着陸場を設置してもらう不動産会社や鉄道会社などとのネットワーク、航空局との法律やルールの整備に当たっての交渉などはANAが担う形だ。
このうち離着陸場の開発においては既に野村不動産やイオンモールとの共同検討を進めている。首都圏や関西圏の都市部で大型再開発を手掛ける野村不動産と連携することで再開発ビルの屋上に離着陸場を設置し、ビル内からのアクセスがしやすいような環境づくりを進めている。また、イオンモールは郊外に店舗を展開しているため、屋上や駐車場を活用する方針だ。
新たな移動市場の創出
空飛ぶクルマが実用化されると、ANAにとっては「低高度空間でモノや人を移動させるという新たな移動の市場が生まれることになる」(同社マネジャーの原口祐樹氏)。また、これまで気軽に足を運べなかった地方の都市にも簡単に移動できるようになり、地方創生にも寄与できる。同社にとっては新たな収益をもたらす事業になり得る。
一方、騒音低減や渋滞の解消、CO2削減という観点での環境負荷の低減なども図れる。「航空局が空飛ぶクルマに関連する省令など、約15にわたる法規の改正に動いた」(保理江氏)のも、空飛ぶクルマが社会課題の解決につながると見ているからだ。
そんなANAが見据えるのは今年4月から開催される国際博覧会(大阪・関西万博)でのデモ飛行だ。デモ飛行で社会受容性が高まれば都心部での商用運航の実現にも弾みがつく。その点、ライバルの日本航空や独立系のスカイドライブなどとは「市場を創造し、拡大させていくために、共に汗を流していく」(原口氏)という存在になる。
飛行機が誕生して約120年。都市部の空の景色を大きく変える移動手段の登場に期待が募る。
京王電鉄と日立が協業 AI活用で駅の案内業務を支援
東京・大手町にある高層ビルのオフィスで働くビジネスマン。朝から分刻みのスケジュールをこなした後、夜には米国に出張する。成田空港を発つ米国便の出発時間は午後7時。午後6時、オフィスでの会議を終えると、屋上にあるヘリポートへ移動。そこにはヘリコプターのような乗り物が待機していた。
そのビジネスマンが飛び乗ったのは機体にプロペラがつき、垂直に離着陸する「空飛ぶクルマ」だ。あらかじめアプリで予約していた日時の空飛ぶクルマに乗ると、静かに飛び立った。眼下には大手町界隈を走る車の渋滞の列が広がる。しかし、渋滞とは無関係に、約15分後には成田に到着。予定通りの飛行機で米国に旅立った……。
「これまで街中を飛行機が飛ぶことはなかったが、空飛ぶクルマでそれが実現できれば、これまで諦めていた移動が可能になる」ー。こう語るのはANAHD未来創造室モビリティ事業創造部リードマネジャーの保理江裕己氏である。
同社は空飛ぶクルマを使った新たなエアタクシーサービスの展開に向けて動いている。前述したようなビジネスマンを対象に、東京都心と成田を結んだり、都心から富士山を周遊する観光への活用などだ。成田を結ぶ運賃は1時間で10万円以上するヘリコプターよりも安く、タクシーと同水準となる「数万円にして日常生活で使える移動手段にしたい」(同)という考え。
そもそも「空飛ぶクルマ」とは①電動②自動操縦③垂直離着陸する"航空機"を指す。クルマと言われるが、道路を走行するわけではない。電池が動力源のモーターが付いた小型航空機というイメージが近い。特徴は電動のため、ヘリコプターよりも静粛性が高い点だ。同氏によれば、地上500メートル上空を飛行中の騒音は45 dB(デシベル)程度。美術館の館内の静かさだ。
さらにエンジンを持つ航空機と比べて部品点数は少ないため、製造コストは下がり、自動操縦が可能になって操縦士が不要になれば運用コストも下がる。そして離着陸の際に滑走する必要がなく、ほぼ垂直に上昇または降下する能力を持つため、滑走路が不要。そのため、ビル屋上のヘリポートを活用できればインフラ設備にかかる費用も少なくて済む。
では、機体をANAが製造するかというと、そうではない。米ジョビー・アビエーションが手掛ける。同社はカメラやスマートフォンで写真を撮影するときに使う三脚「ゴリラポッド」を開発したエンジニア、ジョーベン・ビバート氏が2009年に設立した会社だ。
他の空飛ぶクルマを手掛ける企業と違うのは、モーターやソフトウェア、バッテリーマネジメントシステムなど、ほぼ全ての部品を一から設計している点だ。技術力が評価され、12年からはNASA(アメリカ航空宇宙局)とパートナーシップを結び、トヨタ自動車とも協業している。26年中にはドバイで運航サービスを始めるとも言われている。
今のところジョビーは22年に国土交通省に安全性の認証を受けるための型式証明を申請中。米国でも型式証明の取得に向けた審査プロセスを進めているため、テスト飛行を積み重ねて飛行機と同程度の高い安全性の担保を目指しているところだ。
一方のANAの役割は運航体制と離着陸場の確保、そして法律・ルール整備だ。「当社はヘリコプターから始まり、プロペラ機やジェット機を導入して安全運航のノウハウを蓄積してきた」(保理江氏)。パイロットや地上業務を担う人材の訓練をはじめ、離着陸場を設置してもらう不動産会社や鉄道会社などとのネットワーク、航空局との法律やルールの整備に当たっての交渉などはANAが担う形だ。
このうち離着陸場の開発においては既に野村不動産やイオンモールとの共同検討を進めている。首都圏や関西圏の都市部で大型再開発を手掛ける野村不動産と連携することで再開発ビルの屋上に離着陸場を設置し、ビル内からのアクセスがしやすいような環境づくりを進めている。また、イオンモールは郊外に店舗を展開しているため、屋上や駐車場を活用する方針だ。
新たな移動市場の創出
空飛ぶクルマが実用化されると、ANAにとっては「低高度空間でモノや人を移動させるという新たな移動の市場が生まれることになる」(同社マネジャーの原口祐樹氏)。また、これまで気軽に足を運べなかった地方の都市にも簡単に移動できるようになり、地方創生にも寄与できる。同社にとっては新たな収益をもたらす事業になり得る。
一方、騒音低減や渋滞の解消、CO2削減という観点での環境負荷の低減なども図れる。「航空局が空飛ぶクルマに関連する省令など、約15にわたる法規の改正に動いた」(保理江氏)のも、空飛ぶクルマが社会課題の解決につながると見ているからだ。
そんなANAが見据えるのは今年4月から開催される国際博覧会(大阪・関西万博)でのデモ飛行だ。デモ飛行で社会受容性が高まれば都心部での商用運航の実現にも弾みがつく。その点、ライバルの日本航空や独立系のスカイドライブなどとは「市場を創造し、拡大させていくために、共に汗を流していく」(原口氏)という存在になる。
飛行機が誕生して約120年。都市部の空の景色を大きく変える移動手段の登場に期待が募る。
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