「投資効率を上げて、利益成長を加速させていく」と話す橋本氏。米国ではトランプ政権再始動、中国では経済不振と、日本の化学業界を取り巻く環境は厳しい。そうした中で、脱炭素の実現に向けた技術開発などを進めなければならない状況。国内では他社との連携でコンビナートの競争力強化、前向きの成長のための投資にも注力し、得意分野を伸ばしていく。橋本氏が考える今後の姿は─。
トランプ大統領再登場の影響は?
─ 米国でトランプ政権が再登場する他、世界各地で紛争が相次ぎ、分断・対立の時代と言われます。橋本さんは現状をどう見ていますか。
橋本 我々化学業界で言うと、CO₂削減、グリーン化の歩みがどうなっているかに最も注目しています。
例えば今まで欧州は水素社会を推進しており、アンモニアを重視していなかったのですが、現実には水素は輸送費を含め、グリーンの原料を運ぶにはコストが膨大になることや、さらなる技術開発が必要であることが認識されるにつれ、急速にアンモニア活用に傾いています。
また、EV(電気自動車)についても、全てをEV化する方針としていたものが、それを撤回または後ろ倒しをしたり、BMWなどはトヨタ自動車と燃料電池車で提携するなど、流れが変わってきています。
一方で、環境規制は現実に進んでいますから、そのギャップをどう見ていくかが大事になります。
トランプ氏は基本的にCO₂削減など環境対応に対してネガティブなスタンスを取っていますから、その状況下で今後グリーン化がどういう方向に向かうかを注視していきます。
全体的な流れは変わらないと思いますが、スピード感が変わる可能性がありますから、設備投資のタイミングはよく見ていかなければなりません。
─ トランプ氏は中国を始め、各国に高関税をかけるとも主張しています。
橋本 当社の事業は半分ほどが海外ですから、サプライチェーンをどう組んでいくかが非常に大事になります。おっしゃるように関税の問題はあります。第1次トランプ政権の時には、メキシコに対する関税が引き上げられました。
ある意味で、我々はその時に勉強しましたから、その経験を生かして、変化に対してどういうサプライチェーンを構築していくか、アロケーションをどうしていくかを注意しながら対応していく必要があります。
─ 中国経済の不振がアジアの化学品市況に悪影響を与えていますが。
橋本 確かに中国のオーバーキャパシティ問題が、特に石油化学で大きく悪影響しています。これは、今後3、4年は続くだろうと見ています。
一方で、アジア全体の需要は年4%成長していますから、どこかで均衡が取れてくることが見込まれます。
その時に備えて、我々自身のコンビナートの競争力を付けておかなければなりませんし、併せて経済安全保障の視点も持って先進的なコンビナートの形成に取り組んでいかなければならないと考えています。
─ 国内に一定程度の基盤が必要だと。
橋本 はい。我々が生産している石油化学製品は、半導体や自動車、食品包装、医療機器など幅広い分野に使われています。例えばフェノールという基礎化学品がありますが、これは半導体の基板の原料です。
この国内生産を全てやめて、海外から全て輸入になった場合、どこかで価格を上げられたら国内産業は何も対応できなくなります。そうした先を見越して事業強化していくことが非常に重要だと思います。
先進的コンビナート構築で競争力向上を
─ 中国など海外製品と競争できるだけの競争力は持っておかなければなりませんね。
橋本 もちろんです。ポイントは、国内でお客様、経済安全保障、投資効率、他製品とのシナジーを見ながら、何を最終的に残していくかを決め最適化していかなければなりません。そのために必要な上流の原料のキャパシティを決める。それによって競争力ある状態をつくることが必要です。
その先にCO₂削減などグリーン化を進めることが付加価値につながります。こうした取り組みで、最終的には先進的なコンビナートをいかに早く構築するかが重要になります。
─ 西日本で三菱ケミカルグループ、旭化成とエチレン製造設備の脱炭素化で連携することを決めていますが、こうした連携も重要になると。
橋本 いま申し上げた通り、先進的なコンビナートを形成するための再編ですから、再編は目的ではありません。他の国のコンビナートに対して競争力がある形にしていくために再編をしていくという考え方です。
電気製品や自動車などは単品同士の競争ですが、化学製品はバリューチェーンでつながっていますから、その点をよく見ておかなければなりません。
ある部分だけを見て「競争力がないから必要がない」と思っても、実は全てつながっていて、強化していた部分も弱くなってしまうということが起こり得ます。
ですから半導体や自動車業界などは、政府のサポートを得ながら強化していますが、その上流の部分にある石油化学なくしては生産できないということを政府も認識していただいた上で産業強化に取り組む必要があります。
─ 国、地域との関わりも非常に大事になってきますね。
橋本 はい。石油化学で言えば、上流の原料エチレンの国内生産能力は約650万トンです。現状、稼働率が8割弱ですから、需要は500万トンくらいです。
そこまで能力が適正化されればバランスがとれ、また経済的な競争力も出てきます。その差、150万トンを日本全体でどう適正化していくか、今いろいろな動きがあります。
例えば当社は出光興産さんと千葉県の京葉コンビナートで千葉ケミカル製造有限責任事業組合(LLP)を設立し、京葉地区に両社が保有するエチレン装置の運営の統合に向け協議しています。
これだけでも相応の能力が削減されると思いますが、他の地域でもいくつか、こうした取り組みができる場所があります。各社が競争力のあるものを残しながら適正化していくと、日本の石油化学全体が締まってきて、競争力が出てきます。
─ その先に脱炭素で付加価値を付けていくと。
橋本 そうです。当社でも2030年度までに13年度比40%のCO₂削減を目指していますが、達成にめどがついています。我々自身が石油化学で競争力のあるところにフォーカスして技術開発を進めると同時に、そうでないプラントを閉めるなどしてリストラクチャリングをしていますから、具体的な姿が見えてきたのです。
今後はCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の活用などでCO₂をゼロにするような技術開発につなげていきます。さらにケミカルリサイクルやメカニカルリサイクルを組み合わせることで、現実的にCO₂を減らし、先進的なコンビナートを形成することにつながります。
ただ、30年の40%までは既存の延長で対応可能ですが、その先は新たな技術開発、設備が必要ですから、民間の自助努力だけではなく国のサポートも必要になると考えています。
それは資金面だけでなく、政策面も含みます。例えばリサイクルにしても、そのチェーンをつくるには国、地方自治体の協力が不可欠です。
CO₂を減らすこと自体が、次世代に対して良いものをつないでいくという価値であり、それを適正な利益として上乗せさせていただくことで、初めて成立するものです。そこまでいくと、かなり完成形に近づきます。
もう1つ、大きな問題はエネルギーです。これこそ化学業界の力だけではどうにもできません。やはり原子力も含めてエネルギーを多様化してCO₂を削減していかなければなりません。
既存の原子力を、安全性を担保しながら動かしていくことが、時間軸を考えると最も現実的な解ではないかと思います。
利益向上に向け成長速度を上げる
─ 三井化学はヘルスケア、モビリティ、ICTの3領域を成長分野と見て投資を進めていますが、今後の方向性は?
橋本 当社が成長領域と見ているのは、一般的にスペシャリティと言われている分野です。今おっしゃった3分野をグローバルに競争力のある事業にしていかなければなりません。
当社は21年に長期経営計画を発表し、3年が経っていますが、その前の19年からの5年間を取ると、年平均で12%利益成長し、ほぼ倍増しています。
順調に成長していますが、本来の長期経営計画の目標に対しては、もう少し高い成長率を想定していたので遅れています。その計画に近づけるために、再度成長速度を上げていく必要があります。
25年度に2000億円という営業利益目標を掲げていましたが、24年度の見通しは1000億円を超えるくらいの水準ですので、来年度に倍増は現実的ではないということで、28年度の達成に変更しました。
ただ、30年度に2500億円という目標は変えていませんから、年平均で15%程度の成長が必要で、やはり加速が必要です。
─ 実現に向けた方策をどう考えていますか。
橋本 1つは投資効率を上げることです。成長領域においても、伸びるところに集中的に資源投下していく。実は、成長領域と言われているところでも、時間とともにスペシャリティがコモディティ化しているものがあります。
そうした事業または関係会社はリストラクチャリングするか、あるいはベストオーナーのもとで、そこに注力している企業に譲るといったことを進めながら、利益成長を加速していく必要があります。
─ 海外市場はさらに拡大していくことになる?
橋本 成長3領域で言うと、ヘルスケアは基本的にグローバルで伸びます。市場としては特に米国を意識しています。当社のヘルスケアのコアはビジョンケア材料と農薬です。これらは年平均20%近く利益成長しています。特にメガネ材料は米国ではポリカーボネート系、中国ではアクリル系の材料が主流ですが、ここを当社のウレタン系の材料で置き換えるだけでも、かなり伸びる余地があります。
また農薬は雑草も害虫も使用している間に耐性ができてきますから、いくつかの製剤を混ぜています。当社は大元の原料で環境に対して低負荷の特徴を持つ製品を持っています。これをブラジル、東南アジア、インドなどで広げるとともに、今後アフリカ、北米などにも拡大できる可能性があります。
自動車、半導体で地理的な拡大も期待
─ 市場拡大の余地は大きいと。
橋本 そうです。メディカルも米国が最も大きなマーケットとしてターゲットとなります。
そしてモビリティは、足元で自動車メーカーごとに濃淡が出ていますが、当社が多く販売させていただいているお客様は堅調な状況です。今後はEV、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含めた自動車の転換、軽量化、CO₂削減のような話が出てきますから、そこに貢献できます。
他に包装材料も扱っていますが、アルミや樹脂といった違う種類のフィルムなどを積層させるとリサイクルしづらくなります。そこで全て同じような素材でできているものに置き換え、なおかつ機能はそのままという我々の素材が非常に伸びています。
いくつかの素材は非常に付加価値が高く、特殊性が要求される領域が伸びていますから、マーケットとしては安定していると思っています。
─ 半導体は国策として再強化を図っていますが。
橋本 半導体は足元で濃淡があり、AI(人工知能)で使われる半導体は伸びていますが、ディスプレイなどの電気製品や自動車で使われるものは鈍い回復にとどまっています。
ただ、我々はすでにこの3年間でICTに多くの投資をしていますから、その領域が戻ってくると、我々の新規設備の稼働が上がり、利益向上が期待できます。
半導体は前工程と後工程がありますが、特に後工程は今後、かなり成長が期待できます。そこで当社は、半導体パッケージ基板を手掛ける新光電気工業様に5%出資することを決め、コラボレーションが始まっています。新製品が出ていく下地をつくっていますから、そこも非常に期待できます。
半導体は台湾、韓国、日本、そして米国も注力していますから、今後さらなる拡大が期待できますし、モビリティもインドや中東、アフリカといった、今まであまり出ていっていない地域で中間層が増え、新たなマーケットとしてのチャンスが出てきています。
その中でオーガニックに自分達が持つリソースで成長していくベースに加え、地理的な範囲を広げることで成長が加速できるフェーズに入ってきたと考えています。
トランプ大統領再登場の影響は?
─ 米国でトランプ政権が再登場する他、世界各地で紛争が相次ぎ、分断・対立の時代と言われます。橋本さんは現状をどう見ていますか。
橋本 我々化学業界で言うと、CO₂削減、グリーン化の歩みがどうなっているかに最も注目しています。
例えば今まで欧州は水素社会を推進しており、アンモニアを重視していなかったのですが、現実には水素は輸送費を含め、グリーンの原料を運ぶにはコストが膨大になることや、さらなる技術開発が必要であることが認識されるにつれ、急速にアンモニア活用に傾いています。
また、EV(電気自動車)についても、全てをEV化する方針としていたものが、それを撤回または後ろ倒しをしたり、BMWなどはトヨタ自動車と燃料電池車で提携するなど、流れが変わってきています。
一方で、環境規制は現実に進んでいますから、そのギャップをどう見ていくかが大事になります。
トランプ氏は基本的にCO₂削減など環境対応に対してネガティブなスタンスを取っていますから、その状況下で今後グリーン化がどういう方向に向かうかを注視していきます。
全体的な流れは変わらないと思いますが、スピード感が変わる可能性がありますから、設備投資のタイミングはよく見ていかなければなりません。
─ トランプ氏は中国を始め、各国に高関税をかけるとも主張しています。
橋本 当社の事業は半分ほどが海外ですから、サプライチェーンをどう組んでいくかが非常に大事になります。おっしゃるように関税の問題はあります。第1次トランプ政権の時には、メキシコに対する関税が引き上げられました。
ある意味で、我々はその時に勉強しましたから、その経験を生かして、変化に対してどういうサプライチェーンを構築していくか、アロケーションをどうしていくかを注意しながら対応していく必要があります。
─ 中国経済の不振がアジアの化学品市況に悪影響を与えていますが。
橋本 確かに中国のオーバーキャパシティ問題が、特に石油化学で大きく悪影響しています。これは、今後3、4年は続くだろうと見ています。
一方で、アジア全体の需要は年4%成長していますから、どこかで均衡が取れてくることが見込まれます。
その時に備えて、我々自身のコンビナートの競争力を付けておかなければなりませんし、併せて経済安全保障の視点も持って先進的なコンビナートの形成に取り組んでいかなければならないと考えています。
─ 国内に一定程度の基盤が必要だと。
橋本 はい。我々が生産している石油化学製品は、半導体や自動車、食品包装、医療機器など幅広い分野に使われています。例えばフェノールという基礎化学品がありますが、これは半導体の基板の原料です。
この国内生産を全てやめて、海外から全て輸入になった場合、どこかで価格を上げられたら国内産業は何も対応できなくなります。そうした先を見越して事業強化していくことが非常に重要だと思います。
先進的コンビナート構築で競争力向上を
─ 中国など海外製品と競争できるだけの競争力は持っておかなければなりませんね。
橋本 もちろんです。ポイントは、国内でお客様、経済安全保障、投資効率、他製品とのシナジーを見ながら、何を最終的に残していくかを決め最適化していかなければなりません。そのために必要な上流の原料のキャパシティを決める。それによって競争力ある状態をつくることが必要です。
その先にCO₂削減などグリーン化を進めることが付加価値につながります。こうした取り組みで、最終的には先進的なコンビナートをいかに早く構築するかが重要になります。
─ 西日本で三菱ケミカルグループ、旭化成とエチレン製造設備の脱炭素化で連携することを決めていますが、こうした連携も重要になると。
橋本 いま申し上げた通り、先進的なコンビナートを形成するための再編ですから、再編は目的ではありません。他の国のコンビナートに対して競争力がある形にしていくために再編をしていくという考え方です。
電気製品や自動車などは単品同士の競争ですが、化学製品はバリューチェーンでつながっていますから、その点をよく見ておかなければなりません。
ある部分だけを見て「競争力がないから必要がない」と思っても、実は全てつながっていて、強化していた部分も弱くなってしまうということが起こり得ます。
ですから半導体や自動車業界などは、政府のサポートを得ながら強化していますが、その上流の部分にある石油化学なくしては生産できないということを政府も認識していただいた上で産業強化に取り組む必要があります。
─ 国、地域との関わりも非常に大事になってきますね。
橋本 はい。石油化学で言えば、上流の原料エチレンの国内生産能力は約650万トンです。現状、稼働率が8割弱ですから、需要は500万トンくらいです。
そこまで能力が適正化されればバランスがとれ、また経済的な競争力も出てきます。その差、150万トンを日本全体でどう適正化していくか、今いろいろな動きがあります。
例えば当社は出光興産さんと千葉県の京葉コンビナートで千葉ケミカル製造有限責任事業組合(LLP)を設立し、京葉地区に両社が保有するエチレン装置の運営の統合に向け協議しています。
これだけでも相応の能力が削減されると思いますが、他の地域でもいくつか、こうした取り組みができる場所があります。各社が競争力のあるものを残しながら適正化していくと、日本の石油化学全体が締まってきて、競争力が出てきます。
─ その先に脱炭素で付加価値を付けていくと。
橋本 そうです。当社でも2030年度までに13年度比40%のCO₂削減を目指していますが、達成にめどがついています。我々自身が石油化学で競争力のあるところにフォーカスして技術開発を進めると同時に、そうでないプラントを閉めるなどしてリストラクチャリングをしていますから、具体的な姿が見えてきたのです。
今後はCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の活用などでCO₂をゼロにするような技術開発につなげていきます。さらにケミカルリサイクルやメカニカルリサイクルを組み合わせることで、現実的にCO₂を減らし、先進的なコンビナートを形成することにつながります。
ただ、30年の40%までは既存の延長で対応可能ですが、その先は新たな技術開発、設備が必要ですから、民間の自助努力だけではなく国のサポートも必要になると考えています。
それは資金面だけでなく、政策面も含みます。例えばリサイクルにしても、そのチェーンをつくるには国、地方自治体の協力が不可欠です。
CO₂を減らすこと自体が、次世代に対して良いものをつないでいくという価値であり、それを適正な利益として上乗せさせていただくことで、初めて成立するものです。そこまでいくと、かなり完成形に近づきます。
もう1つ、大きな問題はエネルギーです。これこそ化学業界の力だけではどうにもできません。やはり原子力も含めてエネルギーを多様化してCO₂を削減していかなければなりません。
既存の原子力を、安全性を担保しながら動かしていくことが、時間軸を考えると最も現実的な解ではないかと思います。
利益向上に向け成長速度を上げる
─ 三井化学はヘルスケア、モビリティ、ICTの3領域を成長分野と見て投資を進めていますが、今後の方向性は?
橋本 当社が成長領域と見ているのは、一般的にスペシャリティと言われている分野です。今おっしゃった3分野をグローバルに競争力のある事業にしていかなければなりません。
当社は21年に長期経営計画を発表し、3年が経っていますが、その前の19年からの5年間を取ると、年平均で12%利益成長し、ほぼ倍増しています。
順調に成長していますが、本来の長期経営計画の目標に対しては、もう少し高い成長率を想定していたので遅れています。その計画に近づけるために、再度成長速度を上げていく必要があります。
25年度に2000億円という営業利益目標を掲げていましたが、24年度の見通しは1000億円を超えるくらいの水準ですので、来年度に倍増は現実的ではないということで、28年度の達成に変更しました。
ただ、30年度に2500億円という目標は変えていませんから、年平均で15%程度の成長が必要で、やはり加速が必要です。
─ 実現に向けた方策をどう考えていますか。
橋本 1つは投資効率を上げることです。成長領域においても、伸びるところに集中的に資源投下していく。実は、成長領域と言われているところでも、時間とともにスペシャリティがコモディティ化しているものがあります。
そうした事業または関係会社はリストラクチャリングするか、あるいはベストオーナーのもとで、そこに注力している企業に譲るといったことを進めながら、利益成長を加速していく必要があります。
─ 海外市場はさらに拡大していくことになる?
橋本 成長3領域で言うと、ヘルスケアは基本的にグローバルで伸びます。市場としては特に米国を意識しています。当社のヘルスケアのコアはビジョンケア材料と農薬です。これらは年平均20%近く利益成長しています。特にメガネ材料は米国ではポリカーボネート系、中国ではアクリル系の材料が主流ですが、ここを当社のウレタン系の材料で置き換えるだけでも、かなり伸びる余地があります。
また農薬は雑草も害虫も使用している間に耐性ができてきますから、いくつかの製剤を混ぜています。当社は大元の原料で環境に対して低負荷の特徴を持つ製品を持っています。これをブラジル、東南アジア、インドなどで広げるとともに、今後アフリカ、北米などにも拡大できる可能性があります。
自動車、半導体で地理的な拡大も期待
─ 市場拡大の余地は大きいと。
橋本 そうです。メディカルも米国が最も大きなマーケットとしてターゲットとなります。
そしてモビリティは、足元で自動車メーカーごとに濃淡が出ていますが、当社が多く販売させていただいているお客様は堅調な状況です。今後はEV、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含めた自動車の転換、軽量化、CO₂削減のような話が出てきますから、そこに貢献できます。
他に包装材料も扱っていますが、アルミや樹脂といった違う種類のフィルムなどを積層させるとリサイクルしづらくなります。そこで全て同じような素材でできているものに置き換え、なおかつ機能はそのままという我々の素材が非常に伸びています。
いくつかの素材は非常に付加価値が高く、特殊性が要求される領域が伸びていますから、マーケットとしては安定していると思っています。
─ 半導体は国策として再強化を図っていますが。
橋本 半導体は足元で濃淡があり、AI(人工知能)で使われる半導体は伸びていますが、ディスプレイなどの電気製品や自動車で使われるものは鈍い回復にとどまっています。
ただ、我々はすでにこの3年間でICTに多くの投資をしていますから、その領域が戻ってくると、我々の新規設備の稼働が上がり、利益向上が期待できます。
半導体は前工程と後工程がありますが、特に後工程は今後、かなり成長が期待できます。そこで当社は、半導体パッケージ基板を手掛ける新光電気工業様に5%出資することを決め、コラボレーションが始まっています。新製品が出ていく下地をつくっていますから、そこも非常に期待できます。
半導体は台湾、韓国、日本、そして米国も注力していますから、今後さらなる拡大が期待できますし、モビリティもインドや中東、アフリカといった、今まであまり出ていっていない地域で中間層が増え、新たなマーケットとしてのチャンスが出てきています。
その中でオーガニックに自分達が持つリソースで成長していくベースに加え、地理的な範囲を広げることで成長が加速できるフェーズに入ってきたと考えています。