明日、地球が亡びるとも…
明日、地球が亡びるとも、わたしは今日リンゴの木を植える──。
欧州の詩人が言った言葉だそうだが、危機や窮地にあって、自らの使命に則って、やるべき事をやるという喩え。つまりは、いかに生き、いかに生き抜くかということ。
コロナ禍が昨年初めに発生、またたく間に感染症が世界に広がり、パンデミックとなって1年半。
ワクチン接種が浸透し、米国やイスラエルなどは人々も通常生活に近い状況になりつつある。しかし英国は、第1回分の接種率は高くても、2回目の接種率は低く、そのスキを狙うかのごとくインド変異株が猛威をふるい始めるなど、国によって状況は違ってくる。
日本も、接種が猛スピードで進められるが、東京都の感染状況が6月下旬になって増加ぎみ。「このままでは第5波の襲来になる」という警戒感も強まる。
こういう中で、医療従事者の献身的な仕事ぶりには頭が下がる。そういう医師や看護師の方々がいると思えば、ワクチン接種の〝打ち子〟への報酬をめぐっては、日本医師会が批判を浴びるなど医療界もギクシャクしている。
自衛隊の医官などへ支払われる日当が3000円なのに対して、日本医師会の医師には10万円余が支払われるといった話になると、税金を払う国民としても判然としない。
良心的なお医者さんや看護師さんを目の当たりにする半面、こうした話に接すると、不公平だ、不公正だという声が出てくるのも当然だ。
リーダーの使命
ノーブレス・オブリージュ──。社会的地位の高い者に求められる〝気高い精神〟ということだが、〝気高い精神〟とは何か?
この言葉が出てきた西洋では騎士道に則って、リーダーは戦場の最前線に立って、つまり弾の当たる確率の高い前方に出て指揮を執るという生き方を言う。
〝気高い精神〟とは犠牲的精神につながる。わが身を捨てて、全体に尽くすという心持ちである。
西洋の騎士道は、日本の武士道に通ずる。新渡戸稲造が著した『武士道』は当時の米大統領、セオドア・ルーズベルトにも影響を与え、同大統領は自分の息子たちに『武士道』を読むようにと強く勧めたという逸話が残る。
日本には古来、こうした気高い精神があるはず。今、日本資本主義の生みの親とされる渋沢栄一の『論語と算盤』が再び脚光を浴びているのも、公益性や倫理観のない事業は亡びるということを再認識しようという国民の思いがあるからだろう。
リーダーの使命、また社会性や公益性といったことを考えさせられるコロナ危機である。
ダイフクの使命感
使命感を持つ企業は強い。
このコロナ禍で2021年3月期も増収増益を果たした物流機器・システムのダイフク。搬送システムで自動化、ロボット化を一貫して追求し、マテリアル・ハンドリング、いわゆるマテハンの領域で世界1位の評価を受けている。
いまeコマース(ネット通販)の時代となり、またコロナ禍の巣ごもり需要の高まりで、物流センターの建設が世界各地で相次ぐ。これらが同社の追い風となっているのは事実だが、同社がマテハン企業としての使命を果たしているが故の好業績であろう。
同社のモットーは、受注した顧客企業の「どんな状況下でも、生産を停めないこと」を目指すということ。
「お客様に約束したことを守るということで、逃げないという文化をつなげてきたし、これからもそれをやっていこうと」と語るのは社長の下代博(げしろ・ひろし)さん(トップレポート参照)。
どんな事があっても、逃げない、諦めない。このDNA(遺伝子)をずっとつなげていきたいと語る下代さんである。
〝ダイフクらしさ〟の追求
〝ダイフクらしさ〟。この〝らしさ〟は社風となり、相手から信頼される無形の財産となる。
いま、ダイフクの仕事は、北米、アジアとグローバルに広がり、海外の仕事の比率は全体の7割。外国籍の社員も7割を占める。世界の信頼を得ている背景には、この〝ダイフクらしさ〟を守っているからだ。
社会との約束を守る。コロナ危機で世界はとかく荒れぎみになりがちだが、縁の下で踏ん張る仕事に誇りを持つ企業は強い。
勝木敦志さんの変化対応
コロナ危機と向き合って約1年半、経営者として、このコロナ禍をどう思うか? その問いに、「未来が早く来たと思うんですよ」と答えるのはアサヒグループホールディングス社長の勝木敦志さん(1960年3月生まれ)。
主力のビール事業は2020年、業務用が販売自粛の影響で前年比で4割減と打撃を受けた。
「消費者にも多様化が現われ、社会の変化にも柔軟に対応する世代も生まれてきたし、製品やサービスを提供するわたしたちも、人々の健康やウェル・ビーイング(well-being、幸せな暮らし、安寧)を追求する会社でありたい」
そうした価値観を求める若い世代も増えてきた。ミレニアル世代(1981年以降生まれの世代)やZ世代(90年代後半以降から2000年代前半に生まれた世代)の20代から40歳頃までの若い層は『社会』や『サステナビリティ(持続性)』などへの関心が強い。
「もはや、量を追って成長する時代ではない。商品やサービスのイノベーションを含めて、経営の質を高めていきたい」と勝木さん。
どうやって、『質』を高めていくか? という問いに、「それは人材の育成に尽きます」と即答する勝木さんである。
多様性を生かす!
勝木さんは1960年(昭和35年)3月生まれ。北海道出身。84年青山学院大学経営学部卒業後、ニッカウヰスキーに入社。同社はアサヒビール(現アサヒグループホールディングス)の子会社になった関係で、2002年アサヒビールに転籍という経歴。
就職先にニッカウヰスキーを選んだのはなぜか? その問いに、「北海道出身(岩見沢)なので、北海道に拠点のある会社を選びました」ときっぱり。
学生時代は山登りに夢中になり、体を鍛えたせいか、前向きで行動派。アサヒビールに転籍後は経営戦略部門や国際部門で働いた。傍流扱いされ、肩身のせまい思いをさせられるのではと緊張ぎみだったが、「そんなことは全くなかった」という。
当時の社長が、「出身や経歴で差別することはならない」というメッセージを出し、それを徹底する社風だったと転籍時の雰囲気を述懐。
トップの思想を社員たちがしっかり受けとめ、トップダウンとボトムアップを融合させる会社は強い。コロナ危機でもそのことが言える。
経済同友会・ 櫻田謙悟の新資本主義論 「世界最先端モデルを示せるのは日本の企業人」
明日、地球が亡びるとも、わたしは今日リンゴの木を植える──。
欧州の詩人が言った言葉だそうだが、危機や窮地にあって、自らの使命に則って、やるべき事をやるという喩え。つまりは、いかに生き、いかに生き抜くかということ。
コロナ禍が昨年初めに発生、またたく間に感染症が世界に広がり、パンデミックとなって1年半。
ワクチン接種が浸透し、米国やイスラエルなどは人々も通常生活に近い状況になりつつある。しかし英国は、第1回分の接種率は高くても、2回目の接種率は低く、そのスキを狙うかのごとくインド変異株が猛威をふるい始めるなど、国によって状況は違ってくる。
日本も、接種が猛スピードで進められるが、東京都の感染状況が6月下旬になって増加ぎみ。「このままでは第5波の襲来になる」という警戒感も強まる。
こういう中で、医療従事者の献身的な仕事ぶりには頭が下がる。そういう医師や看護師の方々がいると思えば、ワクチン接種の〝打ち子〟への報酬をめぐっては、日本医師会が批判を浴びるなど医療界もギクシャクしている。
自衛隊の医官などへ支払われる日当が3000円なのに対して、日本医師会の医師には10万円余が支払われるといった話になると、税金を払う国民としても判然としない。
良心的なお医者さんや看護師さんを目の当たりにする半面、こうした話に接すると、不公平だ、不公正だという声が出てくるのも当然だ。
リーダーの使命
ノーブレス・オブリージュ──。社会的地位の高い者に求められる〝気高い精神〟ということだが、〝気高い精神〟とは何か?
この言葉が出てきた西洋では騎士道に則って、リーダーは戦場の最前線に立って、つまり弾の当たる確率の高い前方に出て指揮を執るという生き方を言う。
〝気高い精神〟とは犠牲的精神につながる。わが身を捨てて、全体に尽くすという心持ちである。
西洋の騎士道は、日本の武士道に通ずる。新渡戸稲造が著した『武士道』は当時の米大統領、セオドア・ルーズベルトにも影響を与え、同大統領は自分の息子たちに『武士道』を読むようにと強く勧めたという逸話が残る。
日本には古来、こうした気高い精神があるはず。今、日本資本主義の生みの親とされる渋沢栄一の『論語と算盤』が再び脚光を浴びているのも、公益性や倫理観のない事業は亡びるということを再認識しようという国民の思いがあるからだろう。
リーダーの使命、また社会性や公益性といったことを考えさせられるコロナ危機である。
ダイフクの使命感
使命感を持つ企業は強い。
このコロナ禍で2021年3月期も増収増益を果たした物流機器・システムのダイフク。搬送システムで自動化、ロボット化を一貫して追求し、マテリアル・ハンドリング、いわゆるマテハンの領域で世界1位の評価を受けている。
いまeコマース(ネット通販)の時代となり、またコロナ禍の巣ごもり需要の高まりで、物流センターの建設が世界各地で相次ぐ。これらが同社の追い風となっているのは事実だが、同社がマテハン企業としての使命を果たしているが故の好業績であろう。
同社のモットーは、受注した顧客企業の「どんな状況下でも、生産を停めないこと」を目指すということ。
「お客様に約束したことを守るということで、逃げないという文化をつなげてきたし、これからもそれをやっていこうと」と語るのは社長の下代博(げしろ・ひろし)さん(トップレポート参照)。
どんな事があっても、逃げない、諦めない。このDNA(遺伝子)をずっとつなげていきたいと語る下代さんである。
〝ダイフクらしさ〟の追求
〝ダイフクらしさ〟。この〝らしさ〟は社風となり、相手から信頼される無形の財産となる。
いま、ダイフクの仕事は、北米、アジアとグローバルに広がり、海外の仕事の比率は全体の7割。外国籍の社員も7割を占める。世界の信頼を得ている背景には、この〝ダイフクらしさ〟を守っているからだ。
社会との約束を守る。コロナ危機で世界はとかく荒れぎみになりがちだが、縁の下で踏ん張る仕事に誇りを持つ企業は強い。
勝木敦志さんの変化対応
コロナ危機と向き合って約1年半、経営者として、このコロナ禍をどう思うか? その問いに、「未来が早く来たと思うんですよ」と答えるのはアサヒグループホールディングス社長の勝木敦志さん(1960年3月生まれ)。
主力のビール事業は2020年、業務用が販売自粛の影響で前年比で4割減と打撃を受けた。
「消費者にも多様化が現われ、社会の変化にも柔軟に対応する世代も生まれてきたし、製品やサービスを提供するわたしたちも、人々の健康やウェル・ビーイング(well-being、幸せな暮らし、安寧)を追求する会社でありたい」
そうした価値観を求める若い世代も増えてきた。ミレニアル世代(1981年以降生まれの世代)やZ世代(90年代後半以降から2000年代前半に生まれた世代)の20代から40歳頃までの若い層は『社会』や『サステナビリティ(持続性)』などへの関心が強い。
「もはや、量を追って成長する時代ではない。商品やサービスのイノベーションを含めて、経営の質を高めていきたい」と勝木さん。
どうやって、『質』を高めていくか? という問いに、「それは人材の育成に尽きます」と即答する勝木さんである。
多様性を生かす!
勝木さんは1960年(昭和35年)3月生まれ。北海道出身。84年青山学院大学経営学部卒業後、ニッカウヰスキーに入社。同社はアサヒビール(現アサヒグループホールディングス)の子会社になった関係で、2002年アサヒビールに転籍という経歴。
就職先にニッカウヰスキーを選んだのはなぜか? その問いに、「北海道出身(岩見沢)なので、北海道に拠点のある会社を選びました」ときっぱり。
学生時代は山登りに夢中になり、体を鍛えたせいか、前向きで行動派。アサヒビールに転籍後は経営戦略部門や国際部門で働いた。傍流扱いされ、肩身のせまい思いをさせられるのではと緊張ぎみだったが、「そんなことは全くなかった」という。
当時の社長が、「出身や経歴で差別することはならない」というメッセージを出し、それを徹底する社風だったと転籍時の雰囲気を述懐。
トップの思想を社員たちがしっかり受けとめ、トップダウンとボトムアップを融合させる会社は強い。コロナ危機でもそのことが言える。
経済同友会・ 櫻田謙悟の新資本主義論 「世界最先端モデルを示せるのは日本の企業人」