更なる事業売却が進む?
東芝の株主総会が6月25日に都内で開かれ、取締役会議長の永山治氏(中外製薬名誉会長)ら2人の社外取締役の再任が否決された。11人の取締役候補のうち、永山氏の他、小林伸行監査委員会委員の再任が否決。永山氏が取締役会議長の席を追われ、暫定措置として綱川智社長が後任に就いた。
昨年の定時総会の運営を巡る問題や車谷暢昭社長(当時)の退任などで混乱が続く中、株主の「反乱」は東芝の解体につながる可能性もある――。
今回の問題の発端は、昨年7月に開かれた株主総会にさかのぼる。当時、”物言う株主(アクティビスト)”が提案した取締役の選任が否決された。しかし、今年6月10日、「経済産業省と一体となって、(海外ファンドの)株主提案権の行使を妨げようと画策した」と指弾する外部弁護士による調査報告書が公表され、東芝は取締役候補者2氏を取り下げる異例の対応に追い込まれていた。
「永山さんには何とかボードに残ってほしい。そうでなければ、東芝は舵取り役が不在となり座礁する」
報告書の公表を受けて、当時の安藤久佳経産次官(1983年旧通商産業省)周辺にはこんな危機感が広がった。報告書を受けて勢いづいた海外株主などの間から、社外取締役で取締役会議長を務める永山氏にまで退任圧力が強まったためだ。
永山氏は中外製薬を製薬大手ロシュとの提携で成長させた敏腕経営者。ソニーで取締役会議長を務めた実績もある。車谷前社長に辞任を迫ったのも永山氏であり、東芝の後見役を自認してきた経産省が、三顧の礼で昨年7月に取締役会議長に迎えた経緯がある。
関係者の電子メールなどを復元し、徹底調査した報告書は、”アンチ車谷”の急先鋒で筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントに対して、情報産業課長が「安全保障に関する事業への影響を相当懸念している」と圧力を掛けた上で、翌日には東芝側に「エフィッシモが少しビビッてきている」などと伝えた生々しい様子が描かれている。
経産省側には昨年の株主総会を前に、車谷氏の役員選任の可否を巡る票読みが連日のように報告され、情報産業課長は、別の大株主の3Dインベストメント・パートナーズに対しても、エフィッシモに同調しないように圧力をかけたという。
東芝側は報告書の内容を事実上認め、株主工作で中心的な役割を果たした豊原正恭副社長、加茂正治常務を執行役から退任させることも今回の総会前に決めたが、結局、永山氏ら2人の社外取締役の再任が否決される異例の事態となった。
後任社長として再登板した生え抜きの綱川氏は「優柔不断で頼りない」(中堅幹部)と、経産省内での評価が低く「永山氏がいなくなれば、海外ファンドの株主還元圧力に押されて重要事業を切り売りしかねない」(同)と危惧されているのが現状。
東芝の株価は今年の初値は3015円だったが、5000円付近まで上昇している。株価上昇の背景にあるのはアクティビストの圧力によって、更なる事業売却が進むのでは? との思惑だ。
綱川氏は前回の経営危機で主要部門を切り離したため、グローバルで戦える事業は、POS(販売時点情報管理)システムやエレベーターなど小粒なものばかり。同社最大の収益源が、株式公開を目指す半導体メモリー大手キオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)の持ち株40%という寂しい現状である。
混乱続く東芝、報告書を受け取締役2名の選任取り下げ
アクティビストを含む株主との対話をどう考えるか?
不正会計問題や米原発会社の買収に関わる巨額損失で経営破綻の瀬戸際に追い込まれた東芝の再建は「原発やエネルギー、半導体など国策に重要なビジネスを手掛ける」(官邸筋)との理由から、事実上、経産省との二人三脚で進められてきた。
過度な官の介入や癒着はいけないが、国の安全保障上大事な企業が官と連携を取るのは当然ともいえる。日本の産業政策を作る上で、官と民の関係はどう考えていけばいいのか。
コーポレートガバナンス(企業統治)問題に詳しい弁護士の久保利英明氏は、「城山三郎の『官僚たちの夏』で描かれた1960年代と経済がグローバル化した今では時代が違う。企業は外国人を雇うことができるが、経産省は外国人を雇うことはできない。もはや、世界中の英知を集めることができるのは経産省ではなく民間企業。グローバルな産業政策を国が作れる時代でもないだろう」と指摘する。
東芝は上場を維持するため、債務超過を免れようと、2017年に第三者割当増資を実施した。アクティビストを含む多くの海外ファンドから出資を受けたという経緯があるが、「必ずしも株主との対話が円滑といえなかった」(市場関係者)という。
株主との対話は大事だが、短期的な利益を要求するとされるアクティビストの意見ばかりを聞いていれば、会社が混乱するのも当然である。しかし、久保利氏は東芝が自らアクティビストの意見を聞かざるを得ない状況に追い込んだと指摘する。
「株価を上げ、業績を上げ、企業価値を向上してほしいと思うのは、アクティビストも一般の株主も同じであり当然のこと。経営陣は情報開示を徹底的に行い、自分たちはこういう会社にしたいということを公開して、経営の透明性を高めるべきだが、東芝も、経産省も、皆が皆、隠しに隠して誰も説明しない。これは異様だし、経営方針を説明できない人をリーダーと呼ぶことはできない。東芝は自業自得だ」(久保利氏)
いずれにせよ、今後、経産省という後ろ盾を失った東芝の経営が泥沼化するのは必至。前回の在任時にアクティビストに対して「物言えぬ社長」と言われた綱川氏も、難しいかじ取りを迫られそうだ。
ファンドに頼り、ファンドに振り回される東芝
東芝の株主総会が6月25日に都内で開かれ、取締役会議長の永山治氏(中外製薬名誉会長)ら2人の社外取締役の再任が否決された。11人の取締役候補のうち、永山氏の他、小林伸行監査委員会委員の再任が否決。永山氏が取締役会議長の席を追われ、暫定措置として綱川智社長が後任に就いた。
昨年の定時総会の運営を巡る問題や車谷暢昭社長(当時)の退任などで混乱が続く中、株主の「反乱」は東芝の解体につながる可能性もある――。
今回の問題の発端は、昨年7月に開かれた株主総会にさかのぼる。当時、”物言う株主(アクティビスト)”が提案した取締役の選任が否決された。しかし、今年6月10日、「経済産業省と一体となって、(海外ファンドの)株主提案権の行使を妨げようと画策した」と指弾する外部弁護士による調査報告書が公表され、東芝は取締役候補者2氏を取り下げる異例の対応に追い込まれていた。
「永山さんには何とかボードに残ってほしい。そうでなければ、東芝は舵取り役が不在となり座礁する」
報告書の公表を受けて、当時の安藤久佳経産次官(1983年旧通商産業省)周辺にはこんな危機感が広がった。報告書を受けて勢いづいた海外株主などの間から、社外取締役で取締役会議長を務める永山氏にまで退任圧力が強まったためだ。
永山氏は中外製薬を製薬大手ロシュとの提携で成長させた敏腕経営者。ソニーで取締役会議長を務めた実績もある。車谷前社長に辞任を迫ったのも永山氏であり、東芝の後見役を自認してきた経産省が、三顧の礼で昨年7月に取締役会議長に迎えた経緯がある。
関係者の電子メールなどを復元し、徹底調査した報告書は、”アンチ車谷”の急先鋒で筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントに対して、情報産業課長が「安全保障に関する事業への影響を相当懸念している」と圧力を掛けた上で、翌日には東芝側に「エフィッシモが少しビビッてきている」などと伝えた生々しい様子が描かれている。
経産省側には昨年の株主総会を前に、車谷氏の役員選任の可否を巡る票読みが連日のように報告され、情報産業課長は、別の大株主の3Dインベストメント・パートナーズに対しても、エフィッシモに同調しないように圧力をかけたという。
東芝側は報告書の内容を事実上認め、株主工作で中心的な役割を果たした豊原正恭副社長、加茂正治常務を執行役から退任させることも今回の総会前に決めたが、結局、永山氏ら2人の社外取締役の再任が否決される異例の事態となった。
後任社長として再登板した生え抜きの綱川氏は「優柔不断で頼りない」(中堅幹部)と、経産省内での評価が低く「永山氏がいなくなれば、海外ファンドの株主還元圧力に押されて重要事業を切り売りしかねない」(同)と危惧されているのが現状。
東芝の株価は今年の初値は3015円だったが、5000円付近まで上昇している。株価上昇の背景にあるのはアクティビストの圧力によって、更なる事業売却が進むのでは? との思惑だ。
綱川氏は前回の経営危機で主要部門を切り離したため、グローバルで戦える事業は、POS(販売時点情報管理)システムやエレベーターなど小粒なものばかり。同社最大の収益源が、株式公開を目指す半導体メモリー大手キオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)の持ち株40%という寂しい現状である。
混乱続く東芝、報告書を受け取締役2名の選任取り下げ
アクティビストを含む株主との対話をどう考えるか?
不正会計問題や米原発会社の買収に関わる巨額損失で経営破綻の瀬戸際に追い込まれた東芝の再建は「原発やエネルギー、半導体など国策に重要なビジネスを手掛ける」(官邸筋)との理由から、事実上、経産省との二人三脚で進められてきた。
過度な官の介入や癒着はいけないが、国の安全保障上大事な企業が官と連携を取るのは当然ともいえる。日本の産業政策を作る上で、官と民の関係はどう考えていけばいいのか。
コーポレートガバナンス(企業統治)問題に詳しい弁護士の久保利英明氏は、「城山三郎の『官僚たちの夏』で描かれた1960年代と経済がグローバル化した今では時代が違う。企業は外国人を雇うことができるが、経産省は外国人を雇うことはできない。もはや、世界中の英知を集めることができるのは経産省ではなく民間企業。グローバルな産業政策を国が作れる時代でもないだろう」と指摘する。
東芝は上場を維持するため、債務超過を免れようと、2017年に第三者割当増資を実施した。アクティビストを含む多くの海外ファンドから出資を受けたという経緯があるが、「必ずしも株主との対話が円滑といえなかった」(市場関係者)という。
株主との対話は大事だが、短期的な利益を要求するとされるアクティビストの意見ばかりを聞いていれば、会社が混乱するのも当然である。しかし、久保利氏は東芝が自らアクティビストの意見を聞かざるを得ない状況に追い込んだと指摘する。
「株価を上げ、業績を上げ、企業価値を向上してほしいと思うのは、アクティビストも一般の株主も同じであり当然のこと。経営陣は情報開示を徹底的に行い、自分たちはこういう会社にしたいということを公開して、経営の透明性を高めるべきだが、東芝も、経産省も、皆が皆、隠しに隠して誰も説明しない。これは異様だし、経営方針を説明できない人をリーダーと呼ぶことはできない。東芝は自業自得だ」(久保利氏)
いずれにせよ、今後、経産省という後ろ盾を失った東芝の経営が泥沼化するのは必至。前回の在任時にアクティビストに対して「物言えぬ社長」と言われた綱川氏も、難しいかじ取りを迫られそうだ。
ファンドに頼り、ファンドに振り回される東芝