「仕事や組織のミスマッチを極小化、解消していくのがわれわれの役目」──。こう語るのは、今年4月パーソルホールディングス社長CEOに就任した和田孝雄氏。パーソルは企業、働く人のデータに加え、アウトソーシング事業によって多くの業務データを保有。こうしたデータを活用し、個人がより良くはたらくための支援から、企業や行政の業務効率化も手掛けている。働き方の変化に伴い進化する人材サービスの中身とは──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
ジョブ型雇用に対応した
報酬の見える化サービス
「世の中的に価値のある役職とは何かを確認する上でも『Salaries(サラリーズ)』は重要な指標になってくる」──。
こう語るのは『サラリーズ』を利用する人事担当者。
『サラリーズ』とは、パーソルホールディングス傘下で転職サービス『doda(デューダ)』を手掛ける「パーソルキャリア」とシンクタンク・コンサルティングファームの「パーソル総合研究所」が5月から提供を開始した〝ジョブごとの報酬水準データ〟を提供するサービス。
『doda』の約100万件のデータをもとに統計化し、個人が特定できないデータに加工して提供している。
業種や職種、グレード(役割階層)ごとの報酬水準や自社とマーケットの報酬レンジなどの比較ができるサービスだ。
コロナ禍でテレワークの普及に加え、社会のDXが加速。企業はグローバル競争を勝ち抜くため、即戦力のジョブ型採用を進めている。
だが、メンバーシップ型の終身雇用できた日本の労働市場には海外のような業界・業種ごとの労働マーケットは確立しておらず、採用を担当する人事部からは「DX人材を採用したいが、報酬がいくらなら採用できるのかわからない」といった声が増えている。
そこで、パーソルはインフラづくりから始めようと『サラリーズ』を開発。
昨年10月から約50社の企業にパイロット版を提供、今年5月から正式版の提供を始めた。
パーソルは、労働環境の変化を〝個人〟と〝企業〟の側面から分析。〝個人〟においては、人生100年時代、1社で働き続けるのではなく転職を前提に〝自立的なキャリア形成〟が必要であり、〝企業〟は、個人の能力を引き出すための〝フェアな処遇〟つまり〝適切な報酬〟が必要だと考え、サラリーズを開発した。
利用者の1社のソフトバンクは今、携帯事業を成長させつつ、新たな価値創出で通信外事業の拡大に注力。
すると、「携帯電話事業ではエンジニアもネットワークやシステムエンジニアが中心になるが、新規事業の場合はAI、IoTのエンジニアが必要になってくる。そのとき、社内と社外の人材価値を認識することが重要になってくる」とソフトバンク人事総務統括・人事本部本部長の源田泰之氏は語る。
PCR検査も手掛けるソフトバンクG
「優秀な人材から辞めていく」とも言われるが、『サラリーズ』は職種ごとの平均給与水準を見える化しているため、事前に給与を引き上げるなど、優秀な人材の離職防止にも活用できる。
パーソル総合研究所社長の渋谷和久氏は「人生100年時代、1社で働き続け、自分の人生を会社に託すことは難しい社会になっている。その中で重要なのは〝自分で決める〟こと。報酬は重要な要素なので、どのレベルでどんな報酬なのかを把握し、自己決定していくことが大切だと考えている。『サラリーズ』が企業そして個人の方々のスタンダードになり、中高生が将来、どんな職種があり、どんな報酬なのかを知り、大学の学部選びなどにもつながり、働くことに前向きになれる基盤、インフラとなるプロダクトにしていきたい」と意欲を見せる。
人生100年時代個人に寄り添うサービスを「仕事や組織のミスマッチを極小化、解消していくのが、われわれの役目」──。
こう語るのは、今年4月パーソルホールディングス社長CEOに就任した和田孝雄氏。
「お客様(企業)との取引があり、色々な業務をわれわれがさせていただき、業務そのものを理解し、個人の方々に必要とされるスキルも把握している。企業様には目指すところへ到達するためのプロセスを提案でき、働く方々にもキャリアアッププランを用意することで、ミスマッチ解消の一助をすることができます」
『サラリーズ』も社会の変化、企業と個人、双方のニーズから生まれたサービス。雇用のミスマッチ解消はパーソルにとって永遠のテーマだ。
そうした中、近年、パーソルが注力するのがグループビジョン『はたらいて、笑おう。』を実現すべく「個人にフォーカス」したサービスを提供すること。
15年11月にサービスを開始し、19年4月会社を設立して展開している『ミイダス』もその発想から生まれた。
『ミイダス』は企業と個人のマッチングをゴールにするのではなく、〝人と組織〟〝人と仕事〟のミスマッチをなくすため、客観的かつ数値的な評価に基づいた採用手法で〝適材適所〟の就職を目指すサービスだ。
また「個人にフォーカスするためにも〝接続度合い〟を高めていくことが必要」と和田氏。
接続度合いとは「人それぞれ状況が違うので、状況や変化をシステムでわかるようにして、適切なタイミングでアプローチ」する一方で「仕事を決めるときや職に就いた後など、相談やケアが必要なところはヒューマンタッチで手厚くフォロー」していく。
人とテクノロジーのすみ分けで個人を支援していく形だ。
データの活用も「働いている方々がメリットを得られること」が前提。「データをもとにスキルアップにつながる支援や必要な教育を受けてもらうなど、ステップアップの道筋を示す」ことなどに活用する。
「個人に寄り添い、ライフステージに合わせたサービスを提供していきたい」と和田氏は語る。
そこで今、パーソルが挑戦しているのが『はたらく未来図構想』。外部パートナーとも協力し、自らの未来を描くためのサポートをするという取り組みだ。
具体的には「労働市場と個人のデータを分析し、理想の〝はたらく未来〟を描き」、そのために必要な「仕事や学びなどのサービスを利用して理想に近付き」、「そのサイクルをまわす」ことで理想の未来を実現するというもの。
この発想の原点には、企業や組織が主語だった時代から、個人が主語の時代になる中、「はたらくことの自律自走をサポートし、個人の生涯に寄り添って伴走する存在になりたい」という思いがある。
ジョブ型時代 必要なのは【手に職】
自治体の業務最適化も
様々な形で個人の〝はたらく〟をサポートしているパーソルだが、もはや人材サービスだけではない側面も見せている。
その一例が、アウトソーシング事業。この事業は2015年の派遣法改正で同じ派遣先で働けるのは3年までという〝3年ルール〟ができ、派遣社員の雇用の受け皿として拡大してきた事業だ。
「われわれの社内で一定の業務処理をロボット化したものをアウトソーシングの現場でお客様に提案し、システムや業務そのものを変えて、最適化する支援もしています」
例えば、官公庁の手続き。
同じ手続きでも、処理の仕方は自治体ごとにバラバラになっている。その業務をパーソルが請け負うことで、事務作業を最適化し、申請から処理までの時間を短縮。さらに、できあがったシステムを他の自治体に横展開することで、全国の自治体の業務効率化につなげている。
こうして自治体の他、大学の奨学金申請や住宅ローン申請などでも手続きの効率化、スピード化に一役買っている。
パーソルは企業や働く人のデータだけでなく、アウトソーシング事業によって多くの業務データも保有している。
「各企業の業務データを持っているのでベストプラクティスとして横展開すれば業務処理を最適化でき、社員が本質的な業務に従事できるように支援できる」
企業が人を必要とする理由は様々。事業運営のためでも派遣、業務委託、正社員と様々な要望がある。また、人ではなく業務をまわすことが主軸ならば、アウトソーシングや繁忙期に合わせた派遣の活用など、必要とされるニーズも変わってくる。
和田氏は、そうした企業の課題に寄り添いながら「様々な提案ができることがパーソルの強み」と語る。
人材サービスからスタートしたパーソルだが、今や人材サービスだけでなく、「人の生産性」や「企業の業務生産性」を高める事業まで展開。
前社長で現会長の水田正道氏の時代に規模を拡大し、現在、パーソルHDは売上高9507億円、営業利益264億円。シンガポールや豪州の人材サービス企業を買収するなど、海外事業の足がかりも作った。
副社長として事業拡大を共に進めてきた和田氏だが、今後も方針は変えず「組織や事業を強靭化していくのがわたしの使命」と語る。
和田氏がテンプスタッフ(現パーソルHD)に転職したのは「起業の経験を積むため」だった。だが、社内で起業と同じ経験をさせてもらい「いろんな失敗をしても、創業者の篠原(欣子)は『事業を大きくするためにチャレンジして失敗をしたのなら、失敗は失敗として次につなげればいい』と言ってくれた。失敗に対する許容性があったからこそ、今のわたしがある。わたし自身も、そうした許容性を大事にしていきたい」と語る。
自らも『はたらいて、笑おう。』の精神で仕事をしてきた和田氏。
「世の中は変わります。人材派遣サービスが未来永劫あるとも限りません。不易流行で不易以外のものは変えていく」
変化に対応し、個人、企業との伴走で成長を目指す。
パーソルHD社長に副社長の和田氏が就任
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
ジョブ型雇用に対応した
報酬の見える化サービス
「世の中的に価値のある役職とは何かを確認する上でも『Salaries(サラリーズ)』は重要な指標になってくる」──。
こう語るのは『サラリーズ』を利用する人事担当者。
『サラリーズ』とは、パーソルホールディングス傘下で転職サービス『doda(デューダ)』を手掛ける「パーソルキャリア」とシンクタンク・コンサルティングファームの「パーソル総合研究所」が5月から提供を開始した〝ジョブごとの報酬水準データ〟を提供するサービス。
『doda』の約100万件のデータをもとに統計化し、個人が特定できないデータに加工して提供している。
業種や職種、グレード(役割階層)ごとの報酬水準や自社とマーケットの報酬レンジなどの比較ができるサービスだ。
コロナ禍でテレワークの普及に加え、社会のDXが加速。企業はグローバル競争を勝ち抜くため、即戦力のジョブ型採用を進めている。
だが、メンバーシップ型の終身雇用できた日本の労働市場には海外のような業界・業種ごとの労働マーケットは確立しておらず、採用を担当する人事部からは「DX人材を採用したいが、報酬がいくらなら採用できるのかわからない」といった声が増えている。
そこで、パーソルはインフラづくりから始めようと『サラリーズ』を開発。
昨年10月から約50社の企業にパイロット版を提供、今年5月から正式版の提供を始めた。
パーソルは、労働環境の変化を〝個人〟と〝企業〟の側面から分析。〝個人〟においては、人生100年時代、1社で働き続けるのではなく転職を前提に〝自立的なキャリア形成〟が必要であり、〝企業〟は、個人の能力を引き出すための〝フェアな処遇〟つまり〝適切な報酬〟が必要だと考え、サラリーズを開発した。
利用者の1社のソフトバンクは今、携帯事業を成長させつつ、新たな価値創出で通信外事業の拡大に注力。
すると、「携帯電話事業ではエンジニアもネットワークやシステムエンジニアが中心になるが、新規事業の場合はAI、IoTのエンジニアが必要になってくる。そのとき、社内と社外の人材価値を認識することが重要になってくる」とソフトバンク人事総務統括・人事本部本部長の源田泰之氏は語る。
PCR検査も手掛けるソフトバンクG
「優秀な人材から辞めていく」とも言われるが、『サラリーズ』は職種ごとの平均給与水準を見える化しているため、事前に給与を引き上げるなど、優秀な人材の離職防止にも活用できる。
パーソル総合研究所社長の渋谷和久氏は「人生100年時代、1社で働き続け、自分の人生を会社に託すことは難しい社会になっている。その中で重要なのは〝自分で決める〟こと。報酬は重要な要素なので、どのレベルでどんな報酬なのかを把握し、自己決定していくことが大切だと考えている。『サラリーズ』が企業そして個人の方々のスタンダードになり、中高生が将来、どんな職種があり、どんな報酬なのかを知り、大学の学部選びなどにもつながり、働くことに前向きになれる基盤、インフラとなるプロダクトにしていきたい」と意欲を見せる。
人生100年時代個人に寄り添うサービスを「仕事や組織のミスマッチを極小化、解消していくのが、われわれの役目」──。
こう語るのは、今年4月パーソルホールディングス社長CEOに就任した和田孝雄氏。
「お客様(企業)との取引があり、色々な業務をわれわれがさせていただき、業務そのものを理解し、個人の方々に必要とされるスキルも把握している。企業様には目指すところへ到達するためのプロセスを提案でき、働く方々にもキャリアアッププランを用意することで、ミスマッチ解消の一助をすることができます」
『サラリーズ』も社会の変化、企業と個人、双方のニーズから生まれたサービス。雇用のミスマッチ解消はパーソルにとって永遠のテーマだ。
そうした中、近年、パーソルが注力するのがグループビジョン『はたらいて、笑おう。』を実現すべく「個人にフォーカス」したサービスを提供すること。
15年11月にサービスを開始し、19年4月会社を設立して展開している『ミイダス』もその発想から生まれた。
『ミイダス』は企業と個人のマッチングをゴールにするのではなく、〝人と組織〟〝人と仕事〟のミスマッチをなくすため、客観的かつ数値的な評価に基づいた採用手法で〝適材適所〟の就職を目指すサービスだ。
また「個人にフォーカスするためにも〝接続度合い〟を高めていくことが必要」と和田氏。
接続度合いとは「人それぞれ状況が違うので、状況や変化をシステムでわかるようにして、適切なタイミングでアプローチ」する一方で「仕事を決めるときや職に就いた後など、相談やケアが必要なところはヒューマンタッチで手厚くフォロー」していく。
人とテクノロジーのすみ分けで個人を支援していく形だ。
データの活用も「働いている方々がメリットを得られること」が前提。「データをもとにスキルアップにつながる支援や必要な教育を受けてもらうなど、ステップアップの道筋を示す」ことなどに活用する。
「個人に寄り添い、ライフステージに合わせたサービスを提供していきたい」と和田氏は語る。
そこで今、パーソルが挑戦しているのが『はたらく未来図構想』。外部パートナーとも協力し、自らの未来を描くためのサポートをするという取り組みだ。
具体的には「労働市場と個人のデータを分析し、理想の〝はたらく未来〟を描き」、そのために必要な「仕事や学びなどのサービスを利用して理想に近付き」、「そのサイクルをまわす」ことで理想の未来を実現するというもの。
この発想の原点には、企業や組織が主語だった時代から、個人が主語の時代になる中、「はたらくことの自律自走をサポートし、個人の生涯に寄り添って伴走する存在になりたい」という思いがある。
ジョブ型時代 必要なのは【手に職】
自治体の業務最適化も
様々な形で個人の〝はたらく〟をサポートしているパーソルだが、もはや人材サービスだけではない側面も見せている。
その一例が、アウトソーシング事業。この事業は2015年の派遣法改正で同じ派遣先で働けるのは3年までという〝3年ルール〟ができ、派遣社員の雇用の受け皿として拡大してきた事業だ。
「われわれの社内で一定の業務処理をロボット化したものをアウトソーシングの現場でお客様に提案し、システムや業務そのものを変えて、最適化する支援もしています」
例えば、官公庁の手続き。
同じ手続きでも、処理の仕方は自治体ごとにバラバラになっている。その業務をパーソルが請け負うことで、事務作業を最適化し、申請から処理までの時間を短縮。さらに、できあがったシステムを他の自治体に横展開することで、全国の自治体の業務効率化につなげている。
こうして自治体の他、大学の奨学金申請や住宅ローン申請などでも手続きの効率化、スピード化に一役買っている。
パーソルは企業や働く人のデータだけでなく、アウトソーシング事業によって多くの業務データも保有している。
「各企業の業務データを持っているのでベストプラクティスとして横展開すれば業務処理を最適化でき、社員が本質的な業務に従事できるように支援できる」
企業が人を必要とする理由は様々。事業運営のためでも派遣、業務委託、正社員と様々な要望がある。また、人ではなく業務をまわすことが主軸ならば、アウトソーシングや繁忙期に合わせた派遣の活用など、必要とされるニーズも変わってくる。
和田氏は、そうした企業の課題に寄り添いながら「様々な提案ができることがパーソルの強み」と語る。
人材サービスからスタートしたパーソルだが、今や人材サービスだけでなく、「人の生産性」や「企業の業務生産性」を高める事業まで展開。
前社長で現会長の水田正道氏の時代に規模を拡大し、現在、パーソルHDは売上高9507億円、営業利益264億円。シンガポールや豪州の人材サービス企業を買収するなど、海外事業の足がかりも作った。
副社長として事業拡大を共に進めてきた和田氏だが、今後も方針は変えず「組織や事業を強靭化していくのがわたしの使命」と語る。
和田氏がテンプスタッフ(現パーソルHD)に転職したのは「起業の経験を積むため」だった。だが、社内で起業と同じ経験をさせてもらい「いろんな失敗をしても、創業者の篠原(欣子)は『事業を大きくするためにチャレンジして失敗をしたのなら、失敗は失敗として次につなげればいい』と言ってくれた。失敗に対する許容性があったからこそ、今のわたしがある。わたし自身も、そうした許容性を大事にしていきたい」と語る。
自らも『はたらいて、笑おう。』の精神で仕事をしてきた和田氏。
「世の中は変わります。人材派遣サービスが未来永劫あるとも限りません。不易流行で不易以外のものは変えていく」
変化に対応し、個人、企業との伴走で成長を目指す。
パーソルHD社長に副社長の和田氏が就任