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【私の雑記帳】『財界』主幹・村田博文

財界オンライン 2021年7月24日 7時0分

米中対立の狭間で……
 変化、変革の時代をどう生き抜くか──。

 国、企業、そして個人の3つの領域でそれぞれに変革期を迎えている。国を構成するのは、『富』を創出する企業の他に、官(政府)や学(大学などの教育・研究機関)、そして国民ということだが、ここでは大きく、〝国、企業、個人〟と3つに集約して考える。

 国のレベルでは今、米中対立に見られる覇権争いがある。まだ始まったばかりで当分、これは続く。

 米中対立は価値観の争いであり、自由・民主主義、法の支配、人権尊重対専制主義の争いと一般的に解釈されている。

 1989年、ベルリンの壁が崩壊し、資本主義陣営が社会主義陣営に勝ったとされて30年余。旧ソ連、旧東ドイツは確かに崩壊したが、中国はその10年余前の1978年に当時の最高実力者・鄧小平が改革開放路線を掲げて経済建設を開始。

 1992年のいわゆる『南巡講話』で、『社会主義市場経済』なる考えの下、市場経済を掲げて、ひたすら経済成長を追ってきた。

 以来、30年近くが経った今、米国に次ぐ、世界第2位の経済大国にのし上がり、2028年には「米国を抜く」という勢い。

 この米中対立の狭間にあって、日本国として、どう生き抜くかという命題である。

経済安全保障の時代
「本当に悩ましい問題」──。産業界のトップに会って、米中対立の話になると、すぐこんな反応が返ってくる。

 国の安全保障上、日本は日米同盟の関係にあり、この観点で国の防衛や価値観外交を進めなくてはならないポジション。

 また、個人の生き方としても、自由主義、民主主義、法の支配、基本的人権の尊重という価値観は戦後70年余、滲みついている。この面では、日米一体である。

 経済の運営に当たっては、経済安全保障という考えもクローズアップ。経済と安全保障は密接に結び付くということで、米中両国とも互いに情報やデータが相手に流出しないように警戒を強める。

 価値観の違いの中で、日中国交回復(1972)以来、わが国は『政経分離』路線でやってきたが、これはもはや通用しない。

「経済人は甘い! 」──。政府・与党の重鎮からは、こんな言葉が時に発出される。ピリピリとした空気が流れる昨今である。

ネット規制強める中国
 一方、中国は国家として産業への関与をますます強める。

 中国政府は7月はじめ、配車サービス最大手の『滴滴出行』(ディディ)に対し、アプリ配信の停止を命じた。同社が6月末、ニューヨーク証券取引所に新規上場した直後のことである。

 昨年は、ネット通販大手、アリババグループが政府規制を受けた。同グループは今年になって、独占禁止法違反で過去最大の罰金を科されている。

 中国の規制当局の規制については不透明であり、不気味さが漂う。『滴滴出行』にはソフトバンクグループ(SBG)やトヨタ自動車なども出資。この中国政府の規制直後、SBGの株価は20数%下落するなど、世界市場の株価にも大きな影響を与えている。
 
 30年前に始まった社会主義市場経済はネット社会を迎えて、規制を強化し、ますます専制主義を強める。

擬似国家機能に苛立ち
 米国のGAFAをはじめ、巨大ネット企業が出現し、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンなどが疑似国家機能を持ち始めたことに、「国家が苛立ちを感じ始めている」という指摘もある。

 SNSのフェイスブックは昨年の米大統領選以来、トランプ候補のアカウントを停止。事の当否はともかく、こうした規制の権限を一民間企業が握り始めているという現実。

 デジタル領域は本来、国境を越えて展開される。そこへ、国がどう関わるかという新たな課題。

欧米各国もGAFAに警戒
 中国共産党が統治する中国で、中国政府が〝規制〟に走るのは容易に想像がつくが、一方で、欧米各国でもGAFAやマイクロソフトを加えた巨大プラットフォーマーに独占禁止法やデジタル課税をかけようとする動きが強まる。

 ネット企業だけではなく、電気自動車で先頭を走るテスラ創業者、イーロン・マスク氏などの言動にも米国政府は神経を尖らせる。

 有力な資産家にのし上がったマスク氏に対しては、「税金を払っていないのではないか、これはなぜだ? 」といった疑問も出たりしてメディアをにぎわす。

 新興企業が、本来国家が担う〝規制〟や課税、雇用といった機能に大きな影響を与えるようになった。フェイスブックが2年ほど前に打ち上げた仮想通貨『リブラ』は、国家の通貨発行、管理機能に影響を与えかねないとして反発にあい、構想は宙に浮いたままだ。

 国と企業の関係はどうあるべきか。この命題は永遠に続きそうだ。

南鳥島に〝夢の資源〟
 太平洋に浮かぶ南鳥島は日本の領土。その南鳥島付近の海底には、ハイテク製品づくりに欠かせないレアアースが眠っている。

 無資源国日本といわれてきたが、10年ほど前、南鳥島の海底に良質のレアアース泥が眠っていることを突きとめたのが、加藤泰浩・東京大学教授などのチーム。
 
 10年前、レアアースの生産は中国が世界全体の97%を占め、世界中が中国に依存していた。

 それが、2011年、尖閣列島付近で中国漁船が日本の海上保安庁の船に体当たりを加えてきたことで、中国漁船関係者を拘束する出来事が起きた。

 このことへの〝報復〟として、中国政府は日本への輸出をストップ。日本の産業界の心胆を寒からしめた事件でありこうした有事がいつ何時起きるか分からない。米国や豪州でも急ぎ、レアアース鉱山の開発を進めるが、現在でも中国は63%の世界シェアを握る。

 電気自動車のモーターには強力な磁石が必要だが、この磁石に使われるのがネオジムやジスプロシウムなどのレアアース。

 加藤さんらは、南鳥島付近の公海で採取したレアアース泥を用いて、『選鉱・製錬、分離精製、残泥処理、製品作成』についても実証実験を行ってきた。その結果、良質な〝重レアアース〟を多く含むことも分かったという。

「国産レアアースの確保は、日本のモノづくり産業の未来をひらくことになります」と加藤さん。

 中国など他国に基幹産業の命運を握られることのない資源安全保障の確立が急務。

 唯一の課題は、海底5000㍍から、どうやってレアアース泥を引きあげるかだが、これも「技術的なメドはついている」という。

 深海での操業技術に定評のある仏テクニップ社などとの提携も含め、解決への道筋はある。経済外交の手腕も問われるところだ。

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