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【日野自動車】トヨタ、ダイハツ、いすゞとも連携 新社長・小木曽聡の商用車『構造変革論』

財界オンライン 2021年7月30日 18時0分

「人流や物流の困り事に向き合っていきたい」──。トラック・バス大手の日野自動車新社長に就任した小木曽聡氏は語る。かねてよりトラック運転手不足が叫ばれ、そこにコロナ危機によるネット通販が拡大。加えて電動化も避けては通れない課題だ。トヨタ自動車で商用車部門を率いた経験から小木曽氏は業界共通の悩みに応えるための構造改革に力を入れる。商用車をどう変えていくのか。

50%を切るトラックの積載率

「(電動化や自動運転などの)CASEの大変革の時代に、個社でやっていてはスピードが足りなくなる。電動化のみならず、カーボンニュートラルや安全のところで、もっと加速させなければならない」──。このように語るのは、6月に日野自動車社長に就任した小木曽聡氏だ。

 商用車大手メーカーの日野。国内ではいすゞ自動車と激しい競争を繰り広げている。そんな日野を率いることになった小木曽氏は1983年のトヨタ入社で、設計、製品企画を経て2007年にはハイブリッド車(HV)の「プリウス」の開発責任者を歴任したエンジニアだ。

 そして15年からブレーキ部品を手掛けるアドヴィックス社長を務め、18年からはトヨタの専務役員として商用車部門を率いた。実はこの頃から日野自動車前社長の下義生氏(現会長)とは「トヨタグループでの商用車ビジネスでのやりとりを行ってきた」と小木曽氏は語る。

 コロナ禍による巣ごもり需要が起き、それを契機にネット通販の利便性を享受した消費者による利用が一気に拡大。荷物の急増に伴い、商用車業界は大きな課題を抱える。その1つがドライバー不足だ。コロナ以前からあった物流業界における悩みの種だったドライバー不足は解決の糸口が未だ示されていない。

 鉄道貨物協会の予測によれば、28年度に約28万人のトラックドライバーが不足するとされている。「待遇面や長時間労働で若い人が集まらない状況は依然として続いている」(物流会社首脳)からだ。しかも、トラックの積載効率は50%を切っており、「目的地に荷物を届け、戻ってくるときには空気を運んでいるだけの状態」(同)が当たり前という状況が続く。

 もう1つの難題が電動化だ。政府は乗用車と同様、商用車も8㌧未満の小型商用車は30年までに電動車の比率を20~30%、40年には100%にするとし、大型商用車は30年までに40年目標を設定するとした。「厳しい内容だ」と関係者は頭を抱える。

 商用車の電動化は乗用車ほど進んでいない。HVを含めた乗用車の電動化は新車販売のうちの3割程度まで普及しているが、商用車に至っては数%。国内の新車市場の2割を占め、国内の自動車が排出する二酸化炭素(CO2)の半分を商用車が占めているにもかかわらずだ。

 大量の荷物を積んで長距離を走るトラックにとって、電気自動車(EV)は航続距離の短さ、燃料電池車(FCV)では水素ステーションが少ないといった点が普及の壁になっている。しかも、トラックを購入する運送業者の「価格に対する感度は一般消費者よりも格段にシビア」(関係者)という点もある。

 これらの課題はいすゞにとっても同じ。そこで小木曽氏はトヨタグループとライバルであるいすゞとの「協業」を打ち出す。「トラックの運行管理や車両管理では、いすゞと同じシステムを使うなど、〝チームジャパン〟でシェアできる」と話す。

 今年3月、日野の親会社であるトヨタは、いすゞと資本提携。社長の豊田章男氏が〝接着剤〟の役割を担って両社を結び付けた。これにより国内商用車市場の8割を持つ日野といすゞが手を組む形となった。

 トヨタを加えた3社で設立した新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」では、既存のトラックの運用効率化システムの構築なども検討。3社のデータを共有し、最適な配送ルートや人員配置に役立つサービスを提供していく考えだ。また、電動化でもCJPTが量産を視野に入れたEVやFCVの企画と開発を手掛ける。

 前述の通り、トヨタといすゞとの提携以前から、小木曽氏はトヨタグループ内での協業を進めていた。トヨタブランドの商用ワゴン車などの生産を担うトヨタ車体と法人向けの軽トラックなどを手がけるダイハツは、日野と顧客基盤が共通していたからだ。

 商用車部門のトップだった小木曽氏は「CASEやMaaS(サービスとしてのモビリティ)の領域では、商用車は大きさに関係なく、トヨタ車体、日野、さらにはダイハツを加えたトヨタグループとして一括で連携を進めてきた」と話す。今後は3社間での連携を強化し、商品開発や製造、販売後の保守サービスといった領域などでの協業が進んでいきそうだ。

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22年初夏にEVトラック投入

 もちろん、個々の顧客に対する小回りのきく商用車自体は「競争」(同)だ。EVトラックで三菱ふそうトラック・バスに後れをとっていた日野だが、22年初夏に小型EVトラック「デュトロZ EV」を投入する。

 ヤマト運輸や西濃運輸と協業して物流事業者のニーズを捉えた「物流のラストワンマイル」に特化したトラックで、超低床かつ荷室内ウォールスルーも可能だ。一方のいすゞもヤマト向けに「エルフEVウォークスルーバン」を試験導入している。

 かつて日野は「アライアンスが下手だった」(下氏)。しかし、物流業界が抱える社会課題に対して1社では限界があり、協業は避けて通れないと判断。そこで下氏は提携戦略を加速させ、中国EV大手の比亜迪(BYD)とは電動ユニットや車両の開発で、独フォルクスワーゲン(VW)のバス・トラック子会社トレイトンとは大型トラックの電動化で協力している。

 小木曽氏は「荷主の役に立つことが起点だ」と強調する。物流業界の課題を解決しなければ「荷物が運べない時代が来る」(下氏)とも言われる中、〝働くクルマ〟の新たな価値を創造していけるかどうかが小木曽氏に課せられた使命となる。


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