様々な制約を受けながら、限界に挑むアスリートたちの姿に「感動を覚える」という声は多い。コロナ危機で1年遅れの開催となった『TOKYO2020』は開催直前まで反対論も根強く、揺れた。しかし、困難に立ち向かう選手たちが感動を生み出す。コロナ禍、気候変動、自然災害多発という人類共通の課題に加え、内戦、テロとそれぞれの国が問題を抱える中、200超の国・地域から過去最大規模の約1万1,000人の選手が参加。国同士の利害対立は常に存在するが、それを『平和の祭典』として”1つの場”に集まるという五輪の精神と使命は、国のあり方、企業や個人の生き方とも重なり合う。米中対立の時代にあって、日本の立ち位置をどこに求めるか、また経済人の使命とは何か。日本の課題として、デジタル化の遅れがある。コロナ対応で不手際を招くなど課題も多い。東芝のガバナンス、三菱電機の不正検査問題などの不祥事も続く。自立・自律に基づく統治能力、何より経営者の覚悟が問われている。
文=本誌主幹 村田 博文
200超の国・地域から選手団が集う意義
「開催直前まで、日本国内では反対論も多かったが、今回の東京大会には200を超える国や地域から史上最高の選手団が参加した。同じコロナ禍に苦しむ世界中の人たちがこれだけスポーツの祭典に集まったんだということ。ぜひ、閉会式(8月8日)まで、各選手の踏ん張りで感動を与えてほしい」
某経営者の述懐である。
コロナ危機の中で開催が危ぶまれた今回の東京五輪だが、無観客ながらも、各国選手団とテレビ中継を見ている人たちが心を1つにできたことに意義があるということである。
この稿を書いているのは開会式直後。これから8月8日の閉会式まで、逆境の中で自分の技を磨いてきたアスリートたちには、さまざまな感動を生み出してほしいと思う。
開会式典の翌日、某紙には『逆境の祭典』という大見出しが付けられていたが、逆境は常に人の生活に付きまとう。
平和時と多くの人々が認識していても、世界のどこかで内戦、紛争、テロは起きているという歴史的現実。逆境と順境は交互にやって来るのではなく、順境と思う時にも、転落や崩壊の兆しはあり、それが膨らんだ時に逆境となる。いわば逆境と順境はいつの時代も同居している。
順境の時に、逆境となる兆しをウォッチし、その芽を摘み取るか、それへの備えをしていく。逆境の時は、そこで諦めたり、落ち込むのではなく、耐え抜きながら、反転していくきっかけをつかみ取る。
これは、アスリートが日々体験していること。一流選手ほどもがき苦しむ体験をしており、そうした逆境を乗り越えていく姿に、人々は感動を覚える。
今回、コロナ危機の中で開かれた第32回東京大会は、そのような意味で注目される大会となった。
アスリートたちも、国内世論が真っ二つに割れる中、果たして「出場していいものかどうか」と思い悩んだ。
感染症拡大への不安はもちろんある。しかし、可能な限りの手を打ち、『平和の祭典』をやり遂げようという試みは、文字どおり世界が1つになるという意味で意義深いと言えよう。
常に危機は存在する!
今は、さまざまなリスクが存在し、それが危機として顕在化する可能性が高まる。コロナ禍、異常気象、それに米中対立という問題もある。気候変動によって、自然災害が増えているのもその1つ。
大水害は日本やモンスーン地帯のアジアで多発しているが、それだけではなく、最近は欧州でも出始めた。最近、ドイツ西部で1時間に200㍉の大雨が降るなど、未曾有の自然災害が発生。北米の山火事もあるし、どう考えても気候変動の影響としか考えられない。
「常在戦場(常に戦場にあり)です」。某経済人は、リスクマネジメントの重要性を訴える。
〈編集部のおすすめ記事―【なぜ、日本は非常時対応が鈍いのか?】三菱総研理事長・小宮山 宏〉
米中対立が激しくなる中、中国との関係は?
中国との関係はどうあるべきか──。米中対立が激しさを増す中で、政権与党・自由民主党の幹部は、「経済人は甘い」とまで言い、次のように続ける。
「米中両国を相手に儲けたいという考えでいると、両国からデカップリング(分離)される危険性があります。両国とうまくやろうという安易な考え方でアプローチすると、(取引で)両方を失う危険性もあるということを、まず経営者はしっかり認識すべきです」
この幹部は、「企業は経済保障担当の役員を置く必要がある」と強調し、「そうしないと、突然サプライチェーン(取引網)から外されて、いきなり倒産するという危険性がある」と語る。
中国には国家情報法がある。中国で合弁企業を展開する関係者は自らが持つノウハウについて、中国政府から要請があれば、そのノウハウや関連情報を提供しないと、収監される可能性がある──と与党幹部は日本産業界に〝警告〟する。
米中対立はここ当分高まり、その流れの中で台湾問題や尖閣諸島問題も絡んでくる。
中国は、日本にとって最大の貿易相手国。米国にとっても、中国は最大の貿易相手国で、何か事が起きた場合、経済面で受ける痛手は大きい。それは中国にとっても同じだ。
日本は対中国政策をどう進めるべきか?
「これは、非常に悩ましい問題。なかなかピタリとした解は見つからない」──。対中国政策を問うと、多くの経営者から、こんな答えが返ってくる。
日本は、米中二国間の橋渡しという役割は担えるのか?
「日本は米国の同盟国。厳しい世界政治の中で、日本は橋渡し役を務められない」とバッサリと橋渡し役論を切り捨てる中国問題専門家もいる。
中国も国際社会の中で今後、ある種の名誉ある地位を占めるためには、「国際的な規範やシステムを使わざるを得ない局面も出てくる」という見方もある。しかし、そうなるまでには時間がかかりそうだ。
某経済リーダーは、「米中の対立は今後深まるということだが、ともあれ、いろいろな視点から知恵を出し合って検討したうえで、いくつものシナリオを考えておかないといけない」と〝有事への備え〟が必要と語る。
なぜ、日本の経済成長率は欧米に比べて低いのか?
今年6月時点での世界銀行の見通しでは、日・米・欧の先進国の2021年成長率は、米国が6・8%(今年1月の見通しより3・3ポイント引き上げ)、ユーロ圏が4・2%(同0・6ポイント引き上げ)に対し、日本は2・9%(同0・4ポイント引き上げ)という数値。
コロナ対策も徹底管理で抑え込んだと喧伝する中国は8・5%(同0・6ポイント引き上げ)と高い数値である。
日本は1990年代初めのバブル経済崩壊から、〝失われた20年〟あるいは〝失われた30年〟と言われ、長い間経済低迷が続く。旧長銀(旧日本長期信用銀行)などの破綻が相次いだ1998年前後から、デフレ経済に突入。日本のGDPは500兆円前後でずっと推移。
2012年末からの第2次安倍晋三政権の経済対策・アベノミクスでデフレ脱却、円高是正などを進め、日本経済は上向いてきたものの、グローバルに見ると、米国、中国との差は開くばかりだ。
バブル以前、米国のGDPは日本のそれより2倍弱だったのが、今は4倍強(約21兆ドル、2019年)。中国は2010年に日本をGDPで抜き去り、今や日本の3倍規模(約15兆ドル)。日本は約5兆ドルで長い間停滞。〝失われた30年〟と言われるユエンである。
※つづき→【コロナ第5波、米中対立】非常時の統治をどう進めるか?問われる経営者の『覚悟』(その2)
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文=本誌主幹 村田 博文
200超の国・地域から選手団が集う意義
「開催直前まで、日本国内では反対論も多かったが、今回の東京大会には200を超える国や地域から史上最高の選手団が参加した。同じコロナ禍に苦しむ世界中の人たちがこれだけスポーツの祭典に集まったんだということ。ぜひ、閉会式(8月8日)まで、各選手の踏ん張りで感動を与えてほしい」
某経営者の述懐である。
コロナ危機の中で開催が危ぶまれた今回の東京五輪だが、無観客ながらも、各国選手団とテレビ中継を見ている人たちが心を1つにできたことに意義があるということである。
この稿を書いているのは開会式直後。これから8月8日の閉会式まで、逆境の中で自分の技を磨いてきたアスリートたちには、さまざまな感動を生み出してほしいと思う。
開会式典の翌日、某紙には『逆境の祭典』という大見出しが付けられていたが、逆境は常に人の生活に付きまとう。
平和時と多くの人々が認識していても、世界のどこかで内戦、紛争、テロは起きているという歴史的現実。逆境と順境は交互にやって来るのではなく、順境と思う時にも、転落や崩壊の兆しはあり、それが膨らんだ時に逆境となる。いわば逆境と順境はいつの時代も同居している。
順境の時に、逆境となる兆しをウォッチし、その芽を摘み取るか、それへの備えをしていく。逆境の時は、そこで諦めたり、落ち込むのではなく、耐え抜きながら、反転していくきっかけをつかみ取る。
これは、アスリートが日々体験していること。一流選手ほどもがき苦しむ体験をしており、そうした逆境を乗り越えていく姿に、人々は感動を覚える。
今回、コロナ危機の中で開かれた第32回東京大会は、そのような意味で注目される大会となった。
アスリートたちも、国内世論が真っ二つに割れる中、果たして「出場していいものかどうか」と思い悩んだ。
感染症拡大への不安はもちろんある。しかし、可能な限りの手を打ち、『平和の祭典』をやり遂げようという試みは、文字どおり世界が1つになるという意味で意義深いと言えよう。
常に危機は存在する!
今は、さまざまなリスクが存在し、それが危機として顕在化する可能性が高まる。コロナ禍、異常気象、それに米中対立という問題もある。気候変動によって、自然災害が増えているのもその1つ。
大水害は日本やモンスーン地帯のアジアで多発しているが、それだけではなく、最近は欧州でも出始めた。最近、ドイツ西部で1時間に200㍉の大雨が降るなど、未曾有の自然災害が発生。北米の山火事もあるし、どう考えても気候変動の影響としか考えられない。
「常在戦場(常に戦場にあり)です」。某経済人は、リスクマネジメントの重要性を訴える。
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米中対立が激しくなる中、中国との関係は?
中国との関係はどうあるべきか──。米中対立が激しさを増す中で、政権与党・自由民主党の幹部は、「経済人は甘い」とまで言い、次のように続ける。
「米中両国を相手に儲けたいという考えでいると、両国からデカップリング(分離)される危険性があります。両国とうまくやろうという安易な考え方でアプローチすると、(取引で)両方を失う危険性もあるということを、まず経営者はしっかり認識すべきです」
この幹部は、「企業は経済保障担当の役員を置く必要がある」と強調し、「そうしないと、突然サプライチェーン(取引網)から外されて、いきなり倒産するという危険性がある」と語る。
中国には国家情報法がある。中国で合弁企業を展開する関係者は自らが持つノウハウについて、中国政府から要請があれば、そのノウハウや関連情報を提供しないと、収監される可能性がある──と与党幹部は日本産業界に〝警告〟する。
米中対立はここ当分高まり、その流れの中で台湾問題や尖閣諸島問題も絡んでくる。
中国は、日本にとって最大の貿易相手国。米国にとっても、中国は最大の貿易相手国で、何か事が起きた場合、経済面で受ける痛手は大きい。それは中国にとっても同じだ。
日本は対中国政策をどう進めるべきか?
「これは、非常に悩ましい問題。なかなかピタリとした解は見つからない」──。対中国政策を問うと、多くの経営者から、こんな答えが返ってくる。
日本は、米中二国間の橋渡しという役割は担えるのか?
「日本は米国の同盟国。厳しい世界政治の中で、日本は橋渡し役を務められない」とバッサリと橋渡し役論を切り捨てる中国問題専門家もいる。
中国も国際社会の中で今後、ある種の名誉ある地位を占めるためには、「国際的な規範やシステムを使わざるを得ない局面も出てくる」という見方もある。しかし、そうなるまでには時間がかかりそうだ。
某経済リーダーは、「米中の対立は今後深まるということだが、ともあれ、いろいろな視点から知恵を出し合って検討したうえで、いくつものシナリオを考えておかないといけない」と〝有事への備え〟が必要と語る。
なぜ、日本の経済成長率は欧米に比べて低いのか?
今年6月時点での世界銀行の見通しでは、日・米・欧の先進国の2021年成長率は、米国が6・8%(今年1月の見通しより3・3ポイント引き上げ)、ユーロ圏が4・2%(同0・6ポイント引き上げ)に対し、日本は2・9%(同0・4ポイント引き上げ)という数値。
コロナ対策も徹底管理で抑え込んだと喧伝する中国は8・5%(同0・6ポイント引き上げ)と高い数値である。
日本は1990年代初めのバブル経済崩壊から、〝失われた20年〟あるいは〝失われた30年〟と言われ、長い間経済低迷が続く。旧長銀(旧日本長期信用銀行)などの破綻が相次いだ1998年前後から、デフレ経済に突入。日本のGDPは500兆円前後でずっと推移。
2012年末からの第2次安倍晋三政権の経済対策・アベノミクスでデフレ脱却、円高是正などを進め、日本経済は上向いてきたものの、グローバルに見ると、米国、中国との差は開くばかりだ。
バブル以前、米国のGDPは日本のそれより2倍弱だったのが、今は4倍強(約21兆ドル、2019年)。中国は2010年に日本をGDPで抜き去り、今や日本の3倍規模(約15兆ドル)。日本は約5兆ドルで長い間停滞。〝失われた30年〟と言われるユエンである。
※つづき→【コロナ第5波、米中対立】非常時の統治をどう進めるか?問われる経営者の『覚悟』(その2)
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