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【コロナ第5波、米中対立】非常時の統治をどう進めるか?問われる経営者の『覚悟』(その2)

財界オンライン 2021年8月18日 7時0分

〈【コロナ第5波、米中対立】非常時の統治をどう進めるか?問われる経営者の『覚悟』(その1)はコチラ〉

(その2)

潜在力の掘り起こしを

 こうした生ぬるい状況からどう脱却していくかという命題。

 経済全体は低迷していても、例えば個人金融資産は毎年毎年積み上がっていく日本。日本銀行の発表によると、今年3月末時点での個人金融資産は1946兆円と約2000兆円の規模に膨らんだ。この個人金融資産のうち、現預金は55兆円増えて、1056兆円(全体の56%に相当)と年度末として過去最高となった。

 コロナ危機で個人消費が抑えられ、個人も先行き不安感から消費より貯蓄に資金を回し、積み立てる。コロナ禍で政府から支給された10万円(1人あたり)の特別給付金も大半が貯蓄に回ったとされる。

 金融資産が投資に回らず、現預金として滞留。この問題は日本にとって、積年の課題だ。

 資産が投資に向けられ、それが産業の設備投資や最先端のテクノロジー・サービス開拓の資金として活用されると、企業収益の向上、ひいては個人の所得向上にもつながっていく。

 そうした資金循環が拡大すればということで、『貯金よサヨナラ、投資よ今日は』のフレーズが使われたのは1960年代後半の高度成長期。以来、日本人の投資選好は弱いままだ。こうした状況をどう打開していくか。

 もっとも、最近は若い世代の間で、株式や投資信託などの金融商品への関心が高まる。普通なら、これら金融商品の売買益や受け取った配当に約20%の税金がかかる。それが、毎年一定金額の範囲で購入した金融商品ならば、非課税という特典が得られる『NISA(ニーサ)』制度もスタートして久しく、こうした制度も若い世代を中心に浸透し始めている。

 また、私的年金も、個人が自ら運用する『確定拠出年金』の加入者が増えている。企業が運用する『確定給付企業年金』に加入する人の方がこれまで多かったが、これを『確定拠出型』の加入者が上回った。

 2021年3月末の『確定拠出型』の加入者数は約941万に(1年前と比べて61 万人増)。これに対し、『確定給付型』は1年前に比べて7万人減り、933万人にとどまった。

 年金の運用も、会社頼みではなく、自分の判断で行い、老後への備えを進めるという時代の流れである。

 2017年春の社長就任以来、証券業のビジネスモデルを『資産管理型営業』へと転換を図ってきた大和証券グループ本社社長の中田誠司氏。

 株式や債券などの売買手数料で収益をあげるというやり方に依存していては、今の社会のニーズに応えられないとして、中田氏は『資産管理型営業』を推進。それと併せて、中田氏が注力するのがデジタルIT人材の育成だ。

「日本は今後デジタルIT人材がきわめて不足する。実は、わたしどもも2年前にそういう問題意識を持って、データサイエンティスト、データアドミニストレーターやエンジニアなど、デジタルIT人材を育てようと、デジタルITマスター制度をつくりました」

 社内で公募したところ、約900人が応募。テストや研修を経て、素質のある54人を絞り出し、さらに半年間の研修、それから1年半から2年の間、現場でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を経験させていくというもの。

 第2期生は70人強。現時点で120人強のデジタルIT人材が育ちつつある。

 顧客からの預かり資産を昨年度末の約75兆円から23年度に90兆円へと拡大させ、デジタル化の推進で顧客の資産運用に貢献するという中田氏の戦略。

「デジタル化の目的は2つです。1つは社内の業務をデジタル化によって、コストリダクションなり効率化に備える。そして、対お客様へのサービスをデジタル化によって進め、その付加価値を高めていく」と中田氏。

 これまで大和証券リアルティを設立。不動産を小口化して、個人の顧客にオルタナティブ投資(株式や債券ではなく、農産物への投資や先物取引)を提案。

 2018年には大和エナジー・インフラを設立。これは再生可能エネルギー専門に投資する会社で、こうした新領域開拓がこのコロナ危機下でどう実を結ぶか注目される。

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三菱電機の不祥事に

 会社は誰のものか、会社は何のために存在するのか──。株式会社としての存在意義が問われる事案が相次ぐ。

 電機業界の名門とされてきた三菱電機で、鉄道車両向け空調装置で35年以上にわたって不正検査が行なわれていたと同社が6月末に公表したことで、産業界に衝撃が走った。

 わが国製造業を代表する〝名門企業〟で空調装置は1985年以来、空気圧縮機は2006年から不正が続いていた。社内の検査でも不正を発見できなかったというから、問題は深刻だ。

 検査結果を自然に見えるように架空のデータが生成される〝専用プログラム〟までつくられていた。

 社長の杉山武史氏は引責辞任することを表明し、後継体制で徹底解明する方針。社会の信用を裏切ることが、三菱グループの中核会社で日々行われていたことに、産業界全体がショックを受けた。

 改めて、企業統治(コーポレートガバナンス)のあり方が問われている。

経済安全保障上、重要な問題をはらむ『東芝問題』

 そのコーポレートガバナンスをめぐって、議論を呼ぶのが6月の東芝の株主総会での出来事。アクティビストの海外投資ファンドから、同社取締役陣は厳しい批判を受け、取締役会議長ら2人の取締役が続投を否決される異例の事態となった。

 旧村上ファンドで活躍したメンバーがシンガポールに設立したエフィッシモ・キャピタル・マネジメント。そのエフィッシモが昨年7月の東芝の株主総会が公正に運用されたかどうかについて疑義があると調査を要求。

 今年3月の臨時株主総会でエフィッシモは3人の弁護士をメンバーとする調査委員会を設立することを提案して承認された。そして6月の株主総会までの流れの中で、議決権行使可能者(エフィッシモ)に対して、経済産業省が〝圧力〟をかけていた──ということが議論のテーマになった。

 この東芝問題は、東芝がわが国の経済安全保障に関わる企業だけに多くの関心を集めた。

 メディア等で、経産省が〝悪役〟に仕立てられた感があるが、この東芝問題は安全保障関連の企業支配への対策をどう構築するかという基本命題をはらむ。

 現在のところ、安全保障関連の企業支配への対策条項は、『外為法』による規制ぐらいしかない。

 エフィッシモ側の要求で設立された調査委員会報告書では、「経産省の行動は外為法の権限を逸脱している」──と批判している。
 これについて、「外為法の条文ぐらいしか、安全保障対応の規制がないというお寒い現状」という指摘もある。

 経営陣が株主との対話を進めるのは当然のこととして、経済安全保障が重要なテーマとして企業経営にのしかかっている今、国のあり方、企業経営のガバナンスのあり方が徹底的に問われる時が来ている。

「わたしは株主との対話をうんぬんする前に、対話をする資格のある株主なのかどうかを議論する必要があると思います。モノ言う株主と呼ばれる人たちに、モノ言う資格があるのかどうか が問題です」

 法学者で早稲田大学名誉教授の上村達男氏(元同大法学部長)はこう指摘し、次のように続ける。

「例えば、英独仏では株主がどういう株主かを確認する制度があって、匿名の株主は相手にしません。海外では株主情報を会社側が要求できる制度が当たり前なのですが、日本にはそれがありません」

 そして、こう付け加える。

「欧州における株主というのは、フランスではアソシエ(associé)と言われることが多く、英国だと友達、仲間という意味のカンパニー(company)ですね。でも、米国では金があって株を買えばそれだけで正当な株主ですから、人間を支配できるんだと。だから株主に対する考え方が米国と欧州では違いますし、対話に値するかどうかということにしても変わってくるわけです」

 改めて、企業経営は誰のものかという視点だけではなくて、誰のためにあるのか──という視点での議論も続く。


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定年退職のないシニアベンチャーの育成を

「起業家を続々生み出す米シリコンバレーがなぜ、すごいかというと、ベンチャーを育てるというエコシステムが出来ているんですね。単にお金を出すのでではなくて、一緒になって売り上げをつくっていくとか、人のリソース(資源)をそこで揃えるといったことができるということ。われわれもそういうエコシステムを作っていきたい」

 東京ニュービジネス協議会(NBC)会長の井川幸広氏(1960年生まれ、クリーク・アンド・リバー社社長)はNBC自体が起業家を育てるプラットフォームになる構想を掲げる。

 東京NBCに集う経営者は約415社。若手起業家はもちろん、家業を引き継ぐ2代目、3代目の経営者もいる。

 ベンチャー育成のための税制上の措置や、起業を活性化していくための政策提言を行うのが本来のNBCの役割。井川氏は昨年初め、東京NBC会長へ就任。東京証券取引所や米ナスダック(NASDAQ)とも連携。上場を目指す起業家を支援していく体制づくりだ。

 東京NBC自身が、ドイツ、イスラエルなどの海外の有力企業と連携し、その傘下企業との出会いを促していくなど、グローバルな視点で活動していきたいという。

 井川氏自身、医療職など専門職の人材派遣、さらにはテレビ・ゲーム・Web・広告などの人材派遣も手がけるクリーク・アンド・リバー社(C&R社)の社長としてコロナ危機を体験。

 今回のコロナ禍では大都市で医療崩壊の危機に何度か直面。C&R社は医師というプロフェッショナルをネットワーク化しているのが強み。グループ会社のメディカル・プリンシパル社がその業務を担当。日本の勤務医約20万人のうち、12万人が同社に登録している。

 勤務医で近い将来、開業したいという人のために病院やクリニックを設立して支援。

「中には、その医師が持つテクノロジーを活かして、こういう会社を一緒にやらないかという相談がドクターだけではなくて、大学の先生からもどんどん来るようになりました」

 少子高齢化が進む中、限られた人的資源をどう活用するか?

「ずっと言ってきているんですけど、定年退職のない仕組みを作りたいんですよ。例えばドクターというのは、定年退職はないし、弁護士もない」と井川氏は言い、次のように続ける。

「そういう人たちは、基本的に年齢で仕事をするのではなくて、知恵と経験職なんですね。
だから、それをちゃんと作りたいなと考えています。例えば弁護士と建築士の知恵の組み合わせで、シニアベンチャーがどんどん出てきてもおかしくない」

 コロナ禍、旧来の秩序や思考の枠をブチ破る挑戦が続く。

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