「なすべきことをなしゆたかにする(順理則裕)」──。社会にとって、必要なことをしていこうという創業者・渋沢栄一の言葉である。2021年3月期はPCR関連製品、液晶向けフィルム、国内シェア3割の包装資材などで堅調な業績を保持。「10年、15年前からやってきたものがようやく実ってきました」と東洋紡社長・竹内郁夫氏は新規事業育成の手応えを語る。
人と人との距離を見直す時代
─ コロナ禍での社長就任となりましたが、まず就任後の感想から聞かせて下さい。
竹内 わたしのキャリアとしては3分の1が営業で、3分の2がスタッフなんです。
社長になる前は、事業本部全体を見たりしていて、その経験を通じて、最後は1人1人の意識と言いますか、やる気が会社を支えているということを再認識しました。社長就任後は、社員1人1人を、英語で言うとenergize、元気づけたいということで、現場を回っています。
わたしは技術屋ではないので、指示を出すことはないのですが、逆に技術をそこまで詳しく知らないだけに、いろいろ素朴な質問ができますし、何よりも1人1人と同じ目線で話しているな、見てくれているなということを伝えたいと思っています。
直近で品質問題や工場の火災などを起こしたことで皆様に大変なご心配をお掛けする中で、会社を支えるのは現場の1人1人ですから、皆に責任感とやりがいを持って頑張ってもらえるよう現場を大事にしています。
─ では、改めて、コロナ危機下での経営はどうカジ取りしていますか?
竹内 はい。まずコロナ危機によって、非連続というか、今までとは違う局面が急に来たように感じられますが、実は流れがコロナによって早まっただけで、新たな時代がポンと来たわけではありません。
例えば、サステナビリティーへの関心も徐々に高まっていたものが、一気に、このままでは駄目だよねという実感につながったのではないでしょうか。
トレーサビリティー、品質問題も含めて、デジタルによって世の中が変わっていくと。特にアメリカがGAFAをはじめ、付加価値の見方が変わってきている中で、日本もDXが必要だと言って努力してきましたが、コロナによって改めてその必要性を感じたと。時代が変わったというよりも、コロナによってそういう変化の速度が速まったのだと感じています。
また、働き方の変化で、人と人がface to face で話す機会が減っただけに、逆に人と人のつながりが大事な時代になっていると思います。
昭和、平成、令和と時代が変わりましたが、昭和時代はアフターファイブも含めた濃密な人間関係があり、あうんの呼吸できたと思います。平成はどちらかというとリストラで人を減らしてしまって、ギリギリで回っているので余裕がなくなった。令和では、テレワークのような動き方も当たり前になりました。
もともと1人1人の価値観がズレるというか、方向がズレる世の中になる中、アメリカは文化的背景が違う人が集まっているので、それをまとめようとする動きが自然と働きますが、日本の場合は、放っておいても同じ日本で生まれたから同じ考え方と思ってきた。
それが今はもうバラバラです。
50代と20代、ジェネレーションX、Zと言われる世代になると、もう全然違います。
日本も段々とバラバラになる中で、コロナによって人と人との距離をもう1回見つめ直す時期になっていると感じています。
─ コロナ禍、テレワークの時代だからこそ、人間関係が大事ということですね。では、2021年3月期の決算ですが、売上横ばいで増益の理由は?
竹内 事業によって濃淡があるのですが、フィルム事業が好調だったこと。それから、前期はPCR関係が特に好調でした。
COVID関連の開発はここ1、2年ですけど、基礎技術を10年前から蓄積してきたことが活きました。
フィルムも液晶テレビの主要部材ですし、電子部品の製造に必要なフィルムも10年、15年前からやってきたものがようやく実ったということが1つあります。
もう1つは、世界の景気が沈んでいたので原料なども下がっていました。これは外部要因で、われわれの実力ではないですが、原料安のメリットもありました。
それから3つ目は、1年半前帝人がデュポンと提携してグローバル事業として展開してきたフィルム事業を譲り受けました。その効果が出ています。
それだけならもっと良い決算になったのですが、一方で衣料繊維が苦戦しました。百貨店のダメージや、自動車関係が前半、生産が落ちましたので、そういう影響があって、結果として、全体はプラスが上回り、数字としては比較的堅調であったと。
─ 取引先が多業種にわたることも、その要因ですか?
竹内 そうですね。事業が分散して、1つに偏っていないことは収益の安定性ということでは大きいと思いますね。
他社が真似できない液晶向けフィルム
─ フィルム事業は今、全体のどれ位を占める事業に?
竹内 今ですと、全体の3分の1強ですね。
大きいところは、今後のわれわれの方向にも関わってきますが、パッケージフィルムですね。スーパーやコンビニに並ぶ商品の多くにわれわれのフィルムが使われています。
今、海洋プラスチック問題をはじめいろいろと問題がありますが、一方で、商品の消費期限を延ばすためにも重要な食品包装用途ではわれわれのフィルムが貢献しています。これが今、国内トップシェアで収益の支えになっています。
もう1つは、先ほど申し上げた液晶関係、電子部材関連のフィルムです。
─ これは今後も期待できますね。
竹内 そうですね。電子部品や5G、6G時代になると、さらに精密な素材が要求されます。われわれはセラミックコンデンサー、これも砂のように小さな部品ですが、その製造工程で使用されるフィルムを提供しています。
─ 超マイクロの世界ですか?
竹内 ええ、超マイクロです。電子機器の回路が極小化しているので、製造過程でそこに誤差が生まれやすい。それが出ないようにする平滑性に優れたフィルムが、いま伸びています。
─ 他社は真似できない。
竹内 そうですね。日本のメーカーさんの一部はできますが、海外の企業では難しいですね。
─ 中国企業は?
竹内 できないと思います。この商品もお客さんに対してかなり密接な対応をするのと、聞いたことを実現する技術力、開発力が必要なので、おかげさまで、今は、このポジションを確保できている状況です。
帝人は帝人ですごい技術を持っていたので、それを融合することで、世界トップのフィルムメーカーを目指しています。
謙虚に言うと「目指す」ですが、実質、この世界の特定分野ではトップの製品もあります。
─ どのあたりに強みがあるのですか?
竹内 大きいのは液晶テレビですね。液晶に使われるフィルムは複数あるのですが、その中の偏光子を保護するフィルムで今、シェア4割になっていて、5割近くまでいけそうな状況です。
面白いのは、中国で特に好まれる液晶テレビはすごく大きいのですが、大きくなると、それまでのフィルムではゆがみが出やすくなります。ところが、われわれのフィルムの原料はポリエステルなので湿気を吸わないため、画面が大きくなってもゆがまない。
ポリエステルを原料にすることで、それを実現したということで非常に好評です。
その意味でも他社が真似できない製品でないと利益を出せず、最終的に残らないですね。これは、やはり10年、15年かけてやってきた成果だと思います。
だからこそ、他社が真似できず、しかも市場が伸びているところにいないといけない。
液晶のフィルムは比較的、付加価値高いものですが、ニッチ分野で必要だけど、大きく伸びない分野もあります。その意味では、爆発的に波に乗るもの、そういう用途に展開できたということが大きいですね。
そういうものを1つでも2つでも増やしていけば、利益水準もワンランク上がっていくと思っています。
─ 付加価値の高いナンバーワン商品を増やしていくと。
竹内 はい。ただ、ナンバーワンでもあまり大きく育っていない商品もあるので、それを伸びる分野に入れていくことも必要です。
当社の商品は、どちらかというと繊維技術から色々なものが出てきて、それも社内ベンチャー的に生まれてきた事業が多いのですが、東洋紡のサラリーマン的な組織の中では、どちらかというと一発当ててやろうというベンチャーマインドというよりも、つぶされないための論理が強いですね。そうなると、どうしても小粒なままになってしまう。その発想をどう変えるかが課題だと感じています。
─ 内部に刺激を与えるため外部の人材も登用している?
竹内 はい。外部の方にもたくさん来ていただいています。
いろんなキャリア、年齢の方が働いていますが、もともと紡績業界は合従連衡の歴史があるので、そこの違和感はないですね。
前社長で現会長の楢原(誠慈)も九州電力を経て東洋紡に入ってきましたし、最近も外部の人材が活躍してくれています。
─ 紡績という言葉がでましたが、繊維事業の現状は?
竹内 衣料繊維では、中東民族衣装用の生地が高級ゾーンではナンバーワンシェアです。今は、この中東事業やユニフォーム、スポーツ衣料用途など当社の素材の強みが発揮できる特定分野を中心に展開しています。
老朽化設備への設備投資
─ 事業の多角化で収益も安定してきましたが、今後の成長戦略は?
竹内 2021年が現中計の最終年度なので、今、22年度から25年度の中期経営計画と併せて30年に向けた長期ビジョン、サステナビリティービジョンを策定しています。
50年にカーボンニュートラルで実質ゼロを達成するためには、30年を目安に動いていかないと間に合わない。業界全体としても、サーキュラーエコノミー、カーボンニュートラルが話題になっていますので、われわれもそれに取り組みます。
30年に向けて、カーボンニュートラルだけでなく、ESGの視点を重視しながら、多様な人材が活躍できる職場や、レジリエントな工場にしていく。工場のインフラになると、2、3年では収まらないので、5年、10年かけて進めていく必要があります。
反省としてあるのは、過去に長期ビジョンはあったかもしれないけど、結果として幻のビジョンに終わったものもある。長期的に本腰を入れてやっていくという姿勢が少し弱かったと思います。
他社さんも共通していると思うのですが、昭和の後半に投資が集中しているので、設備がかなり老朽化しているんですね。
老朽化を言い訳にはできないのですが、老朽化が進むと、想定外の事故の可能性が高まります。それが今までお金がかかるとか、利益が出ないということで、あともう少し頑張ろうとやってきたのですが、それはもうやめて、使うべきところにはお金を使うということで見直しを徹底しています。
当面、お金は使う、利益は出づらいということになりますが、5年、10年先を見据えると、必ずや会社は強くなるということで臨んでいく次第です。
─ では最後に、今、社内で社員にはどんな呼びかけをされていますか?
竹内 社員に、第一声で伝えたことは「現場が主役」ということです。
冒頭の現場をまわる話になりますが、現場の1人1人が誇りとやりがいを持って働くような職場を実現したい。ぜひ皆で実現していきましょうと呼びかけています。
そうすれば、必ず企業価値が高まります。マルチステークホルダー主義になりますが、株主1番ではなくて従業員が頑張ってくれれば必ず業績も上がって、株主にも還元できるということで、それを謳っています。
単に誇りややりがいと言っても誰もピンと来ないかもしれませんが、創業者である渋沢栄一の座右の銘であり、当社の企業理念でもある「順理則裕(なすべきことをなし、ゆたかにする)」が示す通りです。少し分かりやすく説明すると「世の中にとって必要なことをやっていきましょう」ということです。
当社は、150年前、渋沢が唱えた「順理則裕」の言葉の通り、まさしくサステナビリティー、社会の問題解決の結果として企業が存続し発展するのだという志のもとで生まれた企業です。
当社の製品、事業を通じて社会に貢献し、誇りを持てる会社になろうという強いメッセージを送っています。
積水化学の「得意技」を磨き続ける経営とは
東洋紡社長 竹内 郁夫
たけうち・いくお
1962年10月香川県生まれ。85年神戸大学経済学部卒業後、東洋紡績(現東洋紡)入社。2018年執行役員、20年取締役兼常務執行役員、21年4月社長に就任。21年7月から日本化学繊維協会会長も務めている。
人と人との距離を見直す時代
─ コロナ禍での社長就任となりましたが、まず就任後の感想から聞かせて下さい。
竹内 わたしのキャリアとしては3分の1が営業で、3分の2がスタッフなんです。
社長になる前は、事業本部全体を見たりしていて、その経験を通じて、最後は1人1人の意識と言いますか、やる気が会社を支えているということを再認識しました。社長就任後は、社員1人1人を、英語で言うとenergize、元気づけたいということで、現場を回っています。
わたしは技術屋ではないので、指示を出すことはないのですが、逆に技術をそこまで詳しく知らないだけに、いろいろ素朴な質問ができますし、何よりも1人1人と同じ目線で話しているな、見てくれているなということを伝えたいと思っています。
直近で品質問題や工場の火災などを起こしたことで皆様に大変なご心配をお掛けする中で、会社を支えるのは現場の1人1人ですから、皆に責任感とやりがいを持って頑張ってもらえるよう現場を大事にしています。
─ では、改めて、コロナ危機下での経営はどうカジ取りしていますか?
竹内 はい。まずコロナ危機によって、非連続というか、今までとは違う局面が急に来たように感じられますが、実は流れがコロナによって早まっただけで、新たな時代がポンと来たわけではありません。
例えば、サステナビリティーへの関心も徐々に高まっていたものが、一気に、このままでは駄目だよねという実感につながったのではないでしょうか。
トレーサビリティー、品質問題も含めて、デジタルによって世の中が変わっていくと。特にアメリカがGAFAをはじめ、付加価値の見方が変わってきている中で、日本もDXが必要だと言って努力してきましたが、コロナによって改めてその必要性を感じたと。時代が変わったというよりも、コロナによってそういう変化の速度が速まったのだと感じています。
また、働き方の変化で、人と人がface to face で話す機会が減っただけに、逆に人と人のつながりが大事な時代になっていると思います。
昭和、平成、令和と時代が変わりましたが、昭和時代はアフターファイブも含めた濃密な人間関係があり、あうんの呼吸できたと思います。平成はどちらかというとリストラで人を減らしてしまって、ギリギリで回っているので余裕がなくなった。令和では、テレワークのような動き方も当たり前になりました。
もともと1人1人の価値観がズレるというか、方向がズレる世の中になる中、アメリカは文化的背景が違う人が集まっているので、それをまとめようとする動きが自然と働きますが、日本の場合は、放っておいても同じ日本で生まれたから同じ考え方と思ってきた。
それが今はもうバラバラです。
50代と20代、ジェネレーションX、Zと言われる世代になると、もう全然違います。
日本も段々とバラバラになる中で、コロナによって人と人との距離をもう1回見つめ直す時期になっていると感じています。
─ コロナ禍、テレワークの時代だからこそ、人間関係が大事ということですね。では、2021年3月期の決算ですが、売上横ばいで増益の理由は?
竹内 事業によって濃淡があるのですが、フィルム事業が好調だったこと。それから、前期はPCR関係が特に好調でした。
COVID関連の開発はここ1、2年ですけど、基礎技術を10年前から蓄積してきたことが活きました。
フィルムも液晶テレビの主要部材ですし、電子部品の製造に必要なフィルムも10年、15年前からやってきたものがようやく実ったということが1つあります。
もう1つは、世界の景気が沈んでいたので原料なども下がっていました。これは外部要因で、われわれの実力ではないですが、原料安のメリットもありました。
それから3つ目は、1年半前帝人がデュポンと提携してグローバル事業として展開してきたフィルム事業を譲り受けました。その効果が出ています。
それだけならもっと良い決算になったのですが、一方で衣料繊維が苦戦しました。百貨店のダメージや、自動車関係が前半、生産が落ちましたので、そういう影響があって、結果として、全体はプラスが上回り、数字としては比較的堅調であったと。
─ 取引先が多業種にわたることも、その要因ですか?
竹内 そうですね。事業が分散して、1つに偏っていないことは収益の安定性ということでは大きいと思いますね。
他社が真似できない液晶向けフィルム
─ フィルム事業は今、全体のどれ位を占める事業に?
竹内 今ですと、全体の3分の1強ですね。
大きいところは、今後のわれわれの方向にも関わってきますが、パッケージフィルムですね。スーパーやコンビニに並ぶ商品の多くにわれわれのフィルムが使われています。
今、海洋プラスチック問題をはじめいろいろと問題がありますが、一方で、商品の消費期限を延ばすためにも重要な食品包装用途ではわれわれのフィルムが貢献しています。これが今、国内トップシェアで収益の支えになっています。
もう1つは、先ほど申し上げた液晶関係、電子部材関連のフィルムです。
─ これは今後も期待できますね。
竹内 そうですね。電子部品や5G、6G時代になると、さらに精密な素材が要求されます。われわれはセラミックコンデンサー、これも砂のように小さな部品ですが、その製造工程で使用されるフィルムを提供しています。
─ 超マイクロの世界ですか?
竹内 ええ、超マイクロです。電子機器の回路が極小化しているので、製造過程でそこに誤差が生まれやすい。それが出ないようにする平滑性に優れたフィルムが、いま伸びています。
─ 他社は真似できない。
竹内 そうですね。日本のメーカーさんの一部はできますが、海外の企業では難しいですね。
─ 中国企業は?
竹内 できないと思います。この商品もお客さんに対してかなり密接な対応をするのと、聞いたことを実現する技術力、開発力が必要なので、おかげさまで、今は、このポジションを確保できている状況です。
帝人は帝人ですごい技術を持っていたので、それを融合することで、世界トップのフィルムメーカーを目指しています。
謙虚に言うと「目指す」ですが、実質、この世界の特定分野ではトップの製品もあります。
─ どのあたりに強みがあるのですか?
竹内 大きいのは液晶テレビですね。液晶に使われるフィルムは複数あるのですが、その中の偏光子を保護するフィルムで今、シェア4割になっていて、5割近くまでいけそうな状況です。
面白いのは、中国で特に好まれる液晶テレビはすごく大きいのですが、大きくなると、それまでのフィルムではゆがみが出やすくなります。ところが、われわれのフィルムの原料はポリエステルなので湿気を吸わないため、画面が大きくなってもゆがまない。
ポリエステルを原料にすることで、それを実現したということで非常に好評です。
その意味でも他社が真似できない製品でないと利益を出せず、最終的に残らないですね。これは、やはり10年、15年かけてやってきた成果だと思います。
だからこそ、他社が真似できず、しかも市場が伸びているところにいないといけない。
液晶のフィルムは比較的、付加価値高いものですが、ニッチ分野で必要だけど、大きく伸びない分野もあります。その意味では、爆発的に波に乗るもの、そういう用途に展開できたということが大きいですね。
そういうものを1つでも2つでも増やしていけば、利益水準もワンランク上がっていくと思っています。
─ 付加価値の高いナンバーワン商品を増やしていくと。
竹内 はい。ただ、ナンバーワンでもあまり大きく育っていない商品もあるので、それを伸びる分野に入れていくことも必要です。
当社の商品は、どちらかというと繊維技術から色々なものが出てきて、それも社内ベンチャー的に生まれてきた事業が多いのですが、東洋紡のサラリーマン的な組織の中では、どちらかというと一発当ててやろうというベンチャーマインドというよりも、つぶされないための論理が強いですね。そうなると、どうしても小粒なままになってしまう。その発想をどう変えるかが課題だと感じています。
─ 内部に刺激を与えるため外部の人材も登用している?
竹内 はい。外部の方にもたくさん来ていただいています。
いろんなキャリア、年齢の方が働いていますが、もともと紡績業界は合従連衡の歴史があるので、そこの違和感はないですね。
前社長で現会長の楢原(誠慈)も九州電力を経て東洋紡に入ってきましたし、最近も外部の人材が活躍してくれています。
─ 紡績という言葉がでましたが、繊維事業の現状は?
竹内 衣料繊維では、中東民族衣装用の生地が高級ゾーンではナンバーワンシェアです。今は、この中東事業やユニフォーム、スポーツ衣料用途など当社の素材の強みが発揮できる特定分野を中心に展開しています。
老朽化設備への設備投資
─ 事業の多角化で収益も安定してきましたが、今後の成長戦略は?
竹内 2021年が現中計の最終年度なので、今、22年度から25年度の中期経営計画と併せて30年に向けた長期ビジョン、サステナビリティービジョンを策定しています。
50年にカーボンニュートラルで実質ゼロを達成するためには、30年を目安に動いていかないと間に合わない。業界全体としても、サーキュラーエコノミー、カーボンニュートラルが話題になっていますので、われわれもそれに取り組みます。
30年に向けて、カーボンニュートラルだけでなく、ESGの視点を重視しながら、多様な人材が活躍できる職場や、レジリエントな工場にしていく。工場のインフラになると、2、3年では収まらないので、5年、10年かけて進めていく必要があります。
反省としてあるのは、過去に長期ビジョンはあったかもしれないけど、結果として幻のビジョンに終わったものもある。長期的に本腰を入れてやっていくという姿勢が少し弱かったと思います。
他社さんも共通していると思うのですが、昭和の後半に投資が集中しているので、設備がかなり老朽化しているんですね。
老朽化を言い訳にはできないのですが、老朽化が進むと、想定外の事故の可能性が高まります。それが今までお金がかかるとか、利益が出ないということで、あともう少し頑張ろうとやってきたのですが、それはもうやめて、使うべきところにはお金を使うということで見直しを徹底しています。
当面、お金は使う、利益は出づらいということになりますが、5年、10年先を見据えると、必ずや会社は強くなるということで臨んでいく次第です。
─ では最後に、今、社内で社員にはどんな呼びかけをされていますか?
竹内 社員に、第一声で伝えたことは「現場が主役」ということです。
冒頭の現場をまわる話になりますが、現場の1人1人が誇りとやりがいを持って働くような職場を実現したい。ぜひ皆で実現していきましょうと呼びかけています。
そうすれば、必ず企業価値が高まります。マルチステークホルダー主義になりますが、株主1番ではなくて従業員が頑張ってくれれば必ず業績も上がって、株主にも還元できるということで、それを謳っています。
単に誇りややりがいと言っても誰もピンと来ないかもしれませんが、創業者である渋沢栄一の座右の銘であり、当社の企業理念でもある「順理則裕(なすべきことをなし、ゆたかにする)」が示す通りです。少し分かりやすく説明すると「世の中にとって必要なことをやっていきましょう」ということです。
当社は、150年前、渋沢が唱えた「順理則裕」の言葉の通り、まさしくサステナビリティー、社会の問題解決の結果として企業が存続し発展するのだという志のもとで生まれた企業です。
当社の製品、事業を通じて社会に貢献し、誇りを持てる会社になろうという強いメッセージを送っています。
積水化学の「得意技」を磨き続ける経営とは
東洋紡社長 竹内 郁夫
たけうち・いくお
1962年10月香川県生まれ。85年神戸大学経済学部卒業後、東洋紡績(現東洋紡)入社。2018年執行役員、20年取締役兼常務執行役員、21年4月社長に就任。21年7月から日本化学繊維協会会長も務めている。