創業140年以上変わらぬパーパス
─ 今はコロナ禍、多発する自然災害など非常にリスクが多く、変化の激しい時代です。その中で改めて東京海上ホールディングスのパーパス(purpose=存在意義)をどう考えますか。
小宮 当社は今年で創業142年ですが、やはり我々のビジョン、パーパスに戻ることが大事だと考えています。
我々のパーパスは社会課題の解決を通じて、お客様の「いざ」を支えることです。この「いざ」には、例えば事故や災害があった時に、明日からまた復旧していこうという「いざ」と、明日にチャレンジする、まだ見ない世界、道を切り拓いていく時の「いざ」があると思います。
安全を提供して安心を広げることで、お客様の「いざ」を支えていく。「世のため人のため」といいますか、そうした活動を通じて、世の中にとってなくてはならない会社になるということが、140年以上変わらぬパーパスです。
今、世界46カ国・地域に約4万3000人の従業員がいますが、このパーパスをグローバルで、1人ひとりの社員にどう浸透させ、実現していくかが大事になります。
─ パーパスの実現に向けて、どう取り組んでいますか。
小宮 グループ内では「パーパス・ドリブン経営」と言っています。
上司の指示や命令では、それを出している人を超えることはできませんが、パーパスを成し遂げるんだという思いが強ければ天井やゴールなく超えて、その先に行くことができます。今、そこに最も力を込めて仕事をしているところです。
─ 前身の1社である東京海上保険会社の設立には「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が関わっているわけですが、改めて渋沢翁の考え方をどう捉えていますか。
小宮 先程の話とも関連しますが、私達の事業の成長は社会課題の解決によってのみ実現しますから、両者は一体となっています。チャリティやCSR(企業の社会的責任)も大切ですが、ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏が提唱しているCSV( Creating Shared Value =共通価値の創造)のように、本業に注力すればするほど、世のため人のために役立っていく方向にビジネスをフォーカスしてきた142年だと思います。
元々、海運業の船荷を補償する仕事からスタートしたのも、日本の貿易をどう支えるかということだったと思いますし、日本に自動車が1000台ほどしか走っていなかった1914年に、日本で初めて自動車保険の営業認可を受けました。
さらに、1989年には介護費用保険をスタートさせました。少し早かったこともあり、ものすごく売れたという保険ではありませんが、社会課題とは何なのか、その中で我々が一番お役に立つ領域はどこであるべきかを常に考えてきたのです。
─ 本業を通じて社会に貢献する。「私益と公益の高い次元での両立」を図った渋沢の精神に通ずるものがあると。
小宮 そうですね。ただ、社外取締役である日本商工会議所会頭の三村明夫さんにも言われますが、「言うは易し行うは難し」です。しかし、これまでも取り組んできている会社ですし、不確実な時代だからこそ、その原点に戻ることが必要ではないかと考えています。
原点に戻るという意味合いも込めて、21年4月にグループサステナビリティ委員会を創設、グループCSUO( Chief Sustainability Officer)を置いています。
グループ企業間のシナジーを追求
─ 今、東京海上グループは日本、欧米、アジアに拠点を持っていますが、この一体感はどう醸成していきますか。
小宮 我々のグループ一体経営の姿は、わかりやすく言うと「グローカル×シナジー」です。強いローカルがあって初めて、グローバル企業になることができると。
その上で、それぞれのグループ企業間のシナジーを出していくための取り組みを進めています。今46カ国・地域で事業を行っていますが、それぞれのグループ企業が持つ専門性、英知と、グループでのビジネスのパーパスを実現しようという熱意、一体感をグループ全体の政策のど真ん中に取り込んでおり、その手応えを感じています。
─ これまで様々な海外企業を買収して海外事業を成長させてきましたが、その成果が出てきていると。
小宮 そうですね。例えば19年に買収を発表した米国の保険会社・ピュアグループを巡っても、グループシナジーを発揮していくための定期的な会合が自然に立ち上がっています。さらに、米HCC、米フィラデルフィア、米デルファイなど他のグループ企業とのコミュニケーションの中で、お互いの商品を販売し合ったり、コストシナジーを利かせていこうといった取り組みが進んでいるんです。
各社が東京海上グループのプラットフォームを活用して、「フォア・ザ・グループ」で自発的に、非常に熱心に取り組んでくれています。
─ 日・米・欧・アジアそれぞれのよい部分を組み合わせていくと。
小宮 はい。日本型経営には長期的な目線を持って、「人」を非常に大切にしていくという良さがありますが、全てが良いとは思いません。
では欧米型経営はどうかというと、最近は少し変わってはきましたが、短期的、合理主義的で、良い部分もありますし、そうではない部分もある。そして世界全体がそうした方向になってきている感じがしないではありません。
そうした中で、やはり日本の良さと欧米の良さを、お互いが理解し合っていく中でエクスクィジット・ミディアム( exquisite medium =絶妙な中庸)を探していくことが大事だと思います。
例えば、12年に買収したグループの保険会社・米デルファイのCEOは現在、東京海上グループ全体の資産運用の共同ヘッドを務めています。
東京海上グループ、そしてグループ企業それぞれが、グループ一体経営という観点の下で成長し、さらに進化していけば、簡単には真似されない独自性が、さらに強くなるだろうと思っています。
─ グローバル化が進んでいるわけですが、当面はあくまでも本社は東京ということになりますか。
小宮 そうですね。ただ、本社機能が分散化しているイメージです。東京海上ホールディングスは日本の会社で、登記しているのは東京ですが、資産運用ビジネスの半分はニューヨークが担っていますし、サイバー保険のヘッドオフィスはロンドンです。
ビジネスリスクの分散は、東京海上グループの中でとても重要なことですが、本社機能についても分散しつつあります。やはり最も専門性を持つ人間に、グループ全体の政策をリードしてもらうという考え方です。
今、グループ全体で約4万3000人の従業員がいますが、約1万8000人が海外、約2万5000人が日本です。
─ 社内の公用語を英語にしていく可能性はありますか。
小宮 今、例えば取締役会での説明に海外のメンバーが入ったり、経営会議にも海外のメンバーが入っていますが、英語と日本語が混ざった状態で、同時通訳を活用しながら進めています。いずれ英語で話すようにする必要があるかなとは思いますが、まだ決めていません。
ただ、大事なのは議論の中身です。その兼ね合いもありますから、タイミングは課題です。
多様性と多様性の「化学反応」を
─ ところで近年、D&I(Diversity & Inclusion = 多様性と包含)は企業にとっても大きな課題ですが、考え方を聞かせて下さい。
小宮 21 年4月に「ダイバーシティカウンシル」という、グローバルなグループの委員会を立ち上げました。大きな流れの中で、多様性を尊重し、活用することがグループの構成を考えても必要だと考えています。
もう一つ、私はグループ内で多様性について、「成長戦略の一丁目一番地だ」という言い方をしています。なぜ、多様性を促進するのかという「Why」が大変重要なんです。
多様性には人間の属性もありますが、他にも「経験」の多様性、物事を見る時の「角度」の多様性もあります。
一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生は「知的コンバット」とおっしゃっていますが、我々は多様性と多様性の「化学反応」によって、新しい気付きやイノベーションが生まれると。
今回の新しい中期経営計画でも「新しいアプローチ×新しいマーケット」という言い方をしていますが、その中で仮説検証サイクルをスピーディに回すことがとても大事なことです。
その仮説をつくっていく時にも、やはり多様性の化学反応が必要です。
良い仮説ができたら、それをスピード感を持って速く実現・実行する。それがうまくいった場合には、それを速く展開していく。うまくいかなかったら「また次に行くぞ」という形で切り替える。
この動きを速くしていくことの原点が多様性ですから、グループとして元々持つポテンシャルの部分にフォーカスしていきたいと思っています。
【関連記事】東京海上HDが注力する「データ活用」戦略「損保とデジタルの掛け合わせで新たな事業領域を」
─ 今はコロナ禍、多発する自然災害など非常にリスクが多く、変化の激しい時代です。その中で改めて東京海上ホールディングスのパーパス(purpose=存在意義)をどう考えますか。
小宮 当社は今年で創業142年ですが、やはり我々のビジョン、パーパスに戻ることが大事だと考えています。
我々のパーパスは社会課題の解決を通じて、お客様の「いざ」を支えることです。この「いざ」には、例えば事故や災害があった時に、明日からまた復旧していこうという「いざ」と、明日にチャレンジする、まだ見ない世界、道を切り拓いていく時の「いざ」があると思います。
安全を提供して安心を広げることで、お客様の「いざ」を支えていく。「世のため人のため」といいますか、そうした活動を通じて、世の中にとってなくてはならない会社になるということが、140年以上変わらぬパーパスです。
今、世界46カ国・地域に約4万3000人の従業員がいますが、このパーパスをグローバルで、1人ひとりの社員にどう浸透させ、実現していくかが大事になります。
─ パーパスの実現に向けて、どう取り組んでいますか。
小宮 グループ内では「パーパス・ドリブン経営」と言っています。
上司の指示や命令では、それを出している人を超えることはできませんが、パーパスを成し遂げるんだという思いが強ければ天井やゴールなく超えて、その先に行くことができます。今、そこに最も力を込めて仕事をしているところです。
─ 前身の1社である東京海上保険会社の設立には「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一が関わっているわけですが、改めて渋沢翁の考え方をどう捉えていますか。
小宮 先程の話とも関連しますが、私達の事業の成長は社会課題の解決によってのみ実現しますから、両者は一体となっています。チャリティやCSR(企業の社会的責任)も大切ですが、ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏が提唱しているCSV( Creating Shared Value =共通価値の創造)のように、本業に注力すればするほど、世のため人のために役立っていく方向にビジネスをフォーカスしてきた142年だと思います。
元々、海運業の船荷を補償する仕事からスタートしたのも、日本の貿易をどう支えるかということだったと思いますし、日本に自動車が1000台ほどしか走っていなかった1914年に、日本で初めて自動車保険の営業認可を受けました。
さらに、1989年には介護費用保険をスタートさせました。少し早かったこともあり、ものすごく売れたという保険ではありませんが、社会課題とは何なのか、その中で我々が一番お役に立つ領域はどこであるべきかを常に考えてきたのです。
─ 本業を通じて社会に貢献する。「私益と公益の高い次元での両立」を図った渋沢の精神に通ずるものがあると。
小宮 そうですね。ただ、社外取締役である日本商工会議所会頭の三村明夫さんにも言われますが、「言うは易し行うは難し」です。しかし、これまでも取り組んできている会社ですし、不確実な時代だからこそ、その原点に戻ることが必要ではないかと考えています。
原点に戻るという意味合いも込めて、21年4月にグループサステナビリティ委員会を創設、グループCSUO( Chief Sustainability Officer)を置いています。
グループ企業間のシナジーを追求
─ 今、東京海上グループは日本、欧米、アジアに拠点を持っていますが、この一体感はどう醸成していきますか。
小宮 我々のグループ一体経営の姿は、わかりやすく言うと「グローカル×シナジー」です。強いローカルがあって初めて、グローバル企業になることができると。
その上で、それぞれのグループ企業間のシナジーを出していくための取り組みを進めています。今46カ国・地域で事業を行っていますが、それぞれのグループ企業が持つ専門性、英知と、グループでのビジネスのパーパスを実現しようという熱意、一体感をグループ全体の政策のど真ん中に取り込んでおり、その手応えを感じています。
─ これまで様々な海外企業を買収して海外事業を成長させてきましたが、その成果が出てきていると。
小宮 そうですね。例えば19年に買収を発表した米国の保険会社・ピュアグループを巡っても、グループシナジーを発揮していくための定期的な会合が自然に立ち上がっています。さらに、米HCC、米フィラデルフィア、米デルファイなど他のグループ企業とのコミュニケーションの中で、お互いの商品を販売し合ったり、コストシナジーを利かせていこうといった取り組みが進んでいるんです。
各社が東京海上グループのプラットフォームを活用して、「フォア・ザ・グループ」で自発的に、非常に熱心に取り組んでくれています。
─ 日・米・欧・アジアそれぞれのよい部分を組み合わせていくと。
小宮 はい。日本型経営には長期的な目線を持って、「人」を非常に大切にしていくという良さがありますが、全てが良いとは思いません。
では欧米型経営はどうかというと、最近は少し変わってはきましたが、短期的、合理主義的で、良い部分もありますし、そうではない部分もある。そして世界全体がそうした方向になってきている感じがしないではありません。
そうした中で、やはり日本の良さと欧米の良さを、お互いが理解し合っていく中でエクスクィジット・ミディアム( exquisite medium =絶妙な中庸)を探していくことが大事だと思います。
例えば、12年に買収したグループの保険会社・米デルファイのCEOは現在、東京海上グループ全体の資産運用の共同ヘッドを務めています。
東京海上グループ、そしてグループ企業それぞれが、グループ一体経営という観点の下で成長し、さらに進化していけば、簡単には真似されない独自性が、さらに強くなるだろうと思っています。
─ グローバル化が進んでいるわけですが、当面はあくまでも本社は東京ということになりますか。
小宮 そうですね。ただ、本社機能が分散化しているイメージです。東京海上ホールディングスは日本の会社で、登記しているのは東京ですが、資産運用ビジネスの半分はニューヨークが担っていますし、サイバー保険のヘッドオフィスはロンドンです。
ビジネスリスクの分散は、東京海上グループの中でとても重要なことですが、本社機能についても分散しつつあります。やはり最も専門性を持つ人間に、グループ全体の政策をリードしてもらうという考え方です。
今、グループ全体で約4万3000人の従業員がいますが、約1万8000人が海外、約2万5000人が日本です。
─ 社内の公用語を英語にしていく可能性はありますか。
小宮 今、例えば取締役会での説明に海外のメンバーが入ったり、経営会議にも海外のメンバーが入っていますが、英語と日本語が混ざった状態で、同時通訳を活用しながら進めています。いずれ英語で話すようにする必要があるかなとは思いますが、まだ決めていません。
ただ、大事なのは議論の中身です。その兼ね合いもありますから、タイミングは課題です。
多様性と多様性の「化学反応」を
─ ところで近年、D&I(Diversity & Inclusion = 多様性と包含)は企業にとっても大きな課題ですが、考え方を聞かせて下さい。
小宮 21 年4月に「ダイバーシティカウンシル」という、グローバルなグループの委員会を立ち上げました。大きな流れの中で、多様性を尊重し、活用することがグループの構成を考えても必要だと考えています。
もう一つ、私はグループ内で多様性について、「成長戦略の一丁目一番地だ」という言い方をしています。なぜ、多様性を促進するのかという「Why」が大変重要なんです。
多様性には人間の属性もありますが、他にも「経験」の多様性、物事を見る時の「角度」の多様性もあります。
一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生は「知的コンバット」とおっしゃっていますが、我々は多様性と多様性の「化学反応」によって、新しい気付きやイノベーションが生まれると。
今回の新しい中期経営計画でも「新しいアプローチ×新しいマーケット」という言い方をしていますが、その中で仮説検証サイクルをスピーディに回すことがとても大事なことです。
その仮説をつくっていく時にも、やはり多様性の化学反応が必要です。
良い仮説ができたら、それをスピード感を持って速く実現・実行する。それがうまくいった場合には、それを速く展開していく。うまくいかなかったら「また次に行くぞ」という形で切り替える。
この動きを速くしていくことの原点が多様性ですから、グループとして元々持つポテンシャルの部分にフォーカスしていきたいと思っています。
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