※9月22日時点
変化するロックダウンへの姿勢
菅義偉首相が退陣を表明し、自民党は総裁選に突入した。最近の各社世論調査によると同党は比較的堅調で、党内には「衆院選で与党過半数割れの危機は脱した」という見方が広がる。
新総裁が次期首相として日本のかじ取りを担うのは事実。とすれば、総裁選は単なる人気投票ではなく、コロナ禍の中で日本再生を図る政策を打ち出せるかどうかが課題となる。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は東京や大阪など19都道府県で9月30日まで延長された。菅首相は退陣前に解除を決定したい考えだが、新型コロナ対策が次の政権でも最大の課題になるのは間違いない。
菅内閣でワクチン接種政策を担当してきた河野太郎行政改革担当相は、高齢者への接種が7月末にほぼ完了したことなどを実績としてアピールする。一方で、職場接種の進捗が滞ったり、ワクチンが接種会場に届かなったりするなど、「ワクチン担当相として河野氏にも責任の一端がある」という声も出た。
今後の感染再拡大に備え、ロックダウン(都市封鎖)についても「どういう法律、体制、システムが準備できるか議論していく必要がある」と前向きだ。高市早苗前総務相も法整備の検討を公約した。この点はロックダウンに一貫して慎重だった菅政権との違いだ。
岸田文雄前政調会長は「医療難民ゼロ」「健康危機管理庁創設」などを打ち出した。緊急事態宣言の発令と延長を繰り返し、国民の慣れを招いた菅政権の失敗を意識し、政策の狙いについて「国民の協力を得る納得感ある説明」を掲げる。
経済政策では安倍、菅両政権が進めた「アベノミクス」の継続か転換かがポイントになる。安倍晋三前首相の支援を受ける高市氏は、金融緩和、機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資という「三本の矢」を提唱し、アベノミクスを継承する姿勢を鮮明にしている。
岸田氏は10日の記者会見で「小泉(純一郎元首相)改革以降の新自由主義的政策を転換する」と強調した。ただ、安倍氏が影響力を持つ細田派や第2派閥の麻生派に配慮し、岸田氏がアベノミクスを正面から批判しているわけではない。
格差是正のために経済成長と分配の両立を図るという岸田氏の主張は、安倍政権が提唱した「成長と分配の好循環」に重なる。これに対し、河野氏は「アベノミクスで企業部門は非常に利益を上げることができたが、残念ながら、それが賃金まで波及してこなかった」と批判的だ。
アベノミクスのとき、企業は増配や自社株買いで自社の株価の上昇機運をつくり、株主や投資家に報いてきたが、肝心の一般社員の賃金水準は上がってこなかったという現実。そこで河野氏は「企業から人へ」をスローガンに分配を進めていく考え。労働分配率を一定水準以上にした企業に法人税の特例措置を設けるなど、「個人を重視する経済」を柱に据えた。
【政界】自民党支持層の「菅離れ」加速 衆院選を前に総裁選は波乱含み
税制健全化への道筋見えず
半面、各候補の主張から財政健全化への道筋は見えてこない。
高市氏は、物価上昇目標2%の達成までは基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を凍結すると宣言した。
岸田氏も「財政再建の旗を降ろすことはしない」としつつ、コロナ禍のもとで「数十兆円規模の経済対策を早急に取りまとめたい」と述べている。
河野氏は経済対策の規模には言及していないが、「有事には財政(出動)は避けられない」と理解を示す。
立憲民主党など野党も経済対策を競っており、衆院選と来年夏の参院選をにらんだ「ばらまき合戦」の様相が強まれば、財政規律はさらに緩みかねない。
2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は菅政権ですでに国際公約になっている。
このため、河野氏は総裁選を前に「まずきちんと省エネをやり、再生可能エネルギーを最大限導入する。それでも足りないところは、安全が確認された原発を再稼働していくのが現実的だろう」と脱原発の持論を軌道修正した。
しかし、河野氏は原発の新増設には否定的だ。一方、岸田氏は既存の原発の再稼働を優先し、新増設への態度を明確にしていない。自民党のカーボンニュートラル実現推進本部は、新増設や建て替えを求める決議を5月にまとめており、衆院選後、新首相と党の綱引きが始まるかもしれない。
新型コロナの影響で停滞した外交は仕切り直しになる。9月24日には米国で日米豪印4カ国(クアッド)首脳会議が初めて対面形式で開かれ、菅首相が出席する予定。
これに先立ち、バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は9日、対立が続く両国関係について電話で協議した。動き始めた米中の間で日本がどう存在感を示すか、新首相は早々に外交手腕を試されそうだ。岸田、河野両氏には外相経験があり、岸田氏は最近、半導体確保など経済安全保障にも傾斜している。
今回の総裁選は派閥単位で特定の候補を推す展開になっていない。それだけに、新総裁には流動化する党内を束ねる指導力が不可欠だ。ご祝儀相場で衆院選を乗り切ったとしても、山積する政策課題への対処を誤れば、次期政権は早晩、混乱に逆戻りする。
元防衛大臣・森本敏が語る「アフガニスタン情勢と日本につきつけられた教訓」
変化するロックダウンへの姿勢
菅義偉首相が退陣を表明し、自民党は総裁選に突入した。最近の各社世論調査によると同党は比較的堅調で、党内には「衆院選で与党過半数割れの危機は脱した」という見方が広がる。
新総裁が次期首相として日本のかじ取りを担うのは事実。とすれば、総裁選は単なる人気投票ではなく、コロナ禍の中で日本再生を図る政策を打ち出せるかどうかが課題となる。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は東京や大阪など19都道府県で9月30日まで延長された。菅首相は退陣前に解除を決定したい考えだが、新型コロナ対策が次の政権でも最大の課題になるのは間違いない。
菅内閣でワクチン接種政策を担当してきた河野太郎行政改革担当相は、高齢者への接種が7月末にほぼ完了したことなどを実績としてアピールする。一方で、職場接種の進捗が滞ったり、ワクチンが接種会場に届かなったりするなど、「ワクチン担当相として河野氏にも責任の一端がある」という声も出た。
今後の感染再拡大に備え、ロックダウン(都市封鎖)についても「どういう法律、体制、システムが準備できるか議論していく必要がある」と前向きだ。高市早苗前総務相も法整備の検討を公約した。この点はロックダウンに一貫して慎重だった菅政権との違いだ。
岸田文雄前政調会長は「医療難民ゼロ」「健康危機管理庁創設」などを打ち出した。緊急事態宣言の発令と延長を繰り返し、国民の慣れを招いた菅政権の失敗を意識し、政策の狙いについて「国民の協力を得る納得感ある説明」を掲げる。
経済政策では安倍、菅両政権が進めた「アベノミクス」の継続か転換かがポイントになる。安倍晋三前首相の支援を受ける高市氏は、金融緩和、機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資という「三本の矢」を提唱し、アベノミクスを継承する姿勢を鮮明にしている。
岸田氏は10日の記者会見で「小泉(純一郎元首相)改革以降の新自由主義的政策を転換する」と強調した。ただ、安倍氏が影響力を持つ細田派や第2派閥の麻生派に配慮し、岸田氏がアベノミクスを正面から批判しているわけではない。
格差是正のために経済成長と分配の両立を図るという岸田氏の主張は、安倍政権が提唱した「成長と分配の好循環」に重なる。これに対し、河野氏は「アベノミクスで企業部門は非常に利益を上げることができたが、残念ながら、それが賃金まで波及してこなかった」と批判的だ。
アベノミクスのとき、企業は増配や自社株買いで自社の株価の上昇機運をつくり、株主や投資家に報いてきたが、肝心の一般社員の賃金水準は上がってこなかったという現実。そこで河野氏は「企業から人へ」をスローガンに分配を進めていく考え。労働分配率を一定水準以上にした企業に法人税の特例措置を設けるなど、「個人を重視する経済」を柱に据えた。
【政界】自民党支持層の「菅離れ」加速 衆院選を前に総裁選は波乱含み
税制健全化への道筋見えず
半面、各候補の主張から財政健全化への道筋は見えてこない。
高市氏は、物価上昇目標2%の達成までは基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を凍結すると宣言した。
岸田氏も「財政再建の旗を降ろすことはしない」としつつ、コロナ禍のもとで「数十兆円規模の経済対策を早急に取りまとめたい」と述べている。
河野氏は経済対策の規模には言及していないが、「有事には財政(出動)は避けられない」と理解を示す。
立憲民主党など野党も経済対策を競っており、衆院選と来年夏の参院選をにらんだ「ばらまき合戦」の様相が強まれば、財政規律はさらに緩みかねない。
2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」は菅政権ですでに国際公約になっている。
このため、河野氏は総裁選を前に「まずきちんと省エネをやり、再生可能エネルギーを最大限導入する。それでも足りないところは、安全が確認された原発を再稼働していくのが現実的だろう」と脱原発の持論を軌道修正した。
しかし、河野氏は原発の新増設には否定的だ。一方、岸田氏は既存の原発の再稼働を優先し、新増設への態度を明確にしていない。自民党のカーボンニュートラル実現推進本部は、新増設や建て替えを求める決議を5月にまとめており、衆院選後、新首相と党の綱引きが始まるかもしれない。
新型コロナの影響で停滞した外交は仕切り直しになる。9月24日には米国で日米豪印4カ国(クアッド)首脳会議が初めて対面形式で開かれ、菅首相が出席する予定。
これに先立ち、バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は9日、対立が続く両国関係について電話で協議した。動き始めた米中の間で日本がどう存在感を示すか、新首相は早々に外交手腕を試されそうだ。岸田、河野両氏には外相経験があり、岸田氏は最近、半導体確保など経済安全保障にも傾斜している。
今回の総裁選は派閥単位で特定の候補を推す展開になっていない。それだけに、新総裁には流動化する党内を束ねる指導力が不可欠だ。ご祝儀相場で衆院選を乗り切ったとしても、山積する政策課題への対処を誤れば、次期政権は早晩、混乱に逆戻りする。
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