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5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (82)

財経新聞 2024年8月13日 9時28分

 社会人を長くやっていると、様々なタイミングで「転機」を迎えます。転機とは、何らかの出来事が起こることや予期したことが起きないことによって引き起こされる変化のこと。「他の状態に転じるきっかけ」とも解釈されます。具体的には、転職、結婚、出産、離婚、引っ越し、失業、病気など「個人にとっての独自の出来事」です。

 人生は転機の連続である。

 そう語るのは、カウンセリング心理学の教授であるナンシー・K・シュロスバーグ。彼女は、「転機」を3種類に識別・定義しました。

 (1)予測していた転機(出来事)  (2)予測していなかった転機(出来事)  (3)期待していたものが起こらなかった転機(ノンイベント)

 シュロスバーグは、転機に遭遇すると、次の4つのうちの1つ、または、2つ以上の「変化」を伴うと唱えました。

 (1)個々の役割:個人の果たすべき役割の大きさや種類が変化する。  (2)人間関係:大切な人との関係に厚みが出たり、薄くなったり、変化する。  (3)日常生活:物事をいつ、どのように行うかといった生活習慣が変化する。  (4)自己概念:自分のことをどう見るか、自己効力感等や考え方が変化する。

 これらの「転機による変化」は、「人の思い」にポジティブやネガティブの影響を与えます。同じような転機(出来事)でも、人によっては感じ方や影響度が異なります。中には、強いショックを受け、抑うつ状態になったり、冷静さを欠く反応をしてしまう人もいます。その場合は、

 (1)「人:心の支えとなる人の存在」  (2)「物:危機を乗り越えるための貯蓄」  (3)「環境:支援してくれる機関や団体」

 といった3つの支援システムの援助が必要で、「転機に対抗する戦略」を早急に複数立案しなくてはなりません。

■(82)人生を乗り切るために、転機を受け入れる気持ちを作り、変化への対抗戦略を企図せよ。

 ここで言う「戦略」とは「望ましい結果が期待できる乗り越え方・対処法」です。シュロスバーグは、転機のタイプ、転機のプロセスに関係なく、転機を乗り越える4つのS「4S理論・4Sトランジション」という対処スキルを下記のように提唱しました。

 (1)Situation(状況):転機がもたらしている状況を客観的に分析する。  (2)Self(自己):自己の持つ、転機に対する対処スキルを認識する。  (3)Support(周囲の援助):活用可能な支援情報を集め、整理する。  (4)Strategies(戦略):転機を乗り切るための具体的な行動計画を立案する。

 まず、状況を理解し、自分自身と向き合う。自身が転機のどの位置にいるかを見極めることが重要です。細かい自己分析・自己理解を行い、ストレスへの対処や意思決定などセルフマネージメントのスキルも同時に発動させます。内容によってはキャリアコンサルタントや社会福祉士、ソーシャルワーカー、区役所の無料法律相談所などの専門家に相談してもよいでしょう。

 連続して起こる「転機」を識別し、対処のための資源(4S)を点検・活用することで、人生を乗り越えていく。この「乗り越えていく」作業は、古いものから離れて、新しいものを手に入れるための作業です。言うのは簡単で、実際、新しい状況に向かって自分を調整して組み込んでいく行程は、なかなか苦しいものです。

 自身に降りかかる転機を速やかに受容できるか。気持ちを切り替えられるか。最初の関門は、自身の心底にあるのだと思います。

執筆者プロフィール

小林 孝悦 
コピーライター/クリエイティブディレクター
東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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