家畜や農場に関するイディオムを紹介するシリーズ、今回は農場そのもの、「farm」を使ったイディオムを紹介しよう。知らなければ見当もつかない表現だが、語源を辿るとなかなか興味深い発見があるだろう。
■Buy the Farm
「buy the farm」、直訳すれば「農場を買う」だが、実は「死ぬ」を意味するイディオムである。特に、戦争や飛行機事故での死を表す場合が多い。おもに北米で使われるイディオムだが、なぜ農場を買うことが死につながるのだろうか。これにはいくつか興味深い説がある。まず、「bought a plot」の変化形という説がある。「plot」といえば小説などの筋や陰謀などの意味で有名だが、「土地」や「区画」という意味もある。「bought a plot」で「墓地の一区画を買った」、つまり、亡くなった人が最終的に休む場所を購入したという比喩表現だ。それが転じて、戦死者が墓地に葬られることを「buy the farm(農場を買う)」と言うようになったという説だ。
二つ目の説は、戦闘機が農場に墜落して大きな損害を与えるケースに関連する。この場合、政府が農場の損害を賠償することになるのだが、パイロットの命がそのまま農場への支払いとされ、そこから、「He bought the farm(彼は農場を買った)」といった表現が生まれたという説だ。
もう一つの説は、戦場の兵士たちがしばしば語る夢に関連している。戦争が終わったら故郷に戻って農場を買い、穏やかに過ごしたいと夢見ていた兵士が、その夢を果たせないまま命を落としてしまった場合、仲間たちが「ヤツは農場を買ったんだよ」と哀悼の意を示すことから来たという説だ。
これらのどの説にも共通するのは、「農場を買う」という行為が、それを得るために命を犠牲にすることを暗示している点だ。ただ、どれもあくまで仮説であり、正確な語源はわかっていない。
■「buy」=「死ぬ」?
「buy the farm」の語源はともかく、「buy」自体が「死ぬ」という意味で使われることがあることに注目したい。実際、「to buy it」という表現が、「to die」という意味で「buy the farm」よりも古くから使われていた。Oxford English Dictionaryによると、「buy」は1825年から「不幸に見舞われる」、「負傷する」、「死ぬ」という意味で使われていたそうだ。このことから考えると、「buy the farm」は、「buy it」という表現の延長線上にあると見るのが妥当だと言える。「it」を「the farm」と置き換えた形で、「買う」という動作が死に結びつけられたのだろう。
例文 ・When his plane malfunctioned, the pilot knew he had bought the farm. (飛行機が故障したとき、パイロットは死ぬ覚悟をした)
・If you keep flying like that, you might buy the farm one day. (そんなふうに飛び続けていたら、いつか死ぬことになるよ)