これまで、農場や家畜にまつわる英語のイディオムを紹介してきたが、今回はそれに関連して馬にまつわる表現に焦点を当てたい。
馬は古代から人間の生活に密接に関わってきた動物であり、その役割からさまざまなイディオムが生まれている。今回は「hold your horses」と「back the wrong horse」という2つのイディオムを取り上げ、それぞれの背景と使われ方を見ていこう。
■Hold Your Horses
「hold your horses」とは、「待つ」や「急がずに慎重に行動する」という意味のイディオムだ。その由来は、なんと古代ギリシアにまでさかのぼる。古代ギリシアでは、複数の馬に引かれた戦車によって行われる、スピード競技が盛んだった。戦車で競技場を何周も回って勝者を競うものだったが、それにはスピードと技術が要求され、非常に危険な競技だったという。
この競技では、馬をいかに制御するかが重要だったため、そこから「hold your horses(馬を止めて)」という表現が生まれたようだ。ちなみにこの表現は、ホメロスの『イーリアス』にも登場する。
時代が下り、19世紀には、アメリカで「hold your hosses」という形で使用されるようになった。実際に馬を制御する際に用いられていたのが、徐々に比喩的な意味でも使われるようになり、やがて「落ち着いて待つ」や「急ぐな」という意味で定着することとなった。現代でも日常的に使われるイディオムである。
例文 ・Hold your horses, we’re not ready to start the meeting yet. (急ぐな、まだ会議を始める準備ができていない)
■Back the Wrong Horse
「back the wrong horse」は、「誤った選択をする」という意味のイディオムだ。有望に見える人や計画に賭けたものの、結果的にその選択が失敗に終わるという状況を表す。このイディオムは、競馬が盛んだった17世紀ごろのイギリスに由来する。競馬で間違った馬に賭けることから転じて、誤った選択をすることを意味するようになった。
現代でもよく使われるイディオムで、政治やビジネスの意思決定で誤った選択をする際に目にすることが多い。また日常会話でも、応援していたチームが負けた時に「I really backed the wrong horse this time(今回は完全に外れたな)」のように使われる。
例文 ・I really backed the wrong horse by investing in that company. It went bankrupt within a year. (あの会社に投資したのは完全に失敗だった。1年以内に倒産してしまった)