前回に引き続き、今回も「馬」に関連するイディオムだが、今回は少しひねりの効いた2つの表現を取り上げたい。それぞれにユニークな歴史的背景があり、どちらも馬を題材にしていながら、その意味や使われ方はまったく異なるイディオムだ。
■Get Off Your High Horse
「Get off your high horse」とは、「謙虚になれ」「偉そうにするな」という意味のイディオムだ。直訳すると「高い馬から降りる」という意味だが、これは、貴族が高い馬に乗ることで自分の地位や権力を誇示していた中世ヨーロッパに由来する表現だからだ。特権階級は、他者よりも高い位置から物理的にも社会的にも見下ろす立場にあったため、これが比喩的に「傲慢さ」を表す表現となった。逆に言えば、そこから降りるということは、自分の立場や権力に関する優越感を捨てて、謙虚になるということだ。
したがって、誰かに「Get off your high horse」と言うときは、相手に、人を見下している態度を改め、謙虚になって他者と向き合うよう促しているわけだ。つまり、態度が傲慢な人や自信過剰な人に対して使われることが多いイディオムである。
・It's time you get off your high horse and start listening to other people. (もう偉そうにするのはやめて、他人の意見を聞くべきだよ)
■Horse of a Different Colour
「Horse of a different colour」とは、直訳すれば「違う色の馬」だが、「まったく異なる問題や状況」を意味するイディオムだ。この表現は17世紀のイギリス、具体的にはシェイクスピアの戯曲『十二夜(Twelfth Night)』に由来する。登場人物のセリフ、「My purpose is, indeed, a horse of that colour(私の目的もまさにそれと同じだ)」が始まりだ。
これを「違う色の馬」とすることで、まったく別物であることを強調する表現となった。たとえば、議論が思わぬ方向に進展した場合などで使われる。もしくは、ある問題について話し合っていたのに、突然、別の新しい問題が出てきた場合などで、「That’s a horse of a different colour」と言う。
・We were discussing budget cuts, but this new proposal is a horse of a different colour. (私たちは予算削減について話していたが、この新しい提案はまったく別の問題だ。)