自尊心を持つことは、自分自身の存在を強く信じているということ。これに似たものに「自己効力感」という言葉があります。
ある課題があったとして、「自分なら達成できる!」「良い結果が生まれそうだ!」と、自分には「ある目的・行動を達成するための能力がある」と認知する「自信」を指します。心理学者のアルバート・バンデューラによって提唱された概念です。
自己効力感は、次の4つの影響要因(情報源)から形成されます。
(1)遂行行動の達成
ある行動を最後まで自分の力で「やり遂げた」「達成できた」経験を持つと、自己効力感が最も強く形成されます。「成功体験」のことです。
(2)代理的経験 自分で直接経験をしなくても「他者の成功体験を観察」して学習することで、「自分にもできるかも」と自己効力感を高められます。職業講話やインタビューなどがそうです。「代理学習」とも言います。
(3)言語的説得 ある行動に対して、「キミならできる!」と周囲から励まされたり、認められたり、サポートを受けると、その行動についての自己効力感が高まります。
(4)情動的喚起 身体や精神的に起きた「生理的・感情的な変化を体験する」ことで、自己効力感が形成されます(例:上司がプレゼンの状況を本人にイメージさせたうえで、ポジティブな感情が生まれるように働きかけていくアプローチなど)。
■(84)あなたの自己効力感は、誰かの気持ちイイだけの言葉で形成されていないか、疑ってみる。
(3)や(4)のように上司がプレゼンを褒めてくれたり、新奇なアドバイスをくれれば、次に繋がるように頑張れるだろうし、もっと精度を上げていこうと工夫を凝らす心持ちにもなれるでしょう。
ただし、人は、それぞれ能力や目標が異なります。どのレベルの、どのような傾向の上司が、どのレベルの、どのような傾向の部下に向かって、「言語的説得」や「情動的喚起」を試みると有効なのか?
組織や人材の質・傾向が企業ごとに異なるため、模範解答は控えます。ただ、以下のような人の言語的説得や情動的喚起は部下育成の観点では「無意味」であることはお伝えしておきます。それは、「社内政治的な話をアウトプットしながら部下を統率するリーダー」です。私は、過去に遭遇したことがあります。
社会風景を変容させていくミッションが第一義であるクリエイティブ人材の育成。その観点で、その人の方針・ディレクションは、まさに「論外」でした。常時、「社内出世が世界基準」という小さなエゴで業務を動かすため、課題解決の策も独りよがりで、矮小且つ地味。そこから先鋭的なクリエイティブが生まれるはずもありません。
話を戻しましょう。自己効力感(自信)を正しく高めていく方法の1つは、業務遂行過程において、上司からの「高度な技術的・実践的な指摘とその論拠」を享受すること。理解し、吸収し、修整することでクオリティーとスキルをアップさせることが不可欠です。ミラーリングしたくなる上司を逆指名できれば、モアベターでしょう。
若い頃、上司からメチャ高い視座で目標を設定されたことがあります。「キミならできる!」といった爽やかな応援ではなく、「できなきゃダメなんだよ…」という静かな追い込み型で…。当時は、上司の要求に「期待」が含まれていることなど理解する余裕もなく、プレゼンが終わり、作品が流通し、製品がヒットして初めて「追い込み」の意味がわかります。
自尊心や自己効力感は、自分ひとりのチカラで形成されるものではありません。そして、他者から受ける気持ちイイだけの空虚な言葉で形成されるものでもありません。上司や先輩、同僚、後輩、クライアントと、双方向から「過程」と「成果」を共有し、信頼し合えるラポール関係を築いた後にこそ、自己効力感を認知できる、と私は考えています。
執筆者プロフィール
小林 孝悦
コピーライター/クリエイティブディレクター
東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。