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メーカーの立場とユーザー思考のギャップ

財経新聞 2024年11月15日 15時29分

 自動車メーカーは、或る車種を開発する際には、多岐にわたる情報蒐集と市場分析を行い、その車種のターゲットユーザーやライバルメーカーの競合車種の性能や販売価格を勘案して、企画を確立して行く。

 その場合、大きな要素を占めるものに、「コスト」がある。

 特殊なジャンルの車両、軍用車やレーシングカーの様なジャンルに関しては、金に糸目はつけなくても良いが、一般市販車の場合は、コストを無視して製造することは不可能だ。

 そんなメーカーの苦労を、一部のユーザーは踏みにじる。

●レーシングカー部品価格の一例

 筆者の出身メーカーは、広報部内にレース委員会があり、当時大阪支社で、メーカーがエントリーする鈴鹿サーキットでのレースや、関西在住のファクトリードライバーの対応もやっていた。

 契約レーサーのK氏はプライベートでもチームを持っていて、そこのレーシングカーの燃料タンクキャップを独自に開発して、ピットインして給油する際に大幅な時短を実現していた。

 本社からファクトリーのレーシングカーにも使いたいとの話しで、購入手配依頼が来て、正確な金額は忘れたが1個が100万円程度のキャップを、ほゞ原価で入手したら、購買部門から「なんでこんなに高価なのか」と言って来た。

 レースの世界を知らない事務職社員の、単なる「燃料キャップ」との発想からだろう。

 無視する訳にも行かないのでK氏に問い合わせたら、試行錯誤で開発した結果、結構なコストもかかっており、「レースで〇秒短縮するのなら安い物だ」とのことだった。

 「成果(周回タイム短縮)」に対する「コスト」とは、そんなものだろう。

●ダンパー類に関して

 新規開発車両の詳細が決定すれば、その仕様を満たす部品が調達される。

 例えば、「減衰力 200kg」のダンパーなら、数値だけを見れば、適合する市販部品は複数メーカーから販売されている。

 メーカーの開発陣は、コストとの勝負で、取り組んでいる。

 日本のショックアブソーバー上位3社は、(1)KYB、(2)SHOWA、(3)Hitachi Astemoがあり、KYB(現、カヤバ株式会社)は世界シェア13%を占めている。

 そんな優秀な国産メーカーが存在する一方、クルマ好きなら誰しも聞いたことがあるだろう「ビルシュタイン(BILSTEIN 独)」、「モンロー(MONROE 米)」といった海外メーカー製の銘品も存在する。

 国産自動車メーカーも、コスト的に厳しい一般車とは別に、高性能車、高価格車は、多少とも余裕がある。スバルはレガシー、レヴォーグ、マツダはRX-7、ロードスター、トヨタはスープラ、MR-2、日産はフェアレディZ、GT-R、三菱はランサーエヴォリューションといった車種にビルシュタインを装着している。

 本来メーカー標準仕様は、一般ユーザーが下手にいじくるよりも完成度が高い。

 従って、「車高を落とせばカッコいい」と、訳の分からない車高調を組み込んだり、ばねカットすることは却って性能低下を招く、安全性を無視した無知と無駄に他ならない。

 それよりも、コストとの兼ね合いから導入を見送られたかも知れない、「同スペック」の高級品に換装する方が値打ちがある。

 乱暴な表現をすれば、宴会担当が、「日本酒は大吟醸」との指定を受けて、数ある醸造元の中からコストで選ぶか、コストを無視して最高の大吟醸をセレクトする違いと言ったら判り易いかも知れない。

●リヤワイパーもコストがかかっている

 フロントグラスには、ワイパーが装備されているのは当たり前だ。

 しかし、リヤウインドーには、一部の車種しか装備されていない。

 ワンボックスタイプの様な車両後端が直立した車や、クーペやハッチバックの様なリヤウインドーが寝たボディ形状の車は雨滴で後方視界が妨げられ易いので有用だ。

 セダンの様に、後部にトランクがあれば、比較的影響は少ない。

 同一車種で、リヤワイパーが無い方が安価な車種となっている。

 だから、わざわざリヤワイパーを根元から外して、手のひらの形の玩具を取り付けて「バイバイ」なんてやっている車を見ると、腹立たしくなる。

 一説には愛犬を郊外の散歩に連れて行き、排泄物を車内に持ち込みたくないからリヤワイパーのステーを外してぶら下げると聞いたが、愛犬の出したものなら車内に持ち込めと言いたい。

●結論として

 メーカーが折角コストをかけた部品を殺したり、コストとの兼ね合いで最良のセッティングをしたバランスを壊すより、コストで妥協した部品を、同じスペックの上級品と交換すれば、涙を呑んで妥協したメーカーの開発陣も喜ぶだろう。

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