京都大学は20日、社会的に重要な位置を占めるサルほど、強い自己抑制能力を示すことが明らかになったと発表した。
野生のニホンザルについて、3年間にわたって記録された社会関係データと野外認知実験の結果を分析することで、判明したという。
■社会的知性仮説
サルなど多くの霊長類は、集団を形成して生活している。集団内では、仲間と協力したり、食べ物などをめぐって争ったりなど、複雑な社会関係を築いている。このような複雑な社会関係の中で生きることが、高度な認知能力を進化させる原動力になっているとする考え方を「社会的知性仮説」という。しかしこれまでの研究は、種ごとの群れのサイズと大脳新皮質の関係など、異なる種間、あるいは、同じ種の集団間を比較する研究がほとんどだった。
だが、集団内の社会関係は個体によって異なるはずである。そこで研究グループは、集団内における個々の個体の社会関係に着目し、研究を進めた。
■社会的に重要な位置を占めるサルほど自己抑制能力が高い
研究グループは、淡路島に生息する餌付けされた野生ニホンザルの集団を対象に、行動観察を実施。2017年~2020年の間に記録されたサル同士の毛づくろいのデータから、個体ごとに社会における位置の重要性を割り出した。また合計119匹のサルに対して、野外での認知実験を行い、物理的認知能力・社会的認知能力・自己抑制能力を割り出し、社会的な位置の重要性との関係を調べた。
その結果、社会的な位置の重要性と物理的認知能力・社会的認知能力との間に関係は認められなかったが、自己抑制能力との間には関係が認められたという。
自己抑制能力は、衝動的な行動を抑制し、さまざまな場面において、状況に応じて柔軟に対応することを可能にする。社会的に重要な位置を占めるサルは、自己抑制能力を発揮することで、集団内でうまく立ち振る舞っている可能性があるという。
研究グループは今後、サルの発達段階や繁殖成功率、遺伝的多様性などとの関連を調べることで、動物の認知能力が社会環境の中でどのように進化していくのか明らかにしていきたいとしている。