今回も犬に関係する英語のイディオムを紹介しよう。犬は古くから人間の生活に深くかかわってきた動物のため、その特徴や行動は人々の使う言葉にも影響を与えてきた。
今回取り上げるイディオムは、犬の習性というよりも文化や暮らしに根ざしたものだ。そんなイディオムの由来に迫りながら、それぞれの背景を詳しく解説していく。
■Dog Days of Summer
「dog days of summer」とは、1年で最も暑い時期を指す表現だ。夏の長く厳しい暑さを描写する際によく用いられる。真夏の暑い時期といえば、犬も日陰でぐったりしているイメージがあるが、このイディオムの起源は、そうした犬のイメージに由来するものではない。実際の犬とは関係なく、星座や古代の天文学に深く根ざしているのである。
「dog days of summer」の由来は、シリウス(Sirius)、いわゆる「犬星」に関連している。
古代ギリシャやローマの人々は、シリウスが早朝に太陽とともに地平線付近に昇るのを、夏の到来を告げるサインと認識していた。この時期は1年で最も暑い時期と重なるため、シリウスが夏の厳しい暑さに影響を与えるとも考えられていたようだ。
ホメロスの『イリアス』にも、シリウスについての言及が見られることから、この星と夏の暑さとの関連は古代からよく知られていた。またシリウスの輝きが、異常気象や体調不良を引き起こすとも信じられていたようだ。このような背景が「dog days」という表現の起源となったと考えられる。
使用例 ・The city streets were nearly empty during the dog days of summer. (夏の盛りの暑さのなかで、街の通りにはほとんど人影がなかった)
■That Dog Won’t Hunt
「That dog won’t hunt」とは、何かが「期待通りに機能しない」または「うまくいかない」ことを意味するイディオムだ。アメリカ南部の文化から生まれた表現で、狩猟犬が役に立たない場合に由来する。狩りで成果を上げない犬を指して、「あの犬では狩りにならない」という形で使われていたそうだ。
このイディオムが一般的に広まったのは、アメリカ合衆国第42代大統領ビル・クリントンが、この表現を好んで使用したことがきっかけである。アーカンソー州出身の彼は、この南部特有の言い回しを日常的に用いていた。その結果、アメリカ全土で知られるようなイディオムになったのである。
使用例 If you think you can convince them without any evidence, that dog won’t hunt. (証拠なしで彼らを説得できると思うなら、その方法はうまくいかない)