慶応義塾大学は16日、社会的な孤独が、心筋梗塞や狭心症などの原因となる動脈硬化を促進するメカニズムを突き止めたと発表した。
脳視床下部におけるオキシトシンの分泌が減少することで、肝臓における脂質代謝異常を招くためだという。
研究グループでは、オキシトシンを経口補充することで、肝臓における脂質代謝異常を抑制し、社会的な孤独による動脈硬化を抑えることができることも確認した。
今回の研究は、自治医科大学らと共同で行われたもので、今後はオキシトシンが、脂質異常症の治療における効果的な標的分子として期待されるという。
■社会的な孤独と動脈硬化
社会的な孤独が心筋梗塞の発症率や総死亡率を上昇させることが、近年明らかになってきた。その要因としては、交感神経系、視床下部-下垂体-副腎皮質系、炎症の活性化などが関わっている可能性が指摘されている。
だが研究結果に一貫性がなく、その背後にあるメカニズムも明らかではなかった。
■社会的な孤独が動脈硬化を促進するメカニズム解明
そこで研究グループは、マウスを使った実験でそのメカニズムの解明を試みた。その結果、社会的な孤独によって脳視床下部からの幸福ホルモンと呼ばれる「オキシトシン」の分泌が減少。これによって肝臓における脂質代謝異常が起こり、血中の中性脂肪や悪玉コレステロールが増加。心筋梗塞などの原因となる動脈硬化が促進されることを突き止めた。
研究グループによれば、オキシトシンは肝臓において次の2つの働きをしているという。
まず、CYP7A1と呼ばれる酵素を増やす働きをする。CYP7A1にはコレステロールを胆汁酸に変換することで血中の悪玉コレステロールを減らす働きがある。
次に、ANGPTL4/8の生成を調節する。ANGPTL4/8は血中で中性脂肪や悪玉コレステロールの分解を制御しており、その生成が適切に調整されることで、中性脂肪や悪玉コレステロールの分解が適切におこなわれる。
研究グループによれば、オキシトシンが肝臓における脂質の代謝をコントロールしていることが確認されたのは世界で初めてだという。
同時に、オキシトシンの経口投与によって社会的な孤独による中性脂肪、悪玉コレステロールの上昇とそれによる動脈硬化の進行を抑制されることも確認した。
研究グループは今回の研究成果に関して、脂質異常症の治療に応用されることが期待されるとしている。