中国では毎年各種メディアがネット流行語を発表する。ネット流行語には若者を中心とするネットユーザーたちの価値観や心の状態、その変化が反映されている。
今回は上海市語言文字工作委員会及び上海教育出版社が編纂する「語言文字週報」が2024年12月に発表した、2024年ネット流行語トップ10を紹介したい。
■2024年中国ネット流行語トップ10
・偷感很重tōu gǎn hěn zhòng 意味: こっそり感がすごい日本人から見ると中国人は自己主張がはっきりしている。しかし昨今では目立たずにひっそりと生きることを好む人が市民権を得始めたようだ。「偷感很重」は悪口でも誉め言葉でもなく、フラットな表現として使われる。
例文: 他是个偷感很重的人,总是害怕自己的言行不当,成为他人议论的焦点,因此宁愿选择沉默,成为那个隐形人 (彼ってこっそり感すごいよね。間違った言動で悪目立ちしないようにいつも気にしている。そのせいかな、むしろ沈黙を守って透明人間でいることを選んでいるよね)
・这世界是个巨大的草台班子zhè shìjiè shìgè jùdà de cǎotáibānzǐ 意味:この世界は巨大な寄せ集めの劇団だ。転じて「この世界はどうってことない組織が無数に集まって構成しているもの」、或いは「この世の中、結局はがらくたの寄せ集めに過ぎない」といったニュアンスを表す。
「草台班子」は、もとは村の広場に草や木で簡易的に建てられた舞台で演じられる大衆劇を指す。ここでは臨時に寄せ集められたレベルの低いグループ、集団、やからの意味。
例文: 这世界就是一个巨大的草台班子。与其内耗自己,不如发疯外耗别人 (どうせこの世界はたいしたことないのだから、自分をせめて落ち込むより、外に向かってがむしゃらに戦った方がまし!)
・班味bān wèi 意味: 社会人がまとっている疲れた雰囲気。
「班」は職場や会社を、「味」は匂いの意。仕事が忙しくて高いストレスを抱え、精神的にも肉体的にも疲れ切った勤め人の様子を表す。
例文: 只要上过一天班,班味就散发出来了,挥之不去 (一日働いただけで、くたびれた勤め人の雰囲気が漂い、どうやっても消えない)
・那咋了nà zǎle 意味: だから何・・・
SNSに掲載された「拒绝内耗,做真实自己(自分をすり減らさず、正直に生きよう)」というテーマの動画によって拡散した。他人の意見を気にせず、自分の気持ちを大切に、楽観的に生きるという意味。或いは他者の意見に同調せず自分の行動や認識を肯定する意思表示。
例文: 那咋了,我无所谓,哪怕大家相互勾结以大多数的力量颠倒黑白,真实就是真实没法改 (だから何?別に構わないよ。つるむやからが結託して白を黒にしてしまおうとも、真実は真実として変わらないのだから)
・水灵灵的shuǐling líng de 意味: フレッシュで生き生きとしている様子。
韓国の5人組ガールズグループLE SSERAFIM(ル・セラフィム)が、ある番組に出演した時のこと。最年少のホン・ウンチェが、メンバー全員の写真を指さしながら「フレッシュな(水灵灵的)私がセンターで、こわいお姉さんに周りを囲まれている」と発言した。
これがきっかけとなり、その後、ネットユーザーたちが「水灵灵的」を様々な単語と組み合わせて誰かを誉める時の表現として使うようになった。人を驚かす意外な行動に対しても使われる。
例文: 你就这么水灵灵的回来了(あなたはこんなに綺麗になって戻ってきたのね) ・古希腊掌管〇〇的神gǔ xīlà zhǎngguǎn〇〇de shén 意味: 古代ギリシアの〇〇を司る神
ある物ごとに秀でている人を誉める時に使う言葉。もとは、クラシック音楽の博士課程に在籍する男性が、ギリシア神話の神々を音符に例え、音楽に関係した新しいキャラクターで表現したことから始まった。
例えば「穏やかで人を落ち着かせる音符の神」、「激しくパワフルな和音の神」といったように。その後、ギリシア諸神に例える独創性が多くのネットユーザーの共感を得て拡散し、人の特徴や長所をギリシアの神々に例える表現として流行した。
例文: 你是古希腊掌管的吃货的神!古今中外,甜的辣的,哪一种菜你都能吃 (あなたは古代ギリシアの食いしん坊を司る神ですね。古今東西、甘いものから辛い物まで、どんな料理でも食べちゃいますよね)
・city不city 啊? 意味: これって都会的カナ?
欧米人のブロガーが中国を旅行した時、各地で撮影した動画で使った決まり文句。訪れた場所を背景に「これって都会的カナ?」と問いかけると、同行者が「都会的ダネ!」或いは「都会的じゃないネ!」と答えるコミカルな動画。
中国語で多用される疑問形「〇不〇?(〇ですか?)」に英語のcityを当てはめている。最後に語気助詞で、これもよく耳にする「啊a」を誇張してアクセントに使っている。
参考動画 https://www.youtube.com/shorts/g6EooGhKf6U
中国語と英語が絶妙にドッキングしている疑問形が斬新で、SNSで大きな話題となり、真似する人が続出した。
例文: 「上海,City不City啊?(上海は都会的かな?)」「很City啊!(とても都会的だね!)」
・包的Bāo de 意味: 保証する。絶対に~だ。
コンピューターゲームの実況プレーヤーの口癖がネットで流行った。「包有梗的(絶対楽しいよ)」、「包无敌的(絶対無敵だよ)」などと、簡潔な表現が受けて、多くの人に使われるようになった。
例文: 给你介绍女朋友的事儿我包的,她是我们学校女神,包漂亮的 (彼女を紹介する件、僕に任せてね。その女性は学校の人気者だよ、とても綺麗な子だよ、保証する)
・红温Hóng wēn 意味: 感情や悲しみが抑えきれない。
「红温」は、もとはネットゲーム「中国英雄联盟(League of Legends)」に登場するキャラクター、兰博(ラン博士)のスキルの一つ。体が過熱しパワーアップして攻撃力が増した状態。転じて、感極まってコントロールできなくなること。日本語の「心が折れる」とか「悲しくて死んでしまう」といったニュアンスでも使われる。
例文: 你又红温了,你累不累呀?不能跟他一般见识,他不过是个小孩子 (また感情を高ぶらせて、疲れない?彼と同じレベルに自分を下げたらだめだよ、彼はまだ子供だから)
・搞抽象 gǎo chōu xiàng 意味: 意味不明で理解できない。つかみどころがない。
ネットゲームの実況プレーヤーの口癖「真是太抽象了(全くわけが分からないよ!)」が若者たちに受けて広まった言葉。理解できない不思議な状況や、型破りで意味不明な物ごとを表す。その場の空気を和らげたり、複雑な人間関係の緊張を和らげたりする効果がある。
例文: 他是个爱搞抽象的人,穿着粉红色的裙子来参加我的生日派对,一点都不在意别人的眼光 (彼は本当につかめない人で、ピンクのスカートをはいて私の誕生日パーティーに参加し、周りの人の目など全く気にしていなかった。)
中国では年末になると多くのメディアがネット流行語トップ10を発表する。こうしたメディアの中でも今回紹介した「語言文字週報」、そして「国家語言資源監量と研究センター」、「咬文嚼字」の3つのメディアが、最も影響力が高いと言われている。
語言文字週報が選んだ流行語には含まれていないが、他の2つのメディアが共通して選んだ流行語に「松弛感(ゆとり感)」がある。ゆったりとリラックスした心理状態を肯定する意味で使われた流行語だ。
これは「偷感很重」、「这世界是个巨大的草台班子」、「那咋了」、「搞抽象」などの流行語に等しく、高ストレス社会だからこそ流行した言葉と思われる。強いプレッシャーの中、人々は肩の力を抜いて自分らしく生きることを希求しているのかもしれない。