焦点:米証取のデータセンター移転、市場の公平性改善の効果も
ロイター / 2020年10月2日 16時14分
10月1日、米国の証券取引所はニュージャージー州に対し、金融取引税を導入するなら1日当たり数十億ドル規模の取引を執行する主要なデータセンターを同州からイリノイ州シカゴに移転するだろうと伝えている。写真は米ドル紙幣。2016年11月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)
[ニューヨーク 1日 ロイター] - 米国の証券取引所はニュージャージー州に対し、金融取引税を導入するなら1日当たり数十億ドル規模の取引を執行する主要なデータセンターを同州からイリノイ州シカゴに移転するだろうと伝えている。
証取はデータセンターのシカゴ移転で年間数百万ドルの納税を節約できるだけでなく、超高速取引を駆使するトレーダーが瞬時の価格変動から利益を上げるのを難しくすることによって市場の公平性を高め、流動性の深化を図ることもできると、市場関係者は見ている。
これは米国の16の証取全てがシカゴ市内の同じ建物に、災害時などの緊急拠点となるディザスター・リカバリー・サイト(DRサイト)を置いているためだ。これに対して主要なデータセンターは現在、ニュージャージー州北部の3カ所に散らばっている。
電子取引の世界では、電子信号が伝わる物理的距離が、注文成立に要する時間を決める重要な要因で、最良価格を手に入れるのはナノセコンド(10億分の1秒)の競争だ。
主要なデータセンターがシカゴの拠点に集結すれば、各業者が価格を出す際のわずかな時間差を利用してサヤを抜く「レイテンシーアービトラージ」の可能性は低下するだろう。
ロバート・W・ベアードの取引責任者、ジャック・ミラー氏は「高速インフラの投資の多くは廃れてしまい、たくさんの取引戦略が消滅するだろう」と話した。
証取の幹部は、レイテンシーアービトラージが減少すれば市場参加者は望ましい価格で取引を完了することが容易になるだろうと話した。また、そうなれば気配値と実際の売却価格との差が縮まり、取引案件の大型化が進むだろうと予想。「全ての証取が地理的に一カ所に集まれば、市場の流動性にとってより健全なことだ」と述べた。
<威嚇射撃>
証取のDRサイトはミシガン湖近くの8階建ての建物に置かれている。
インターコンチネンタル取引所(ICE)
16の証取は先週末、通常営業日のシミュレーションをシカゴで一斉に実施した。これはシカゴのDRサイトを使った運用が可能であることを示すのが狙いの1つだったが、証取側はニュージャージー州にメッセージを送ることも望んでいた。
ニュージャージー州は年間1万回を超える取引を手掛ける事業者に対し、1取引ごとに0.25セントの金融取引税を課すことを検討している。
証取や金融機関を代表する団体は、証取が実施した今回のテストについて、「ニュージャージー州からデータセンターを移転し、同州の侵略的な課税案から市場参加者を守る準備は整っていると示す最初の一歩だ」と指摘した。
ニュージャージー州上院議長の報道官によると、金融取引税導入に関する法案は現在、州の上院と下院、州知事による検討が続いている。
ジョージタウン大のジェームズ・エンジェル教授(金融学)は証取の今回の動きについて、「一夜で文字通りすべてを引き揚げることができるとシグナルを送ることで、金融取引税を導入しようとしている人々に威嚇のための強烈な一撃を見舞っている」と述べた。
(John McCrank記者)
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