焦点:「ドル・クランチ」があぶり出す過剰債務問題と新興国通貨安
ロイター / 2020年4月3日 10時32分
新型コロナウィルスの感染拡大が引き金となった世界的な信用収縮とドル不足は、民間企業の「過剰債務問題」をあぶり出している。写真は50米ドル紙幣。2017年6月、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Thomas White/Illustration)
森佳子
[東京 3日 ロイター] - 新型コロナウィルスの感染拡大が引き金となった世界的な信用収縮とドル不足は、民間企業の「過剰債務問題」をあぶり出している。米連邦準備理事会(FRB)がどれほどドルをばら撒いても、信用力の弱い企業が流動性の恩恵に浴せないことはリーマンショック時に実証済みだ。金融市場が今後起こりうる企業の信用格付けの低下と債務不履行(デフォルト)に身構えるなか、特に新興国通貨や市場は脆弱性を露呈しはじめた。
<新興国企業の債務借り換え問題>
ドル需給がひっ迫する中で、先進国や新興国の民間企業がこれまで借り入れてきた膨大なドル建て債務を返済できるのか、借り換えできるのかは、目下金融市場で最大の関心事だ。
米金融大手ゴールドマン・サックスは先月22日、新興国が今後1年以内に償還しなければならないドル建て債は総額340億ドル(3.67兆円)と試算し、バーレーンやエクアドルなど一部の産油国を除き、ほとんどの新興国は外貨準備を使って債務を返済できると予想した。[nL4N2BH11H]
ただ、同社の予想は新興国の政府債務が対象であり、より大きな規模の民間債務は含まれていない。
70カ国の金融機関が参加する国際金融協会(IIF)によると、2000年以降、世界の債務残高は民間の非金融部門(家計と企業)がけん引して膨張してきた。
金融危機後は特に新興国企業が急速に対外債務を積み上げており、新興国の企業部門債務の対GDP比は2014年に先進国を追い抜いて90%台に達した。
個別国・地域企業の対外債務(対GDP比)は2019年末に、香港が約220%、中国が150%、韓国が100%、トルコとマレーシアが70%と特に高い。
<最安値つける新興国通貨>
新興国の民間企業が抱える「債務の山」が懸念されるなか、MSCI国際新興国通貨指数<.MIEM00000CUS>は年初から7%超下落して1558と約3年ぶりの安値圏にある。
同指数はFRBが海外中銀に対するドル供給拡充策を発表したあと若干持ち直したものの、下げトレンドを抜け出せていない。MSCI新興国株価指数<.MSCIEF>も838付近と2016年末以来の安値圏にある。
FRBは3月31日、世界的なドル不足に対応して、海外中銀が保有する米国債を担保にドル資金を供給するレポ取引を活用し、翌日物のドル資金を提供するとした。
しかし「これは新興国による米国債の売却圧力を緩和し、米国の長期金利上昇を抑えることを意図した政策だ。金利が抑えられれば新興国のドル債務の返済負担は軽減されるが、ドル需要の緩和にはつながらず、新興国通貨下落の歯止めにもならない」と三菱UFJリサーチ&コンサルティング、主席研究員の廉了氏は言う。
「新興国ではドル建て債務が膨れ上がっているため、流動性不足から何かがバーストする可能性がある」(同)。
格付け機関ムーディーズは27日、南アフリカの格付けをジャンク級に引き下げ、見通しをネガティブに据え置いた。
リフィニティブが算出したデータによると、南アフリカランド
ブラジルレアル
<企業の信用危機に引きずり込まれる銀行>
コロナウィルスの感染拡大を背景とする信用収縮で明るみに出た過剰債務問題については、先進国の企業部門も同様の問題を抱えており、企業の信用格付けの低下とデフォルトに金融部門も引きづり込まれつつあるのが現状だ。
米シェールオイル生産のホワイティング・ペトロリアム
時価総額は米国がシェールブームで沸いた2011年にピークの150億ドルを付けたが、現在は3200万ドルにしぼんでいる。昨年末時点でホワイティングの負債総額は28億ドル、保有現金残高は5億8500万ドル強だった。
「かつての高金利の時代ならば良いが、超低金利が長引き、銀行セクターが疲弊している中で、不良債権が増えれば金融部門も相当のダメージを被ることは避けられない」と廉氏はいう。
バーゼル銀行監督委員会は2008年の金融危機を受けて、グローバルな銀行システムの健全性を高める規制を導入し、世界の主要銀行は30日間の資金流出に耐えうる流動性資産を保有している。
だが、足元で起きている事態はバーゼルが想定したリスクの範囲を超えている。
「GDPがマイナス30%台まで落ち込むことは、どの国の健全性テストでも想定されていない」(金融機関)という。
パンデミックを背景に信用に問題のない企業までドル預金を引き出す傾向が強まる中、預金が急激に流出すれば、銀行自体の流動性確保が危うくなる。
(編集:石田仁志)
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