焦点:バイデン経済チーム、コロナ禍後の労働・格差問題に重点
ロイター / 2020年12月3日 15時22分
12月1日、 バイデン次期米大統領は、経済関連の要職に格差問題や労働市場の専門家を指名した。写真は11月25日、デラウェア州ウィルミントンで記者会見するバイデン氏(2020年 ロイター/Joshua Roberts)
[1日 ロイター] - バイデン次期米大統領は、経済関連の要職に格差問題や労働市場の専門家を指名した。1日の記者会見では、コロナ禍で特に打撃の大きかった女性やマイノリティー労働者向けの政策を優先的に行っていくと約束した。
米国ではクリスマスの翌日の12月26日に推計1200万人の失業保険が切れ、12月31日までに教育ローン返済凍結や家賃未払い者の強制退去猶予措置なども終了する見通しだ。
バイデン氏の経済チームは、歴史的に景気回復の恩恵波及が最も後回しになってきた人々を助ける方策に取り組む必要がある。コロナ禍で接客、観光、娯楽といった産業の雇用が「蒸発」する中、生活が人一倍かき乱された人たちもそうだ。
バイデン氏は財務長官にジャネット・イエレン前連邦準備理事会(FRB)議長、財務副長官にオバマ財団のウォーリー・アデエモ氏、行政管理予算局(OMB)局長に進歩主義派のシンクタンク「アメリカ進歩センター」所長のニーラ・タンデン氏を、それぞれ指名すると発表した。
大統領経済諮問委員会(CEA)委員長には、プリンストン大の労働経済学者で教育問題を重視するセシリア・ラウズ氏を起用。CEA委員には、ワシントン公平成長センターの所長で格差と経済成長の研究で知られるヘザー・ブーシェイ氏と、バイデン氏の長年の顧問であるジャレド・バーンスタイン氏も任命する。同氏は黒人と白人など人種間の雇用格差を縮める政策を提唱してきた。
イエレン氏は記者会見で、コロナ禍の影響に対処するため「緊急に動くことが肝要だ」と強調。人種や性別による賃金、住宅、雇用機会の格差など「より深い構造問題を改善する義務がある」と述べた。
アデエモ、タンデン両氏は、移民だった自らの親を支えた米国の政策を引き合いに、イエレン氏の発言に賛同を示した。ブーシェイ、ラウズ両氏は、前回の雇用危機を目の当たりにして経済の道に入ったエピソードを紹介した。
ラウズ氏は、コロナ禍が今後「より良い経済を構築する機会、全ての人にとって機能する経済を構築する機会」をもたらすとも述べた。
ジョージタウン大の公共政策・経済学教授、アドリアナ・クグラー氏は、バイデン氏が労働経済学者を重点的に登用するのは「偶然ではない」と語る。「(労働は)この時代の重要な問題だ。これこそ修復すべき問題だ」という。
バイデン政権下で予想される労働政策は、以下の通り。
<就労の権利>
全米最大の労組連合体である米労働総同盟産別会議(AFL─CIO)の首席エコノミスト、ウィリアム・スプリッグス氏によると、次期経済チームの人選は、CEA本来の意図に立ち返ろうとする政権の方針を示している。CEAは第2次大戦後、「全ての米国民」がフルタイムの仕事に就く権利があると宣言した1946年成立の雇用法と併せて創設された。
スプリッグス氏は「この経済状況下では、CEAが完全雇用の重要性を理解した組織であることが非常に重要だ」と言う。
コロナ禍前、トランプ政権下で失業率は半世紀ぶりの低水準まで下がっていたが、当時でも例えば、黒人の失業率は白人の2倍近かった。
アデエモ氏は1日、公共サービスとは「暗い時代に希望を与えるもの」であり、「富裕層のためだけでなく、経済を回している勤勉な労働者たちにとっても機能する経済にする」のが目的だと述べた。
<自動安定装置>
バイデン氏は1日、議会に対し、審議がこう着している財政刺激策を可決するよう求めた。来年1月20日の大統領就任後、経済てこ入れのために追加的な対策を取ることも約束した。
次期経済チームに起用される面々は、福利厚生が家計を安定させ、経済を立ち直らせると強調している。
チームには、失業給付などを失業率その他の経済指標とひも付ける措置など、いわゆる「自動的スタビライザー(安定装置)」の採用を支持する者もいる。自動化すれば追加的に議会承認を得る必要性が減る。
ブーシェイ氏は今年7月の議会証言で直接給付の拡大を求め、失業保険給付額を週600ドル上乗せする措置の延長を要請。この措置を景気が回復するまで自動的に延長する仕組みを提案した。
この仕組みなら、現在直面しているような議員間の対立による給付切れリスクが避けられるだろう。
<最低賃金の引き上げ>
次期経済チームが力を入れる可能性の高い政策の1つが、連邦最低賃金の引き上げだ。バイデン氏が大統領選の選挙活動中に支持してきたし、ハリス次期副大統領が1日に強調した課題でもある。
スプリッグス氏は、最低賃金を現在の1時間当たり7.25ドルから15ドルに引き上げれば「所得格差、特に黒人女性にとっての格差に甚大な効果をもたらす」と話す。
2018年の労働統計局の報告書によると、黒人女性の時給労働者では、時給が最低賃金以下の割合が2.7%と、どの人種グループよりも高かった。
ブーシェイ氏は、最低賃金を引き上げれば貧困率が下がり、生産性が上がり、所得格差が縮小するとも訴えてきた。ただ、最低賃金の引き上げは、議会共和党の強い抵抗に遭う可能性が指摘されている。
<保育、有給休暇>
ブーシェイ氏は、家庭に優しい政策がどのように成長押し上げにつながるかを研究してきたが、コロナ禍で多くの女性が労働人口から弾き出された今、その研究内容が改めて重要性を帯びている。
バイデン氏が計画する介護者向けの政策には、ブーシェイ氏が研究し続けてきた措置が多く盛り込まれている。保育を対象とする税控除の拡大、高齢者介護サービスの拡充、介護士の給与・手当増額などだ。
ブーシェイ氏は30日、「私が人生で取り組んできたのは、われわれの家族と労働が、経済の中で適切に評価されるようにすることだ」とツイートした。
<職業訓練とインフラへの投資>
バイデン氏のチームは、米国のインフラ改善への投資を約束している。スプリッグス氏によると、インフラは広義では「国民が就業できるようするため、政府がすべきこと」と定義することが可能で、職業訓練プログラムや保育サービスへのアクセス向上が含まれる。
スプリッグス氏によると、ラウズ、ブーシェイ両氏は、インフラのこの定義を重視する可能性が高い。
(Jonnelle Marte記者、Heather Timmons記者)
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