アングル:中国初の民法典、同性カップルの居住権に「救いの手」
ロイター / 2020年6月5日 11時35分
[北京 28日 ロイター] - 「不意打ちだった」──。ヒー・メイリさん(51)は、亡くなった同性の女性パートナーの義父母に警察署で面会したとき、パートナーと12年間一緒に暮らしたアパートの立ち退きを求められたと述懐する。
「自分は法に守られていないのだと痛感したのは、警察署でのあの瞬間だった」と、ロイターに語った。
死について口にすると死期が早まると信じていたパートナーのリー・シンさんは生前、遺書を書いておらず、不動産の所有権をはっきりと話題にすることもなかった。
2016年にリーさんが難病の全身性エリテマトーデスで亡くなると、中国南部の広州市にあるアパートは法律上の最近親者である義父母が相続し、ドアにはすぐに立ち退き通告が貼られた。
中国の法律は同性愛関係を禁じてはいないが、認めてもいない。このため法的な争いになると、ヒーさんとリーさんのようなカップルは寄る辺のない状態に置かれる。
しかし、全国人民代表大会(全人代=国会)で28日、個人の所有権の保護を改善しようとする中国初の「民法典」が可決され、同性カップルが所有権を主張できる希望が生まれた。1260におよぶ条項の中には「居住権」も盛り込まれている。
これにより不動産の所有者は、別の個人に一定期間もしくは終生、その不動産に住む権利を与えることが可能になる。家族が異議を申し立てることができる遺書に比べ、法的保護ははるかに厚い。
上海の弁護士、シャン・シアンリン氏は「民法典は、居住権を与えられる人々について親族関係や性といった制限を設けていない」とし、理論上は同性カップルにも適用されると説明した。
「LGBTコミュニティーにとって、福音になるかもしれない」とヒーさんは言う。故郷の広西チワン族自治区からリベラルな大都市である広州市に出てきた彼女は、制度の関係で同市に戸籍がないため、市内でアパートの共同所有が禁じられていた。
<進歩、だが心配も>
しかし、「居住権」の実際の運用を巡っては、実際に機能するのかどうか懸念が残る。
2021年1月1日に発効する民法典は、憲法の次に強い法的効力を持つが、その性質は概括的だ。このため中央政府の司法当局が後日、地方当局の司法官に執行の指針を示すことになっている。
同性カップルは「居住権」に守られる、と指針に明記されるかどうかは不明で、文言が曖昧な場合には無視する地方当局が出てくるかもしれない。
不動産法を専門とする弁護士、ヤン・ジャンウェイ氏は「同性カップルの所有権が守られるかどうかは、予断を許さない」と言う。
それでも中国のLGBTコミュニティーの一員である広州市のペン・ヤンフイさん(36)は今のところ、民法典の成立に興奮している。
地元生まれの彼は、パートナーのヤン・イーさん(31)のことが心配だ。
ヤンさんは、2人が住む50平方メートルの市内アパートで頭金を全部出してくれるなど、かかった費用をほとんど負担してくれたが、甘粛省出身なので制度上、共同所有ができない。
共同生活は至福だと言うペンさん。「だけど非常に危なっかしくもある。アパートは僕のもので、僕に何かあれば法的には所有権は僕の両親に行く」。ペンさんが自身の性的指向について両親と話をしたことはない。
ペンさんによると、民法典の成立は進歩だが、LGBTコミュニティーにとって究極の目標は、同性カップルにも中国の法律上、結婚の法規が適用されることだ。「どんな司法官でも結婚と言えば意味は分かる。それなら説明は不要だ」
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