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焦点:権利運動と同時に高まる不寛容、拡大する米の白人至上主義

ロイター / 2020年9月7日 16時1分

 9月4日、米国では今、黒人女性が初めて2大政党の将来の有力な大統領候補となる資格を手に入れ、人種の垣根を越えて「黒人の命は大事(BLM)」運動への支持が広がっている。だが同時に、白人至上主義者の団体がメンバー獲得や公共の場での活動に力を入れる光景も目にされる。写真は白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)のデモ。2017年7月8日、バージニア州シャーロッツビルで撮影(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

[ワシントン 4日 ロイター] - 米国では今、黒人女性が初めて2大政党の将来の有力な大統領候補となる資格を手に入れ、人種の垣根を越えて「黒人の命は大事(BLM)」運動への支持が広がっている。だが同時に、白人至上主義者の団体がメンバー獲得や公共の場での活動に力を入れる光景も目にされる。

全ての人に同等の権利を保障するという理念を掲げてきた米国では、過去何十年もの間、この理念を支持する全国的な運動が展開される一方、その都度、一部から露骨な嫌悪が表明されるパターンが続いてきた、とロイターが取材した6人の学者や歴史家は話す。

つまり、マイノリティーの権利が拡大すると、不寛容も助長させてしまうというのが米国の現実だったのだ。

<フロイド事件の反作用>

アメリカン大学で二極化や過激主義の研究に取り組むシンシア・ミラーイドリス氏は「権利拡大運動が進展するたびに、われわれは真の平等に一歩ずつ近づく。だがその進展を脅威と感じる人たちから常に反発がある」と語る。

そうした変化で立場が危うくなると思う人々は権利拡大運動を阻止するために仲間集めに熱意を注ぎ、暴力や過激な政治宣伝を行使するのも辞さないこともあるというのが同氏の見方だ。

同氏によれば、2008年にバラク・オバマ氏が黒人初の大統領に当選した後、ヘイト団体の数が「膨張した」。これは1954年の「ブラウン判決(公立小学校での人種分離制度に対する最高裁の違憲判断)」のあとや、1960年代の公民権運動の盛り上がりに伴って白人至上主義団体の元祖とも言えるクー・クラックス・クラン(KKK)が再び活発化した事態を彷彿(ほうふつ)させる。

BLMに代表される今回の反人種差別運動の特徴は、以前よりもより多くの政治家や一般の白人層が支持している点にあると、歴史家や人権問題専門家はみる。

5月25日に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえ込まれて死亡した事件をきっかけに、米国だけでなく世界中で人種差別への抗議の声が広がった。8月23日に黒人男性ジェイコブ・ブレークさんが警官から銃撃されて重傷を負うと、抗議活動がさらに激化して暴力的な騒乱に発展する場面もあった。

センター・フォー・アメリカン・プログレス(CAP)のサイモン・クラーク上席研究員によると、米国は人種をまたぐ多元的で調和のとれた民主主義を生み出すという偉大な社会的努力を続ける国だが、BLM運動の最中に、こうした流れに対する反発が加速。これは政治的な反発であると同時に、暴力的で社会的な反発でもあるという。

白人至上主義団体の「国家社会主義運動(NSM)」と「シールドウオール・ネットワーク」はロイターに、メンバー数が増加しつつあることを明らかにした。参加を前向きに考えている多くの人は、武器所有の権利など、自分たちの自由に制約が課される不安から、BLM運動に否定的な見方をしている。

NSMの「司令官」を自称するバート・コルッチ氏は、ある入会希望者が電話で、銃と弾丸をたくさん用意しており、自分の町の街頭に連中が繰り出してトラブルを起こそうとするなら、立ち向かうと話してくれたと打ち明けた。

人権保護団体アンチ・デファメーション・リーグ(ADL)が行った調査では、今年これまでに過激主義の政治宣伝に関連して起きた「騒動」は3566件と、前年同期の2074件を上回っており、その8割に白人至上主義者が関係している。

<広がる温度差>

別の白人至上主義団体の「パトリオット・フロント」は2月に首都ワシントンで示威行進を開催。ここ数カ月はアリゾナ州からバーモント州まで、各大学の敷地でこの団体の宣伝ビラやパンフレットが発見されている。複数の白人至上主義団体はこの夏、BLM運動の抗議デモ参加者へ銃を向けるよう呼び掛けるメッセージをフェイスブックに投稿し、7月にはフロリダ州とペンシルベニア州で対抗デモを行った。

ピュー・リサーチセンターが1年前に公表した調査からは、米国では人種の多様化が進行しているものの、全国民のおよそ6割をなお白人が占めていることが分かる。しかし同センターによると、11月3日の大統領選で有権者登録の資格がある国民のうち非白人の割合は約33%で、2000年の25%から上昇している。

もちろん一般国民の感覚としては、ロイター/イプソスの昨年の世論調査で明らかなように、多様性に肯定的だ。同調査では、全体の63%が「さまざまな文化の出自を持つ人がいる社会で生きるのが望ましい」との見方に賛成した。ただ、政党別で見ると、野党・民主党支持者はこの比率が78%に高まり、与党・共和党支持者は45%にとどまる。

<BLMへの怒りの声>

シールドウオール・ネットワークのメンバー、ビリー・ローパー氏は「米国が今ほど分断化されていて、なおかつ全ての側が緊迫している状況は見たことがない」と語る。

とはいえロイターが取材した学者や歴史家に言わせれば、以前にも似たような局面は存在した。

人権団体サザン・ポバティー・ロー・センター(SPLC)によると、米国で最も歴史が古く暴力的な白人至上主義団体が、南北戦争終了時に結成されたKKK。当時の連邦政府が打ち出した進歩的な政策の撤回を目指したKKKは、南部諸州で黒人への暴力行為を繰り返し、特に黒人が新たに獲得した参政権を否定した。

またSPLCの調べでは、公民権運動が始まったころに、南北戦争で奴隷制を支持した南軍(コンフェデラシー)の英雄をたたえる記念碑が南部で続々と建立された。昨年2月時点で、南部をはじめ米国内の公的な場所にそうした記念碑が少なくとも780体あり、このうち604体の建立は1950年以前だが、28体は1950-1970年に、34体は2000年以降だという。

2015年の最高裁が同性愛者たちの結婚を合憲とした判決の後は、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)の権利に異議を申し立てる訴訟や、権利を制限しようとする保守派の政治的な動きが改めて急増している。

NSMのコルッチ氏は、人種差別への抗議やBLM運動に対する企業および世論の支持が増えていった後で、NSMにも問い合わせの電話やメールが以前より多くなったと述べた。ロイターに対し「寄せられたメールの一部を読めば、(こうした運動への)まさに怒りの声を聞くことができる」と共感者の存在をアピールした。

(Katanga Johnson記者、Jim Urquhart記者)

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