アングル:膠着する円債市場、19年ぶりの薄商い 日銀材料にも反応薄
ロイター / 2021年6月7日 17時16分
坂口茉莉子
[東京 7日 ロイター] - 円債市場のこう着感が一段と強まっている。5月の新発10年債は19年ぶりの薄商いとなった。国内のインフレ期待がほとんど高まらないことから、日銀の金融政策は当面現状維持との見方が大勢であるためだ。国債買い入れオペの変更などにも反応が鈍い。
<海外勢が敬遠>
リフィニティブのデータによると、5月の新発10年債の出来高は3390億円と、月間ベースでは2002年5月以来(3025億円)に次ぐ低水準。また、金利変動幅は2.0ベーシスポイント(bp)にとどまった。新発10年債の業者間取引(日本相互証券ベース)は、6月に入り日中の出会いがない取引未成立の日が2日に達している。
需給的には海外勢の売買が減少している。大阪取引所が公表している投資家別の国債先物取引状況によると、5月の海外投資家の取引高は51万枚と、2020年平均の74万枚を下回る水準だった。
「(海外債券との相対感をみる)レラティブバリューでプレーをしている参加者の動きが一服した」(国内投資家)という。円債のボラティリティーが低いことに加え、為替スワップで得られる上乗せ金利が縮小したことから、日本の利付国債への買いが減少。発行量が多く、売買しやすい国庫短期証券などの売買にとどまっている。
アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は「海外投資家は大きなリスクを取るが、(動かない)円債市場はリターンが少ないことから、売買するインセンティブがない」と指摘する。
<「日銀は当面動かず」との見方>
動かない円債の大きな背景について、モルガン・スタンレーMUFG証券のエクゼクティブディレクター、杉崎弘一氏は「市場が日銀は金融引き締め、あるいは金融緩和方向のいずれの方向にも動けないと思っていることが要因だ」とみる。
インフレ議論が活発化している欧米と異なり、日本ではコロナ禍によるデフレ懸念も警戒されている。3月の日銀点検では緩和政策の持続性が高められた。利上げも利下げもしばらくなさそうだとの見方が、円債相場のこう着感を生み出している。
日銀は18年7月に長期金利の変動幅をプラスマイナス0.1%程度から倍程度に拡大。今年3月の点検では、長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.25%程度に明確した。しかし、いずれも円債市場のボラティリティは中期的にみて高まらなかった。
今年4月、日銀は全年限で国債買い入れを減額したが、30年債を除き金利水準はほぼ変わらなかった。市場では、7月以降、国債買い入れを再減額したとしても、大幅な金利上昇にはつながらないとの見方が多い。
<超長期債に動意戻るか>
5月のこう着相場は、米長期金利の上昇が一服したことも一因だ。しかし、米金利上昇が再開しても、日本の10年国債金利の動きは相対的に鈍いとみられている。
市場推計では、10年債でみて、米金利と円金利の連動性は従来0.2ベータ程度あった。米金利が10bp動くと、円金利は2bp動くという意味だ。しかし、日本独自の材料に乏しい中、連動性の上昇は見込みにくい。
一方、超長期債は比較的、景況感などを反映させやすいとみられている。日本でもワクチン接種が進み、日本の景気回復への期待が強まれば、20年債や30年債などを中心に金利が上昇していく可能性がある。
ニッセイ基礎研究所の金融研究部、福本勇樹主任研究員は「円金利は超長期債を中心に米金利との連動性が生じてくる」と指摘。そのうえで、超長期金利が一定レベルまで上昇すれば、機関投資家が資金を一気に振り向けるとし、円債にも動きが戻ってくるとの見方を示している。
(坂口茉莉子 編集:伊賀大記)
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