地銀の存在に危機感、奈良の南都銀行 経営目標に県のGDP成長率
ロイター / 2020年12月8日 11時18分
12月8日 南都銀行橋本隆史頭取(写真)は、地銀再編の流れが強まっていることについて、「周辺の地銀と統合すれば規模は大きくなるかもしれないが、各都道府県のありようは若干違う」と語った。2月21日撮影(2020年 時事通信)
[奈良市 8日 ロイター] - 奈良県の実質県内総生産(GDP)を10年間で10%増加させる――。昨年12月、地方銀行の中でも異例の目標を中期経営計画に掲げた南都銀行。橋本隆史頭取はロイターのインタビューで、県のGDPを経営目標に据えたのは地域経済の振興に取り組む「本気度」を示すためだと述べた。
橋本頭取は、地域の経済成長が自行の収益向上にもつながると説明。事業創生・観光振興・企業の生産性向上の3つの柱で目標達成を目指す考えを示した。南都銀は古民家再生ファンドを立ち上げ、古民家を宿泊施設や飲食施設に生まれ変わらせることで観光客の滞在につなげ、消費を促すことを狙う。
中計では、中間目標として2024年度までに「顧客向けサービス損益」の黒字化を掲げた。南都銀は昨年度まで12期連続で赤字だったが、20年度中間期はコロナ関連の融資増などで11億円の赤字と赤字額が前年度比で半分以下になった。橋本頭取は、黒字化目標の前倒し達成も可能との見通しを示した。
<地銀存続への危機感>
10年後、地銀は存在しているのか――。この問題意識が新中計の議論の出発点だったと橋本頭取は振り返る。人口減や経済情勢の変化などで銀行業の在り方に変化が迫られる中で、奈良県でいかに存在感を示し貢献していくか議論を重ねた結果、「地域が成長しない限り地域金融は成り立たないのではないか、地域金融を機能させないと地域は回っていかないという結論に至った」という。橋本頭取は、地域経済振興への「本気度」を示すため、自行の収益目標ではなく県のGDPを目標に据えたと話した。
今年9月、「地銀の数が多過ぎる」と発言した菅義偉氏が首相に就任。政府・日銀が地銀再編を後押しする環境整備を進めている。橋本頭取は「周辺の地銀と統合すれば規模は大きくなるかもしれないが、各都道府県のありようは若干違う」と指摘。地域活性化に貢献するため、「筋肉質」な経営体質作りに注力すると強調した。
<宿泊客が「立ち寄る」古都・奈良>
奈良県のGDPは年度終了の約2年半後に公表されるため、中計のベースになったのは16年度の実質GDPで3兆5585億円。南都銀はこのGDPを約3500億円押し上げる目標を掲げている橋頭取は創業支援・企業誘致で1000億円、観光で1000億円、生産性向上で1500億円の押し上げを目指すと話した。
奈良県は法隆寺地域の仏教建造物など3つの世界遺産がある観光地でありながら、宿泊施設客室数は全国最下位。橋本頭取は奈良の観光地は「大阪、京都を(宿泊)拠点に立ち寄る場所になってしまっている」と述べ、「滞在型観光に変えていきたい」と語った。観光客が宿泊して滞在期間が長くなれば、それだけ奈良県での消費が増えやすくなる。
南都銀は19年、古民家の再生に取り組むNOTE(兵庫県丹波篠山市)などとともに古民家をリノベーションして宿泊施設などにするファンドを立ち上げるなど、観光客が宿泊・滞在しながら奈良県の歴史的な建造物などを巡ることができる街づくりに取り組んでいる。
<顧客向けサービス損益、前倒しで黒字化見込み>
南都銀は中計の中間目標として、本業である貸し出しと手数料ビジネスから得られる利益から営業経費を引いた「顧客向けサービス損益」について24年度までに黒字化する目標を掲げている。南都銀は昨年度まで12期連続で損益が赤字となってきたが、橋本頭取は「去年の段階で5年後に中間目標を置いたが、今の時点では3年ぐらいで達成できると思う」と話した。
20年度中間期の顧客向けサービス損益は11億円の赤字で、19年度中間期の25億円の赤字から赤字幅が半分以下になった。新型コロナウイルス関連融資を含めた貸出金利息の増加や役務取引等利益の増加に加え、人件費や物件費は減少した。南都銀は融資や手数料ビジネスの強化と経費削減の双方について、取り組みを加速させる方針だ。
<ハレーションなくしてイノベーションなし>
南都銀は人材育成でも新機軸を打ち出した。10年後の目標に、地域の顧客企業のブレーンとして経営の意思決定に参画できる人材を350人創出する目標を掲げている。橋本頭取は「中小企業の一番のネックが人材。社長が起業しても、参謀や番頭が意外と少なくて悩んでいるケースが多い」と指摘。「法人営業は単にアドバイスするだけではなく、一緒に汗を流すのがわれわれのやり方だ」と述べた。
南都銀の人材戦略のキーワードに「おもしろい人材」がある。橋本頭取は「会社の将来を堂々と語り、社長と話ができる、一緒に行動できる人材」と説明。行員が個性を伸ばし能力を磨くため、来年度から副業奨励制度も導入する。
外部からの人材登用にも前向きだ。19年には金融庁で地域金融企画室長をしていた石田諭氏が入行し、副頭取を務めている。外部人材が入ることで行内でハレーションが起きることも予想されるが、橋本頭取は「ハレーションが起こらないとなかなかイノベーションが起こらないのが今の常だ」と語る。
事業環境の急速な変化で「プロパーだけでやっていくのはおそらく不可能だ」と橋本頭取は話し、奈良の地域経済発展に尽くす南都銀の姿勢を共有することを条件に外部人材を積極的に採用する方針を示した。
*インタビューは3日に実施しました。
(和田崇彦、木原麗花 編集:内田慎一)
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