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焦点:「複製不能」時代のデジタル芸術、10秒の作品が7億円に

ロイター / 2021年3月8日 13時18分

 米プロバスケットボール協会(NBA)が立ち上げた、「トップショット」というウェブサイトの画像。このサイトでは、ユーザーが試合のハイライト映像という形でNFTを購入・取引することができる(2021年 ロイター/Dapper Labs/via REUTERS)

Elizabeth Howcroft Ritvik Carvalho

[ロンドン 1日 ロイター] - 2020年10月、マイアミの美術収集家パブロ・ロドリゲス・フレイル氏は、オンラインで無料視聴が可能だった10秒間の動画作品に約6万7000ドル(約716万3000円)を投じた。先週、同氏がその作品を売却して得た金額は、実に660万ドルである。

この映像作品は、デジタルアート作家「ビープル」ことマイク・ウィンケルマン氏によるもの。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を利用したデジタル署名によって、誰が所有者であるか、また複製ではないオリジナル作品であることが証明される。

これは「非代替性トークン」(NFT)と呼ばれる新たなタイプのデジタル資産である。パンデミック下で、好事家や投資家がオンラインにのみ存在する商品への巨額の投資に殺到したことで、NFTの人気は一気に拡大した。

<「唯一無二」として認証可能に>

オンラインに存在するモノは従来であれば無限に複製可能だったが、ブロックチェーン技術により、「唯一無二」としての公な認証が可能になった。

「ルーブル美術館に行って『モナリザ』の写真を撮って保存しておくことはできるが、その写真には何の価値もない。作品の来歴、つまり歴史が備わっていないからだ」とロドリゲス・フレイル氏は語る。「ビープル」の作品を初めて購入したのは、米国で活動するこの作家の作品についての知識があったからだという。

「オンラインでも、作品を非常に貴重なものにしているのは作品の背後にいる作家だというのが現実だ」

NFTの「非代替性(ノン・ファンジブル)」とは、貨幣や株式、金の延べ棒など「代替可能な」ものとは対照的に、1つ1つが独自であるゆえに「同一の条件」を基準に交換することができないものを指す。

NFTの例としては、デジタルアート作品やスポーツカード、仮想環境における土地区画、排他使用される暗号通貨のウォレット名などがある。ウォレット名についてはインターネット黎明期に起きたドメイン名の争奪戦を想起させる。

ロドリゲス・フレイル氏が売却したコンピューター制作による映像は、全身にスローガンを貼り付けたドナルド・トランプ氏のように見える巨大な像が、不似合いな田園風景のなかに倒れているものである。

NFTを扱う市場であるオープンシーはブロックチェーンの処理データを元に、1月の取引額が800万ドルだったのに対し、2月の取引額は26日の時点で8630万ドルに増大したと述べている。1年前には1ヶ月の取引額は150万ドルだった。

オープンシーの共同創業者アレックス・アタラー氏は、「1日10時間コンピューターを使うなら、あるいはデジタル領域で1日8時間過ごすのであれば、デジタル領域におけるアート[の売買]も非常に理にかなっている。なぜなら、デジタル領域が世界そのものだからだ」と語る。

だが投資家は、NFTには巨額の資金が流入しているものの、市場が価格バブルの状態になっている可能性があると警告する。

新しく誕生したニッチな投資分野の多くがそうであるように、一時的な熱狂が薄れれば大きな損失を被るリスクがある。一方で、多くの参加者が仮名で活動している市場は、詐欺師が活躍するにも絶好の舞台になる。

<「恐怖を受け入れる」クリスティーズ>

それにもかかわらず、競売大手のクリスティーズは同社初となるデジタルアートの販売を開始した。やはり「ビープル」による5000点の写真をコラージュした作品で、NFTとしてのみ存在する。

この作品への入札は3月11日に締め切られるが、価格はすでに300万ドルに達している。

クリスティーズで戦後・現代美術を専門とするノア・デイビス氏は、「まったく未知の領域に足を踏み入れている。入札開始から最初の10分で21人の参加者から100件の入札があり、価格は100万ドルに達した」と語る。

さらにデイビス氏は、自分の担当部門でオンライン限定の競売で入札価格が100万ドルを超えたことはかつてなかった、と言う。

1766年創業のクリスティーズでは、従来の通貨だけでなく、デジタル通貨「イーサリアム」による決済も受け入れる計画である。この決定は、暗号通貨のメインストリーム化を後押しする可能性がある。

デイビス氏は暗号通貨による決済の受け入れについて、「この勢いは止めようがない。どのような種類の機関であれ、不可避の流れに抵抗しようとしても、あまり成功はしないだろう」と語る。「だから、恐怖を受け入れてしまうことが最善なのだ」

<スター選手の決定的瞬間が20万8000ドル>

NFTは、暗号通貨やブロックチェーンをめぐる熱狂や、オンラインの世界を生み出す仮想現実の潜在的な可能性から追い風を得ているのかもしれない。NFTへの関心の高まりは、ロックダウン中のオンラインショッピングの急増とも重なっている。

NFTへの関心が急激に高まった契機が、米プロバスケットボール協会(NBA)による「トップショット」というウェブサイトの立ち上げだ。このサイトでは、ユーザーが試合のハイライト映像という形でNFTを購入・取引することができる。

トップショットによれば、立ち上げから5ヶ月で購入者は10万人を超え、取引金額は2億5000万ドル近くに達したという。売買の大多数は同サイトのユーザー間取引市場で発生しており、NBAには取引1件ごとに手数料収入が入る。

取引量は急速に増大している。トップショットによれば、2月の月間売上高は26日の時点で合計1億9800万ドルと、1月の4400万ドルの5倍増に近づいている。

コレクション用のアイテムには「1つ1つ、稀少性を保証されたシリアルナンバーが付いており、ブロックチェーンによって所有権が保護されている」とトップショットでは話している。「レジェンド級の選手レブロン・ジェームスによるダンクシュートの映像#23/49を所有していれば、その映像を持っているのは世界で1人だけということになる」

過去最高額の取引は2月22日に発生した。あるユーザーが、レブロン・ジェームスによるスラムダンク・シュートの映像に20万8000ドルを投じたのだ。

NFT取引に熱心な「プランクシー」というアカウント名のユーザーは、ロイターの取材に対し、2017年に初期のNFTプロジェクトに600ドルを投資したが、今ではNFTや暗号通貨で最大「100万ドル単位」のポートフォリオを築いているという。このユーザーは家族のプラバシー保護のため匿名を希望している。

「プランクシー」氏はこれまでトップショットに100万ドル以上をつぎ込み、購入した映像の転売で約470万ドル稼いだという。ロイターではこの数字について独自の裏付けを得られなかったが、トップショット側では、彼が同サイトで最も購入額の多いユーザーの1人であることを認めている。

ツイッター経由で行われたインタビューで「プランクシー」氏は、「純粋に投資として考えている。いま存在する他のコレクターズアイテムやNFTとほぼ同じだ」と語った。「トップショットが始まるまでは、バスケットボールの試合を観たことは一度もない」

<「メタバース」(仮想世界)の出現>

ナッシュビルのNFT投資家ネイト・ハート氏は、「プランスキー」氏と同様に、NFT市場が最初に開発された2017年から投資しており、オートグリフスやクリプトパンクといった人気のデジタルアート系NFTの価値が上昇するのを体験してきた。

ハート氏によれば、NBAトップショットで、「コズミック」セットに含まれるレブロン・ジェームスのNFTを4万ドルで購入したが、2月に12万5000ドルで売却したという。

「ゾクゾクする。現実とは思えない。良いタイミングで良い場所にいて、運が良かった。だがリスクも負っている」とハート氏は語る。

「NFT取引市場は大きく成長している。ややバブルになっているとも思う。そう、バブルだ」とハート氏は言う。

1月に600万ドル規模のNFT投資ファンドを立ち上げたアンドリュー・スタインウォルド氏は、NFTの大半はいずれ無価値になる可能性があると警告する。

だが多くのNFT支持者と同様、スタインウォルド氏も、一部のアイテムは価値を維持し続けると信じており、NFTはデジタル所有権の未来を体現しており、仮想環境で人々が生活し、交際し、お金を稼ぐ世界への道を開くものだと確信している。

「我々は常にネットに接続し、デジタルの世界で多くの時間を費やしている。今や、その世界に所有権の概念を追加するのは理にかなっているし、それによって突如として『メタバース』(仮想世界)が出現する」とスタインウォルド氏は語る。

「1日あたりの取引額が何兆ドルという規模に到達しつつあるのではないか」

(翻訳:エァクレーレン)

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