焦点:苦境の金正恩氏、軍事パレードで大型弾道ミサイル公開か
ロイター / 2020年10月9日 14時50分
北朝鮮では10月10日の朝鮮労働党創建75周年に合わせて、軍事パレードなどさまざまな祝賀行事が行われるF。写真は2017年4月、ピョンヤンで行われた軍事パレードで撮影(2020年 ロイター/Sue-Lin Wong)
[ソウル 8日 ロイター] - 北朝鮮では10日の朝鮮労働党創建75周年に合わせて、軍事パレードなどさまざまな祝賀行事が行われる。金正恩朝鮮労働党委員長にとっては軍事力を誇示することで、経済の悪化や国際的孤立の深まりに直面する中で国民を鼓舞する機会となる。金氏が国内外に向けてどのようなメッセージを発するのか、世界の北朝鮮ウオッチャーが注目している。
金氏は北朝鮮の経済発展を掲げたが、国連制裁や非核化交渉の行き詰まり、新型コロナウイルスの感染拡大、夏の荒天などによって目標を達成できず、苦しい立場に立たされている。
今回の祝賀行事の大半は、国際的な会合や展覧会・産業博覧会、ライトショー、建設プロジェクトの竣工セレモニーなどを通じた国内向けのメッセージ発信に重点が置かれる、とアナリストはみている。
しかし、金氏が10日の軍事パレードで、2018年のトランプ米大統領との首脳会談後で初めて大型弾道ミサイルを「披露」するとの観測が高まっている。
数週間後には米大統領選を控えており、アナリストは軍事パレードが金氏にとって、新たな核実験や長距離ミサイル発射などの挑発的な行為に訴えることなく、軍事的なスタンスを示す機会になり得るとみている。
<新型ミサイル>
金氏は今年に入って、米国が圧力をかけ続けているとして、新たな「戦略兵器」を公開すると表明した。金氏はこうした米国からの圧力が、非核化交渉の行き詰まりを招いていると主張している。
北朝鮮は弾道ミサイルの発射が可能な潜水艦を開発中とみられており、試験の実施が近いとの観測が流れている。ただ、米シンクタンク「大西洋評議会」の最近のリポートで米情報機関の元関係者2人は、金氏は今回の軍事パレードでもっと強力な兵器の存在を明らかにするかもしれないと指摘した。
この元関係者2人は、北朝鮮が軍事パレードで突然、新兵器を公表するとしても、映画「レッド・オクト-バーを追え」に出てくるような弾道ミサイル潜水艦ではなく、新型ミサイルになりそうだと予想した。
北朝鮮はこれまでにもパレードで、ミサイルやミサイルの実物大模型を公開してきた。韓国メディアは情報機関関係者の話として、平壌近郊の施設で過去に試験済みのどの型よりも大きい大陸間弾道ミサイル(ICBM)が目撃されたと報じた。
オープン・ニュークリア・ネットワークの副ディレクター、メリッサ・ハナム氏は、こうした目撃情報から北朝鮮が、ミサイルをすぐ発射できる状態でコンテナに格納するシステムを公開する可能性があると指摘した。北朝鮮は2017年の軍事パレードでもミサイルを披歴し「多段式固体燃料ICBMの開発を進めていることを示唆した」という。
固体燃料兵器は液体燃料型に比べて保管が容易で、迅速に配備できる。ただ、17年に公開された格納庫が内部にミサイルを装填(そうてん)していたかどうかは不明だ。
<発射装置も増加>
金委員長は核実験やICBMの発射を控える一方、戦闘に即応し得るミサイルや核兵器の迅速な製造を求めており、今回の軍事パレードで多数のミサイルを公開するとの観測が高まっている。
兵器の公開に当たっては、金氏の命令が達成されたことを示すばかりでなく、ICBMの輸送に欠かせない、より大型の輸送起立発射装置(TEL)の製造能力を誇示することにもなるだろう。
ハナム氏は「TELの数が、北朝鮮の保有ミサイル数にとって重要な制約になっている」と指摘。軍事パレードについて、昨年の公開以来、何度も試射が行われた「KN-23」のような短距離ミサイルが大量に公開されるかどうか注視すると述べた。こうしたタイプのミサイルは小型で、発射に要する時間が短く、核戦争に発展する恐れがある「限定戦争」に利用されることがあるため、最も大きなかく乱要因だという。
<国内向けメッセージ>
10日に向けて、平壌の商業地区では大規模な病院の建設作業が完成に向けて急ピッチで進んでいる。米シンクタンクの38ノースが6日発表したリポートによると、病院の外装部分は完成していることが衛星画像で確認された。内装がどの程度完成に近づいているか疑わしいが「今週末のイベントにおける重要なプロパガンダの1つ」になりそうだという。
軍事パレードなどのイベントが行われる見通しの金日成広場でも、大規模な改修作業が行われている。
米政府の元北朝鮮専門家でアナリストのレイチェル・ミンヨン・リー氏は「北朝鮮の指導部にとって大きな政治イベントは、国内の統合を進め、国力に対する国民の誇りを鼓舞する絶好の機会だ。新型コロナウイルスによる隔離措置が長引き、最近では洪水にも見舞われており、指導部は今回の祝賀行事をまさにそうしたチャンスにしたいと切望しているだろう」と述べた。
(Josh Smith記者)
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