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焦点:コロナ禍で「1日1食」、増える困窮者 備蓄米開放も不十分

ロイター / 2021年2月9日 10時39分

 2月9日 新型コロナウイルス禍の長期化で収入が減り、その日の食事にも困る人が増えている。支援団体が無償提供する食事の利用者はこの1年で倍増、日本政府は備蓄米の開放に動き出した。写真は倉庫に備蓄されている政府米。1999年10月、東京で撮影(2021年 時事通信)

中川泉 金昌蘭

[東京 9日 ロイター] - 新型コロナウイルス禍の長期化で収入が減り、その日の食事にも困る人が増えている。支援団体が無償提供する食事の利用者はこの1年で倍増、日本政府は備蓄米の開放に動き出した。それでも行政の動きはまだ鈍く、食を巡るこの国のセーフティネット(安全網)のぜい弱さがコロナであぶり出された格好だ。

<食糧支援の利用者、1月は高止まり>

都内の大学に通う4年生のあゆみさん(本人の申し出により名字は掲載せず)は昨年の夏以降、1日1食の生活を続けている。弟や妹の学費がかかる実家の負担を減らそうと、約10万円の自身の生活費はもともと飲食店でアルバイトをして賄ってきた。しかし、このコロナ禍で外食需要は激減、勤務先は閉店した。清掃のアルバイトを見つけたものの、できる限り切り詰めて生活している。

「飲食業で生活を賄う友人も多く、収入減で生活ぎりぎりとなっている例も少なくない」と、あゆみさんは話す。

こうした状況を受け、日本最大のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」は、複数の大学で食事の無償提供を始めた。あゆみさんたちも、月に1回利用できるようになったという。

昨年初めにコロナの感染が拡大し始めてから、この1年で日本社会は様変わりした。コンサートやスポーツ競技など大型イベントは次々と中止に追い込まれ、飲食業や観光業は利用客が激減。帝国データバンクによると、コロナに関連した倒産は1年間で1000件に達した。生活困窮者は以前から増えつつあったものの、コロナ禍で職を失ったり収入が減り、その日の食事にさえ困る家庭や人々が急増した。

東京の足立区では生活資金の相談に区役所を訪れる住民が増え、昨年末12月にはおよそ400件、前年比3割増の問い合わせが舞い込んだ。生活保護の条件には当てはまらないまでも、生活に不安のある人々が相談に訪れているという。区内のハローワークでは飲食や旅行業界で働いていた求職者が増え、失業給付の申請件数は昨年秋に前年比約2割程度、11都府県に緊急事態宣言が再発令された今年1月には同3割程度それぞれ増加した。

セカンドハーベスト・ジャパンによると、個人向けの無償提供件数はコロナ前の2倍以上に増えた。昨春に増えた後、夏はいったん減少したが、昨年の秋以降は増加傾向となり、今年1月は高止まりしている。

政策提言担当マネジャーの芝田雄司氏は「昨年夏ごろまでは政府の特別定額給付金の効果もあったようだが、その後に生活資金が底をついた人たちが増えたと思われる」と話す。非正規就業者やひとり親世帯などに加えて、正社員も残業代がなくなり、4人家族で生活するために食費だけでも節約したいといった事情の人も訪れているという。

<備蓄米開放、1日分にも満たず>

政府も動いている。しかし、就労支援や給付金という制度はあっても、食事ができないというすぐ目の前にある危機に対処する正式な枠組みは、子ども向けとしては存在するが、成人向けにはない。

農林水産省は昨年5月、政府備蓄米の一部を無償提供し始めた。これまで食育用として学校給食向けには交付していたが、コロナ禍を受けて提供対象を広げた。

ところが、その量は1つの支援団体につき年間60キロ、規模の大きいフードバンクでは1団体が提供するコメの1日分にも満たなかった。およそ140団体が受け取っており、全体で100万トン規模の備蓄米のうち、提供量は最大でも10トンに満たないとみられる。

転売などを防ぐ必要があるとして、炊飯で提供する原則も維持したため、使い勝手が悪いとの批判が相次いだ。そこで今年2月、子どものいる低所得家庭に食材を届ける民間支援団体(こども宅食など)を対象に加え、新たに1団体につき年間300キロまで提供することにした。精米を供給することも可能になった。

ただし、こうした備蓄米提供の目的はあくまで「食育」。ごはん食の重要性を子どもに理解してもらうためであって、生活に苦しむ大人はこの安全網には引っかからない。厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、いわゆる貧困層に当たる人々の割合は人口の15.4%を占めている。およそ1900万人に上るとみられ、直近の所得に当てはめると、日本人の平均可処分所得の半分である「貧困線」にも満たない年間127万円未満の所得しかない世帯だ。

セカンドハーベスト・ジャパンのチャールズ・マクジルトン最高経営責任者(CEO)は、「およそ2000万人弱が貧困線以下で生活している実態がある中で、備蓄米の放出を1団体年間300キロという量は侮辱行為だ」と、さらなる放出を求めている。「この国では備蓄米は相当な量だ」と主張する。

<不十分な食の安全網>

一方で、農水省は「備蓄米の交付条件の緩和は難しい」(穀物課)とする。備蓄米はもともと、不作に備えるための制度として作られた。十分に流通している中で備蓄米を大量に提供すると、市場に影響を与える恐れがあると説明する。また、今回の備蓄米提供は「食育」のためであり、貧困対策として実施しているものではないと話す。

困窮者対策を担う厚生労働省も、「現物支給という形での支援は行っていない」(社会・援護局)とする。あくまで地域の実情に応じた困窮者対策として、自治体単位で相談窓口の設置や就労サポートという形の後方支援にとどまる。

米国では、政府の低所得者向け食料補助対策として「フードスタンプ制度」がある。米農務省によると、20年末時点で全人口の1割以上に当たる3570万人程度が受給する。ただし、たびたび不正利用が指摘され、19年には農務長官が「いくつかの州では制度の抜け穴を利用して、本来なら資格がなく対象にならない人々が給付を受けられるようになっている」と指摘。それでも、その日の食料に事欠く人たちの公的なセーフティネットとなっている。

日本には生活保護という最後の安全網はあるものの、その利用のハードルは高い。緊急避難的に「その日の食事」に困った場合の駆け込み寺は、もっぱらフードバンクやNGO(非政府組織)など民間任せとなっており、公的な「食の安全網」は十分とは言えない状況だ。

「この国の福祉制度は全ての国民をカバーしていると言う。制度的にはそうかもしれないが、実際にはそうはなっていない」と、セカンドハーベスト・ジャパンのマクジルトンCEOは指摘する。

(中川泉 金昌蘭 編集:久保信博)

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