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焦点:大寒波で価格高騰、もろさ露呈した日本の電力自由化

ロイター / 2021年2月9日 13時20分

 2011年の福島第1原発事故以降で最悪となったこの冬の電力不足は、自由化されてまもない日本の電力市場のもろさを浮き彫りにした。写真は2014年9月、東京電力・港北変電所につながる送電線。横浜で撮影(2021年 ロイター/Yuya Shino)

Aaron Sheldrick 大林優香

[東京 9日 ロイター] - 2011年の福島第1原発事故以降で最悪となったこの冬の電力不足は、自由化されてまもない日本の電力市場のもろさを浮き彫りにした。

北東アジアを強い寒波が襲い、火力発電の主な燃料である液化天然ガス(LNG)の需要が各国で高まる中、日本の電力市場の価格は1月に過去最高値をつけた。実際に停電は起きなかったものの、電力各社は利用者に節電を呼びかけた。

今回の危機によって、電力会社の多くが需要の急増に備えていなかったことが表面化した。欧州では冬を前にLNGの在庫を積み増すのが一般的だが、専門家によると、日本はそうしていなかった。雪による悪天候で稼働できない太陽光発電もあった。

最も苦しい立場に追い込まれたのは、2016年の自由化以降に相次ぎ誕生した電力小売業者だ。「新電力」と呼ばれる新規参入組は自前の発電設備を持たないことが多く、卸市場から電力を主に調達し、消費者に販売する。新電力は需要・供給曲線や燃料在庫の状況など、市場価格を形成する情報が十分に公開されていないことが今回の危機の一因だと訴える。

大手電力会社が電力を供給し、新電力がそれを仕入れる日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格は1月、1キロワット時あたり251円と過去最高値をつけた。世界的にも過去最高だった。

1月中旬、新電力56社は梶山弘志経産相に要望書を提出。市場価格を形成する情報公開の促進を求めた。「情報が整理され公開されることで、各小売電気事業者がより適正な価格で入札行為が実施できる環境を整え、市場価格の適正化を図るべきと考えます」と訴えた。彼らはまた、価格高騰下で送配電事業者に上乗せして支払った追加料金を、託送料金の減額などで還元するよう求めた。

経産省はロイターの問い合わせに対し、市場データをより迅速に公開する取り組みを始めたとし、今回の価格高騰を包括的に検証し、市場制度の在り方などについて検討すると回答した。

    <事業を停止する新電力も>

日本は福島第1原発の事故以降、電力市場の見直しを進めてきた。2016年、大手による寡占状態にあった市場の自由化に踏み切るとともに、固定価格買取制度や電力システム改革を通じて再生可能エネルギー発電の拡大に取り組んできた。

しかし、事故から10年経った今も、日本はLNGと石炭火力に大きく依存している。全国に33基ある原子力発電所は、4基しか稼働していない。今回の電力危機は、より多くの原子炉の再稼働を求める声の高まりにつながっている。

いつもは変動が小さいJEPXの記録的な取引価格は、新電力がこぞって電力を調達しようとしたことが原因だった。それは結果的に新電力の損失につながった。

秋田県鹿角市が出資する地域電力小売りの「かづのパワー」は、水力発電所やJEPXから電力を仕入れてきた。竹田孝雄代表によると、今回の電力不足で調達価格は通常の10倍近くに膨らんだ。かづのパワーは1月下旬、小売事業を休止することを決めた。顧客は東北電力の子会社が引き取った。

竹田氏は、個人的な考えと断った上で「今の仕組みに大きな矛盾を感じている」と話す。「地産地消だとか、再エネを使うだとかのうたい文句はあるが、その電力料金は市場価格で決まっており、二酸化炭素を排出する火力発電所や、原発を動かしてくれないと、われわれの事業が成り立たない仕組みになっている」と語る。

<危機がさらに表面化>

    一方、LNGの多くを長期契約する大手電力会社は、アジアのスポットLNG市場の需給逼迫や、相次ぐ発電設備のトラブルも電力不足の原因だとする。

電気事業連合会の会長で、九州電力の池辺和弘社長は「LNGは、長期契約分は入ってくるが、スポットは韓国も中国も需要が強くてなかなか思ったように買えなかった」と話す。

    電力会社は供給網を維持しようと、様々な手を打った。停止していた石炭火力発電所を、燃料を重油に切り替えて緊急稼働させたり、タンカーの荷揚げ後にタンクに残った少量のLNGを買い取ったりした。

「電力の調達を卸売市場に依存しすぎている」と、欧州エネルギー取引所グループの高井裕之・上席アドバイザーは言う。その上で、新電力は価格の高騰リスクをヘッジしていなかったと指摘する。

    複数の関係者は、この逼迫した中でLNGを調達できると考えた電力会社に問題があると指摘する。中国がLNGを買い占め、すでに価格は上昇していたと話す。

    「『新型コロナウイルスのせいで電力需要が減りそうだ』とか、『太陽光発電は以前より頼りになる』だとか、そうした観測で価格は不安定になっていた。結局、太陽光は雪のせいで動かなかった」と、電力会社の幹部は言う。「この国のエネルギー安全保障の責任は誰にあるのか、それが問題だ」 

    電力会社は通常、LNGを2週間分程度備蓄するが、冬を前にそれが十分ではなかったと、マーケット関係者は指摘する。電力不足の影響は、ここにきてさらに表面化してきた。楽天モバイルは電力供給事業の新規受付を停止。電力やガスの大手は今期の業績予想を下方修正したり、非開示にしたりした。

    気温が少し上がり、稼働する発電所が増えたことで電力価格は落ち着きを取り戻してきた。しかし、「まだ危機を脱したわけではない」と電力会社の幹部は話す。

(Aaron Sheldrick、大林優香 日本語記事作成:久保信博 編集:内田慎一 グラフ作成:照井裕子)

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