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焦点:ベア消滅の春闘、影落とす新型ウイルス 消費・物価に逆風

ロイター / 2020年3月11日 17時59分

 3月11日、今年の春闘の山場となった11日、自動車、電機などパターンセッターの回答をみると、基本給の底上げとなるベースアップ(ベア)の消滅が目立つ。写真は都内で2016年2月撮影(2020年 ロイター/Thomas Peter)

中川泉

[東京 11日 ロイター] - 今年の春闘の山場となった11日、自動車、電機などパターンセッターの回答をみると、基本給の底上げとなるベースアップ(ベア)の消滅が目立つ。成果型賃金の導入や残業規制に加え、新型コロナウイルスの影響も影を落とす。所得の減少を余儀なくされる労働者が増えれば、今後の消費動向には逆風となりそうだ。

<業績悪化で異例の様相>

今年の春闘は、大企業各社の回答形式が昨年までとは様変わりとなった。

成果型賃金導入が推奨されている中で、脱一律ベアの流れが加速、「人材投資」や手当ても含む賃上げの全体額を提示する企業が増えた。加えて、新型コロナウイルスの影響で業績が不透明となっている影響が下押し圧力となった。

自動車業界では、すでに脱ベアを掲げているトヨタ<7203.T>が、研修や出向にかかる「人への投資」を含め、全組合員1人平均8600円の賃金改善を回答。要求の1万0100円を大きく下回った。一般組合員のベアは実施しない。ベアの見送りは13年以来7年ぶりだ。

ホンダ<7267.T>は要求額2000円に対して、1500円の回答。ベア部分は明示していない。日産自動車<7201.T>は要求9000円に対し、賃上げ額全体で7000円と回答。こちらもベア相当額は明らかにしていない。マツダ<7261.T>もベアはゼロとした。

電機業界では、三菱電機<6503.T>がベア1000円と明示したくらいだ。パナソニック<6752.T>ではベアと年金拠出額増額を合わせて1000円。内訳は非公表で要求額の3000円を下回る結果だ。

日本製鉄<5401.T>など鉄鋼大手3社もベアを7年ぶりに見送った。鉄鋼業界では鋼材需要の低迷などで、すでに昨年10─12月期まで4四半期連続で2ケタの経常減益(法人企業統計ベース)となっており、収益悪化を反映したものだ。

またダイキン工業<6367.T>は「業績が見通せず、9日の労使協議で交渉を中断することを決めた。交渉再開も4月以降の賃金をどうするかも未定」(労組)としている。

SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「ウイルスの影響の終息が見えず、業績見通しが立たない中で、企業は固定費となるベアには慎重になっているようだ」と分析する。

賃上げが不透明になると「賃金が継続的に上がっていくという実感が持てなくなる」(日本総研の山田久理事)ため、消費活動や物価上昇にもつながらないことになる。

<雇用者報酬減少、下押し強まる>

所得環境はすでに新型ウイルスに伴う経済活動の自粛により相当傷み始めている。

ゴールドマンサックスによると、営業休止や外出自粛の影響から1─3月期のサー ビス消費は前期比年率で3%減少すると予想している。これは2011年の大震災時のサービス消費減退の2.5倍の規模に相当。サービス消費の落ち込みはパートタイム労働者の平均所得を2%程度減少させると試算している。

政府が10日に打ち出した緊急対策第2弾では、新型コロナウイルスに伴う自粛や学校休校により、休職や仕事を失った人々は、正規・非正規を問わず政府による所得支援を受けられる。上限は日額8330円だ。フリーランスは、委託を受けて仕事をする場合に日額4100円。こうした措置によりある程度影響は緩和されそうだが、本来の所得を取り戻せない人たちもいるとみられる。

すでに残業規制による所得減や消費増税により、国内総生産(GDP)でみた実質雇用者報酬は7─9、10─12月期と連続して前期比減少しており、「1-3月もサービス消費を中心に落ち込みは避けられない」と政府関係者もあきらめ顔となっている。

<若手やアルバイトは人手不足が下支え>

ただ正社員のベアは厳しい一方で、非正規や若手は人手不足による賃上げ圧力が勝っているようだ。

トヨタでも一般社員のベアは見送る一方で、パート従業員は時給引き上げが明示されている。シャープは20年春の新入社員の初任給を3000円増額すると回答した。

リクルートジョブズによれば「アルバイト募集は先週段階でもコロナウイルスの影響は特に表れず、募集件数は減っていない。以前から相当な人手不足が慢性化しており、時給も過去最高水準になる」(広報)としている。

経済官庁幹部は「景気が多少悪くなっても春闘では人手不足に助けられて、賃上げ率は最終的にはそれほど下がらないだろう」と予想する。ただ「雇用・所得環境、消費者心理への影響は、感染拡大がいつ終息するかにかかっている」とみている。

(取材協力 白木真紀 編集:石田仁志)

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