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アングル:「全部売り」の金融市場、米インフレ警戒で巻き戻し

ロイター / 2021年5月13日 17時47分

 金融市場は世界的に株式が売られるだけでなく、債券など安全資産も下落する「全部売り」の商状となっている。写真は2010年6月に都内で撮影した株価ボード(2021年 ロイター/Issei Kato)

伊賀大記

[東京 13日 ロイター] - 金融市場は世界的に株式が売られるだけでなく、債券など安全資産も下落する「全部売り」の商状となっている。米国でインフレ率が上昇し、早期の金融引き締め懸念が浮上。ボラティリティーが上昇する中で、ヘッジファンドなどが幅広くリスクポジションを巻き戻しているとみられている。

<リスクはボトムラインに移行>

投資家の最大の懸念要因は、もはや新型コロナウイルスではない。バンク・オブ・アメリカが実施するグローバルファンドマネージャー調査で、最大のテールリスクは、昨年末時点では新型コロナだったが、4月は1位がテーパータントラム(金融緩和縮小による市場波乱)、次にインフレ加速となった(コロナは3位)。

ワクチンが普及し、まだ一部の国とはいえ経済の正常化が進む中、市場のリスクは、景気悪化から景気過熱による影響に移行してきている。企業業績や株価でいえば、トップラインの売上高から、賃金コスト上昇による利益圧迫や金利上昇による株価バリュエーションの低下などボトムラインがどうなるかが今の関心事だ。

今年の春先にインフレ指標が急上昇すること自体は、すでに予想されていた。コロナ禍で落ち込んだ昨年の反動が表れるとみられていたためだ。しかし、市場予想を上回るインフレ率の加速は、今の市場における最大の関心事であるインフレ懸念を強く刺激した。

4月の米消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は総合指数が前年比4.2%上昇と、2008年9月以来の大幅な伸びとなり、市場予想の3.6%を大きく上回った。4月米雇用統計は下振れたが、需要不足が要因ではなく、労働者の不参加など供給側の要因が大きく、むしろ賃金上昇などインフレ材料として受け止める声が多い。

「供給制約は秋ごろには解消され、インフレ率の上昇は一時的というのが依然としてメインシナリオだ。しかし、数字で確認できるまでには時間がかかる。しばらく市場センチメントは不安定な状態が続きそうだ」と、バンク・オブ・アメリカの主席エコノミスト、デバリエいづみ氏は指摘する。

<CTAやリスク・パリティの売り観測>

CTA(商品投資顧問業者)やリスク・パリティ・ファンドなどトレンド・フォロワー型のヘッジファンドが、ボラティリティーの上昇をきっかけに今年3─4月に積み増してきた株式や債券など幅広い資産を巻き戻している、と野村証券のクロスアセット・ストラテジスト、高田将成氏は指摘する。

リスク・パリティなどは、ボラティリティーの上下によって、ポートフォリオ全体の規模を増減させる戦略を採るため、ボラティリティーが急上昇すれば、株式と債券、両方を売却する。

投資家の不安心理を示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)は4月14日に15ポイント台まで低下していたが、12日に28ポイント台と3月4日以来の高水準に上昇した。

「4月まではFRB幹部からインフレは一時的との発言があったことなどから、当面、金融引き締めはなさそうだというムードがあった。インフレ懸念は口実かもしれないが、各資産のボラティリティーが上昇したことで、株式や債券など幅広い資産のポジションを巻き戻しているようだ」と高田氏は話す。

米連邦準備理事会(FRB)のクラリダ副議長が、米経済情勢についてFRB目標の 達成には程遠いと発言するなど、当局者の姿勢に変化はみられない。しかし、市場では「インフレが継続する可能性は小さくてもあるほか、FRBが態度を急に変えるリスクもある。実際にインフレ率が上昇してきた以上、リスクシナリオとはいえ、プライスに織り込むしかない」(外資系証券)との声が出ている。

<弱さ目立つ日本株>

日経平均は13日までの3日間で2070円(7.0%)下落。米ダウは12日までの2日間で1155ドル(3.3%)下落と、日本株の下げが先行している。ドル/円や円金利は比較的落ち着いた動きとなっているが、日本株の弱さが目立つ状況だ。

「景気も物価も弱い日本は米国と別世界」(岡三証券の債券シニア・ストラテジスト、鈴木誠氏)であり、日銀の金融引き締めが懸念されるような状況ではない。好調な企業業績も目立つ。

しかし、ワクチンの普及が遅れ、緊急事態宣言が延長されるような状況にある日本は、経済正常化に向かう国に比べ「1段階前のステージ」にいるというのが市場の認識だ。「弱い経済下では世界的な株安の流れが加速してしまう」(国内証券)という。

ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏は、日本株は主体性を失っていると指摘。「これまで世界的な金融緩和でかさ上げされてきた株価の調整だけに(米株などの)調整が終わるまで反転のきっかけはつかみにくい」との見方を示す。

米国株が下げれば、日本株はもっと下げるというかつてのパターンに戻るのか。ようやく準備が整い始めたワクチン接種をスムーズに行えるかが1つの焦点になりそうだ。

(編集:内田慎一)

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