アングル:半導体生産の復活目指す米国、複雑な供給網ネックに
ロイター / 2021年4月16日 15時51分
[サンフランシスコ 13日 ロイター] - 世界的な半導体不足が、自動車はじめさまざまな業界を悩ませている。この問題を解消しようとするバイデン米大統領が直面している課題の大きさを理解するには、米半導体メーカーのオン・セミコンダクターが設計する車載用イメージセンサーが、最終的に韓国・現代自動車の新型電気自動車(EV)「IONIQ5」に供給されるまでの長い道のりを考えてみるのが早道だ。
オン社の設計したイメージセンサーは、イタリアの工場でシリコンウエハーに集積回路を焼き付ける作業から製造が始まる。焼き付けられたウエハーは台湾に送られ、パッケージングと検査が行われてから、シンガポールで保管される。
その後、中国の工場でカメラ部品に組み込まれ、韓国にある現代自の部品サプライヤーに送られて、ようやく現代自のIONIQ5生産工場に納入される。
このイメージセンサーの供給不足によって、韓国内にある現代自の工場は操業停止に追い込まれた。既に米ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)といった世界中のほとんどの自動車メーカーも、何らかの半導体製品が十分に確保できず、生産に支障を来している。
世界各地を巡るイメージセンサーの複雑な供給ルートを見れば、半導体業界が現在の供給不足に対処するための生産能力増強、そして米国内の半導体製造業を再び活性化させることの双方が、いかに面倒な仕事になるかも分かる。
<米政府投資の行き先>
バイデン氏は12日、ワシントンで半導体業界幹部らと世界的な半導体不足問題をオンラインで協議した。これに先立ち、総額2兆ドルのインフラ投資計画の一環で、半導体製造・研究開発支援資金として500億ドルを提案している。
そうした資金の大半は、米インテルや韓国サムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)による米国での最先端半導体製造工場の多額の建設計画に振り向けられる公算が大きい。
ただ、複数の業界幹部は、より幅広いサプライチェーン(調達・供給網)に対応することが欠かせず、バイデン政権はこうした供給網のどの部分に支援金を充当するべきか、という難しい選択に直面すると警告する。
オン社シニアバイスプレジデント、デービッド・ソモ氏はロイターに「供給網の上流から下流まで全てをどこか1つの場所で再建しようとするのは、全く不可能だ。それには途方もない費用がかかる」と語った。
現在、世界の半導体生産能力のうち、米国が占める割合は約12%。1990年の37%から大きく低下した。業界データによると、生産能力の8割強はアジアに集中している。
<多様な工程>
1つの半導体を製造するのに要する工程は、1000段階を超えることがある。その間に国境を70回越えたりするし、数々の専門的な企業も関与する。そうした企業のほとんどはアジアにあり、総じて関係者以外には知られていない会社だ。
半導体製造は、プレートサイズのシリコン製円盤、つまりウエハーとともに始まる。製造工場ではウエハーに集積回路パターンを焼き付け、複雑な化学処理を通じて表面上を加工していく。
次の作業がパッケージングで、供給網が直面する幾つかの課題を浮き彫りにする段階と言える。出荷されたウエハーには数百、場合によっては数千もの小さな半導体が張り付いており、これを個々の半導体に切り分け(ダイシング)し、パッケージ化することが必要になる。
伝統的な手法は、各半導体を「リードフレーム」と呼ばれる薄い金属板に置いて、「はんだ付け」した上で、樹脂で保護するという工程だ。
こうした作業は非常に労働集約的なため、大手半導体メーカーは何十年も前に台湾やマレーシア、フィリピン、中国などの外注先に委託化した。このパッケージング工程にも供給網が関わっている。
例えば、韓国のヘソンDSは自動車用半導体向けのパッケージ関連部品を製造し、マレーシアやタイに輸出する。顧客はドイツのインフィニオンやオランダのNXPといった半導体メーカー。
そうした顧客企業、場合によってはその下請け業者が組み立てを行い、パッケージングする。次にドイツのボッシュやコンチネンタルといった自動車部品メーカーに出荷され、最終製品が自動車メーカーに納入される。
米半導体パッケージングのプロメックス(カリフォルニア州)のディック・オッテ最高経営責任者(CEO)は「(バイデン政権が)半導体不足の解消に成功しようとするなら、米国内でパッケージング業界再構築を支援することが必要になる。そうでないと時間の無駄になる。まるで自動車を組み立てながら車体がないようなものだからだ」と訴えた。
より最新のパッケージング作業は労働集約度がずっと下がっているため、一部の米半導体メーカーはこの工程を国内に戻すことが可能とみる。
昨年10月には米半導体受託製造のスカイウォーカー・テクノロジー(ミネソタ州)が、フロリダ州の製造施設を取得。そこで先進的なパッケージング工程を行うことを計画中だ。同社のトーマス・ソンダーマンCEOは「(そうした作業が)ここで行われなければならないというのは、業界で一致する考え方だ」と述べた。
<米国内生産のメリット>
南カリフォルニア大学のトニー・レビ教授(電子・コンピューター工学)によると、米国のパッケージング業界を立て直せば、半導体メーカーと顧客を政治的リスクから守れるだけでなく、新製品を生み出すまでのサイクルの短縮化にもつながる。
作業工程の国内化が進めば、半導体のより小規模な生産工程を、より頻繁に作り出し、技術革新を迅速化させ、生産能力を需要に合わせてより素早く調整できるようになる可能性がある。
レビ氏によると、インテルやTSMC、サムスンや米受託製造大手のグローバルファウンドリーズらがアリゾナ州、テキサス州、ニューヨーク州で既に稼働させているか、今後計画している製造施設はいずれも、供給網のパッケージングなどの工程部分を集めるのに向いている。システム設計と製品設計と製造自体を緊密に連携させることは、米国の「お家芸」のはずだという。
ただ、バイデン政権が、半導体業界の細分化した各セクターからの要望をうまく調整できるかは、まだ分からない。
ウエハーやガスなど半導体製造に不可欠な素材を提供する企業の多くは海外勢だ。最先端の半導体向けの精巧な製造装置こそ、大半が米国で生産されているものの、さまざまな工程に用いられるロボットシステムなどの工場部品は海外産となっている。
業界の一部からは、米政府は最先端半導体製造への支援と同時に、より汎用的な半導体の供給拡大を支援する必要があるとの声も聞かれる。米シリコン設計企業シリコン・ラブズ(テキサス州オースティン)のタイソン・タトルCEOは、深刻な不足に見舞われているのは汎用の、より成熟した半導体の方だと指摘。投資資金が最先端技術に偏り過ぎている現状に触れて「半導体産業には、資本配分のミスマッチがある」と嘆いた。
一方、テックサーチ・インターナショナルのE・ジャン・バーダマン社長は、半導体パッケージングは価格が圧迫されてきたため、同業界は半導体製造や半導体設計の企業に比べて利益率が縮小していると指摘。「金銭面や経済効率などの観点からは、多額の投資は割に合わない」と述べ、パッケージング向けに資金を散財するだけでは、問題を解決するどころか、よりややこしくするだけだと言い切った。
(Hyunjoo Jin記者、Stephen Nellis記者)
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