焦点:「トランプ共和党」は続くか、無罪評決で党内にジレンマ
ロイター / 2021年2月17日 18時25分
2月14日、共和党のトランプ前大統領(写真)の弾劾裁判は、2度目も無罪評決を出した。共和党はなおも、「トランプ共和党」の体をなしているようだ。フロリダ州ウエストパームビーチで1月撮影(2021年 ロイター/Carlos Barria)
[ワシントン 14日 ロイター] - 共和党のトランプ前大統領の弾劾裁判は、2度目も無罪評決を出した。共和党はなおも、「トランプ共和党」の体をなしているようだ。少なくとも今のところはだが。
1月6日の米連邦議会襲撃で支持者を扇動した責任を問われたトランプ氏に対し、共和党上院は50人中43人が無罪票を投じた。有罪賛成は7人だけ。過去5年間でトランプ氏が共和党を自分のイメージするように作り替えてきた結果、同氏が党にいかに強い支配力を持っているかが浮き彫りになった。
トランプ氏は1月20日の退任後、もっぱらフロリダ州の邸宅にこもっているが、支持者層の熱烈な忠誠心を今も思いのままに操る。それによって大半の共和党上院議員はトランプ氏に忠誠を誓わされ、トランプ氏の怒りを買うことを恐れる状態を強いられている。
<国政選挙を左右する「毒薬」>
しかし、トランプ氏には2度も弾劾裁判が開かれたのだ。昨年に敗北した大統領選挙を巡って不正選挙だったと何か月も虚偽の主張を続け、支持者らによる議会襲撃では5人もの死者を出した。こうなった以上、トランプ氏は国政選挙の趨勢をしばしば左右する多くの激戦州では今後も「毒薬」ということにもなる。
こうした事情から、共和党陣営は2022年の中間選挙で連邦議会の多数派奪取を狙う上で、さらにトランプ氏が再出馬するかもしれない24年の大統領選に向けても、不安定な状態に置かれる。
16年大統領選挙の予備選に名乗りを上げたマルコ・ルビオ上院議員の側近だった共和党ストラテジストのアレックス・コナント氏によると、トランプ氏の支持層なしに共和党がすぐさま国政選挙で勝つのは想像しにくい。コナント氏いわく「共和党は本物のジレンマに直面している。トランプ氏がいると勝てないが、同氏なしには勝てないのも明らかだという状況にある」という。
トランプ氏は弾劾裁判後の長期的な政治プランを示してはいないが、同氏はこれまで大統領選再出馬を公に匂わせてきたし、今回の弾劾裁判で有罪に賛成した共和党議員に対しては、次の選挙の予備選で刺客を立てるのを熱心に支援したがっていると伝えられている。
同氏の側近は「再出馬するかは彼次第だが、彼は共和党の方向性に際し、まただれが党のメッセージを真剣に唱導するのかを評価する上で、なお甚大な影響力を持っている」と主張。「これはキングメーカー(実力者)とでも何でも呼べばいい」と語る。
議会襲撃の後でさえ、世論調査でトランプ氏は共和党支持層から強く支持され続けている。事件からわずか数日後のロイター/イプソス調査で、共和党支持層の70%がなおもトランプ氏の大統領としての仕事ぶりを評価すると答えた。その後の調査でも、再出馬が認められるべきだとの回答は同程度ある。
<トランプ氏の報復恐れる>
ただ、共和党以外では支持はされていない。13日のイプソス最新調査によると、議会襲撃が始まった責任の少なくとも一部はトランプ氏にあるとの回答は、国民全体では71%。弾劾裁判で有罪になるべきだとの回答は50%あった。有罪反対は38%、「分からない」は12%だった。
弾劾裁判の弁護団は、トランプ氏が既に退任しているため大統領時代の行為について弾劾裁判にかけるは憲法違反であり、襲撃に先立つ同氏の発言は憲法の言論の自由で守られるとも主張。ただし、7人の共和党議員を含む上院の多数は、弁護団のこの見解に反対したことになる。
民主党側は、共和党議員の多くはトランプ氏支持者からの報復を恐れ、良心に従って有罪に投票するのを怖がったと主張する。リチャード・ブルーメンソル民主党上院議員は「非公開投票だったなら、評決は有罪だっただろう」と話す。
ミッチ・マコネル上院院内総務は無罪票を投じた共和党議員の1人だが、評決後には「実質的には、そして道義的には」トランプ氏に暴力誘発の責任があると激しく非難した。マコネル氏の立ち位置は、共和党幹部の一部がいかに自分とトランプ氏との距離を取ろうとしているか、いかにトランプ氏やその支持者の全面的な怒りを買わずに同氏の影響力を抑制しようとしているかを物語る。
一方でトランプ氏の盟友である共和党のリンゼー・グラム議員は14日のフォックス・ニュースで、マコネル氏の発言は22年中間選挙で共和党の助けにならないと批判した。グラム氏はトランプ氏の旗頭の下で党を結束させたい立場だ。同番組では「マコネル氏の発言を考えるに、彼はこれで心の重荷を下ろした気分だろうが、不幸にも共和党への重荷を増やしてしまった」と指摘。中間選挙の共和党候補者は必ずや、マコネル氏のトランプ氏非難についてどう考えるか、聞かれることになると語った。
これに対し共和党穏健派のメリーランド州知事、ラリー・ホーガン氏はNBCの「ミート・ザ・プレス」で、党の精神を巡って大きな党争が繰り広げられることになると発言。その上で「われわれはトランプ氏の熱狂的支持者層から離れていき、党が常に依って立ってきた基本理念に立ち返ることになると思う」と話した。
しかし、トランプ氏の影響力がなお続いているのは、下院共和党のケビン・マッカーシー院内総務が先月にトランプ氏のフロリダ州施設「マール・ア・ラーゴ」を訪ねたことでも明らかだ。2人はそこで22年中間選挙に向けた戦略を話し合ったという。そのわずか3週間前、マッカーシー氏は議会襲撃の責任があると主張してトランプ氏を怒らせていた。マッカーシー氏は結局、トランプ氏が襲撃をあおったとは思わないと述べて主張を撤回した。
<批判にさらされる反トランプ議員>
トランプ氏とたもとを分かった共和党議員は少ないが、いずれも辛辣な反発を浴びている。これは無罪評決のあとも続いている。ビル・カシディ上院議員(ルイジアナ州)やパット・トゥーミー上院議員(ペンシルベニア州)ら有罪票を投じた向きは、それぞれの地元の共和党幹部から批判されている。
下院共和党のリズ・チェイニー下院議員はトランプ氏の弾劾訴追決議に賛成した同党10人の1人だったが、ただちに下院共和党ナンバー3のポストを剥奪しようとする保守派の攻撃にさらされた。チェイニー氏はこれを切り抜けたが、トランプ氏は次の予備選ではチェイニー氏の対抗馬を支持すると確約している。
アリゾナ州は昨年の大統領選挙でバイデン氏を選出し、連邦上院選でも民主党議員が1人勝利した州だが、同州共和党陣営は州の3人の著名な共和党員に問責決議を下した。ダグ・デューシー州知事とジェフ・フレーク元上院議員、そして故ジョン・マケイン上院議員のシンディー未亡人で、トランプ氏の大統領在任中に同氏と衝突した3人だ。
ベン・サス上院議員(ネブラスカ州)も州の党組織からトランプ氏を批判したとして問責をちらつかされた。その際、サス氏はある個人を狂信することに間違いがあると批判している。「どうしてこんなことが起きるのか明確にしてみようじゃないか。政治とは1人の男を奇っ怪なまでに崇拝することではないと私は今も信じるし、諸君もかつてはそう信じていたはずだからだ」。サス氏は州の党指導部に充てたビデオメッセージでこう訴えた。同氏は13日の弾劾裁判で有罪に賛成した1人だ。
こうした党内の亀裂が引き金になって、保守派の間では共和党がどれだけ右傾すべきかを巡って公然と議論が巻き起こっている。トランプ氏が台頭し大統領に当選する中で重要な役割を担ったフォックス・ニュースでは、フォックス社のマードック最高経営責任者(CEO)がつい最近、同社投資家に対し、フォックスは中道右派の立場を守っていくと表明した。
フォックスが大統領選挙の開票速報でアリゾナ州でのトランプ氏の敗北をいち早く、結果的にも正確に打ったことで、同氏はフォックスを激しく非難。もっと右寄りの動画メディアが不満だらけなトランプ支持者を引きつける機会を作り出した。
しかしマードック氏は「われわれはさらに右寄りになる必要はない」と断言。「われわれは米国が一段と右傾しているとは思わないし、われわれが左寄りに軸足を置くつもりもないのも明白だ。」と語った。
<愛国者の「新党」構想も>
元共和党幹部ら数十人は党がトランプ氏に対抗しないことに失望し、新たな中道右派政党を立ち上げることを協議した。ただ、複数の共和党議員はこの構想を否定している。
トランプ氏の側近によると同氏自身も新党・愛国者党を作ることを話しており、そうした動きはさらに共和党内の分裂を悪化させている。
トランプ氏は当面は共和党を左右し続ける。しかし、弾劾裁判に際して幾人かの共和党上院議員は、議事堂襲撃やトランプ氏が選挙不正を何か月も言い立てたことで残る汚点は、24年の大統領選再選の可能性を損なうとみている。
弾劾裁判で有罪に賛成した共和党のリサ・マカウスキ上院議員は記者団に、「ここ議事堂で起きた全容が米国民に明かされた後に、トランプ氏が大統領に再選され得るとは思わない」と述べた。
トランプ氏が既に大統領を退任し、お気に入りの発信手段だったツイッターへのアクセスも阻止されていることで、新たな問題や人材が浮上してくるにつれてトランプ氏の党への支配力は弱まる可能性があるとみる共和党議員も何人かいる。
トランプ氏の盟友であるジョン・コーニン上院議員は、トランプ氏の大統領としての遺産は恒久的に打撃を受けたと話す。「トランプ氏は多くの素晴らしいことをしたのに、不幸にも昨年の大統領選後の彼の振るまいや対応のほうが後世に記憶されようとしている」とも指摘。「これは悲劇だと思う」と語った。
(John Whitesides記者)
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