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アングル:テスラに続け、自動車業界の新潮流は「仕様簡素化」

ロイター / 2022年7月18日 7時55分

7月12日、フランス北部カルバドスで暮らすエミリー・マレルブさんにとって、購入予約したルノー「アルカナ」の新車のボディカラー選びは簡単だった。写真はアルカナの新車。仏ナント近郊のディーラーで6月撮影(2022年 ロイター/Stephane Mahe)

[パリ 12日 ロイター] - フランス北部カルバドスで暮らすエミリー・マレルブさん(41)にとって、購入予約したルノー「アルカナ」の新車のボディカラー選びは簡単だった。ブラックとパールホワイト、グレーの3色しか選択肢がなかったからだ。

マレルブさんと夫が一番重視したのは早く車が届くことだったので、すぐグレーに決めてしまった。「テレビで新車納入が半年から8カ月遅れる恐れがあるとのニュースを聞いた後、30日で届くと伝えられて喜んだ。そして、実際には15日で新車が手に入ったのは本当に素晴らしかった」とマレルブさんは話す。

これは、世界的な半導体不足やその他のサプライチェーン(供給網)混乱を背景に、欧州の自動車メーカーが提供オプションを絞り、夏のバケーション期間が終わるまでに顧客に新車を届けようと取り組んでいる構図の一端だ。

自動車業界はこれまで、顧客の要求に応じる形の細かい仕様変更に多大な資源を投入してきた。その結果、製造工程が複雑化して利益が圧迫された。その流れが今、大きく変わろうとしている。

米電気自動車(EV)大手・テスラは、当初から必要最小限のオプションしか用意しない方式が利益押し上げにつながっているが、既存メーカーがこぞってテスラに追随しつつあるのだ。

消費者としても早く車がほしいなら、選択の余地は限られる。ルノーがSUV(スポーツタイプ多目的車)クーペのアルカナで提供している「ファストトラック」サービスは、通常なら平均5カ月待ちのところ、最長でも30日での納車を保証している。

その代わりボディカラーは従来の6色ではなく3色、内装レベルとエンジンは1種類しかない。6月のファストトラック経由の受注は、アルカナのフランス国内の新車登録台数の半分を占めた。

ルノーによると、買い手が追加オプションを要求した場合は、納期保証がなくなる。

<業界全体に波及へ>

ルノーに近いある関係者はロイターに、こうした仕様簡素化は業界全体に広がっていくと同社は想定していると明かした。供給制約を巡る問題が早期に解消される見込みがないからだ。

この関係者は「商売上と技術上の多様性を減らすことと、良いビジネスは両立するということだ」と指摘した。

既存メーカーは長い間、ボディカラーや内装、付属品などで要求にきめ細やかに対応する能力を磨き、顧客にアピールするやり方を推進してきた。

ところが、自動車コンサルティングのJDパワーが2020年に実施した分析に基づくと、あらゆる車種のうち98%の種類はいずれも販売台数が50台未満と極めて少なく、合計で全販売台数の25%にとどまる。残り2%の種類が販売台数の75%を占める形だ。

フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードが生み出した名車「T型フォード」について、生産効率と品質重視のために「当社の自動車はどんな色でも選べます。それが黒である限りは」と繰り返していた時代から、長い道のりを経ていかに「多品種化」が進んでいたかが分かる。

<業界のパラドックス>

いくつかの大手メーカーはこれまで折に触れてオプションを縮小する必要を訴えつつも、実行の難しさも痛感してきた。

例えば、米国市場では大型ピックアップトラックの種類が7万通りに及ぶ、とJDパワーのアナリスト、ダグ・ベッツ氏は説明する。「業界は、この問題に何度も挑んでいるが、解決方法は明らかになっていない」という。

ベッツ氏は「懸念されるのは、どのオプションを切り捨てるべきかについてのデータがないと、せっかくの売れ筋を失いかねないことだ」と述べた。

ところが、足元で続く供給制約や電動化に伴う膨大なコストに対応するため、業界全体で製造工程を単純化する必要に直面。そのことが、情勢を一変させている。

S&Pグローバル・モビリティーのアナリスト、デニス・シェムール氏は「自動車業界は正真正銘のパラドックスを経験しつつある。すなわち、需要に基づいて生産したい半面、仕様の多様性を減らしたことで顧客は在庫の中から欲しいモデルを選びやすくなっている」と説く。

さらにシェムール氏は「多様性縮小は『三方良し』だ。ドイツ勢さえも流れに乗ってくるだろう」と付け加えた。

実際、フォルクスワーゲン(VW)は今年2月、部品不足対策として電気自動車(EV)「ID3」の納期を短縮するため、欧州仕様車を1種類に絞った。

<利益率も向上>

ルノー・アルカナのファストトラック利用による新車の最低価格は3万8630ユーロ(3万9348ドル)と、アルカナ最上位モデル「RSライン」の通常価格に等しい設定だけに、同社にとって利益率向上にもつながる。

一方、本来はフル装備のRSラインが欲しかったマレルブさんのような顧客の立場からすると、夏の間に車を手に入れるには、より簡素化されたモデルを選ぶ以外に方法はなかった。

ステランティスの仏ブランド、プジョーの新型「408」も、内装は2種類しか提供しない方針。プジョーの製品ディレクター、ジェローム・ミシュロン氏は「新408は最も要求が多かった内装に絞っている。オプションが多過ぎない方が、ウェブサイトであなた方の車の仕様を設定する上でも、より簡単かつ迅速になる」と強調した。

(Gilles Guillaume記者、Joseph White記者)

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