仁徳天皇陵、世界遺産登録で「観光立国」 うれしいけれど「観光公害」解決しないと!(気になるビジネス本)

J-CAST会社ウォッチ / 2019年5月17日 11時45分

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世界文化遺産に登録される見通しになった「百舌鳥・古市古墳群」の仁徳天皇陵古墳。地元には的確なコントロールとマネージメントが求められる

大阪・堺市の仁徳天皇陵古墳を含む、大阪府南部の「百舌鳥・古市古墳群」が、この(2019年)夏に世界文化遺産に登録される見通しになった。地元の歓迎ぶりなども報じられているが、世界遺産登録で地元地域は浮かれてばかりではいけない。拡大するインバウンドの副作用として顕著になってきた「観光公害」の解決策を盛り込んだ「観光亡国論」(中央公論新社刊)には、こう警告が出されている。

登録をきっかけにした盛り上がりの中で、的確なコントロールやマネージメントを怠ると、知らぬ間に観光目当ての開発が行われ、それまでの景観や環境が失われてしまう恐れがあり、さらに悪い事態を招く可能性もあるという。

「観光亡国論」(アレックス・カー、清野由美著)中央公論新社

目立つようになってきた「観光公害」

「観光亡国論」の著者のアレックス・カー氏は、1952年に米国で生まれた東洋文化研究者。日本での在住歴は長く「1980年代から観光産業の可能性を予見」し、京都で町家を、ほかの地域では古民家を一棟貸しの宿泊施設に再生する事業に携わり成功させてきた。

2008年には国土交通省から「VISIT JAPAN大使」に任命され、外国人旅行者受け入れ態勢に関する仕組みを考えたり、外国人に対する日本の魅力発信を行っている。本書は、都市開発などが専門のジャーナリスト、清野由美さんと論点の整理や調査、検証に取り組み仕上げた。

「インバウンドの『促進役』という自覚」を持つカー氏。訪日外国人観光客は2011年に622万人だったものが、18年には約3119万2000人にまで伸び、政府の目標である「20年4000万人」達成の見込みが高まっている。

インバウンド誘導はますます熱を帯びているのが、カー氏は、その裏側で観光名所や関連施設、交通機関の過度の混雑や迷惑行為など「観光公害」が目立つようなってきている、と指摘。

2003年に当時の小泉純一郎首相が国会で「観光立国」を宣言し、それに向かってひたすら走ってきたのはいいが、肝心の受け皿作りが進まず旧態依然。このままだと、インバウンドが増えるに応じて公害は悪化の一途をたどり「『観光亡国』の局面に入ってしまったのではないかとの強い危機感を抱くようになっている」という。本書は、そうならないための方策を論じたもの。タイトルは危機感の強さからのものであり、内容はそれとは裏腹に、日本の「観光立国論」になっている。

「ユネスコサイド」避けるために

大阪の「百舌鳥・古市古墳群」の世界遺産登録は、6月30日から7月10日にアゼルバイジャンで開かれる国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で正式に決まる見通し。本書によると、最近の欧州や東南アジア各国では、ユネスコの世界遺産登録を受けてみられることがある、観光業で汚染された場所を「ユネスコサイド」という言い回しで表現するようになっているという。

英語に「-cide(サイド)」という接尾辞があり「herbicide(ハービサイド=除草剤)」「genocide(ジェノサイド=集団殺戮)」などの単語をつくる。-cideが表すのは「殺す」という意味。「ユネスコサイド」は、ユネスコにこの接尾辞を合わせたものだ。

世界遺産に登録されると、世界中から観光客が集まるようになる。こうしてにぎわうようになる前後、あるいは登録の前後に「的確なコントロールを怠れば......」と、カー氏は警告する。

その観光客を目当てにして地域には、宿泊施設や飲食店、さまざまなものの販売店が建ち並ぶようになり、「昔からある景観や文化的環境が薄れてしまい、観光スポットだけでなく、住民が大切にしてきた場所までがネガティブに発信されてしまいかねない」ことになるのだ。

日本にはすでに数々の世界遺産の前例があるが、本書では2014年に登録された群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」について、新聞報道などを引用しながら、登録数年後に訪問客が激減したことを報告。登録された14年には富岡製糸場に年間約134万人の来場者があったが、2年後に4割減、3年後には半数以下に落ち込んだ。

世界遺産登録を維持するための費用が10年間で100億円必要とみられているが、その原資となる入場料収入が減っており関係者は頭を抱えているに違いない。

「観光」少子高齢化、日本の基幹産業

「自分たちの町、地域の遺産をいかに観光のために整備できるか、総括的に考える必要がある。もしくは世界遺産への登録が、本当の意味で観光振興につながるのか。地元の人たちや関係者たちが、それらの問いを吟味した先に、世界遺産登録の本来の意味を生じる。そこを詰めないまま、『世界遺産登録=観光客誘致の切り札』と短絡させるだけでは、物見遊山にやってきて、『失望した』と文句を拡散する人を増やすだけ」

カー氏のこの意見は、「百舌鳥・古市古墳群」を抱える地域、自治体の観光関係者らに大いに参考になるに違いない。

カー氏は、少子高齢化が進む日本にとって、将来、国を支える新産業が「観光」だと指摘する。本書執筆時の最新の観光白書によれば、2017年のインバウンド数は2869万人で、その消費額は4兆4162億円。5年前の12年(836万人、1兆846億円)と比べると3.4倍の伸び。こうしたことなどを根拠に、これまでの「ものづくり大国」ばかりでなく、名所やおもてなしをアピールする「もの誇り大国」化を図ろうということだ。

「しかし日本にとって、基幹産業が重厚長大型から観光のようなサービス型に転換することは、大きなパラダイムシフト」であり、欧米各国と比べると、観光業が観光そのもの盛り上がりに追いついていない。総人口が減少に向かい、その構成が加速度的に変化するなか、観光産業の整備は急務という。本書では、数々の提言が行われていていずれも興味深いが、まずは、的確なコントロール(制限)や適切なマネージメント(管理)、情報発信を行うことが「観光立国」の基礎になる。

「観光亡国論」
アレックス・カー、清野由美著
中央公論新社
税別820円

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