「母親像が少しでも伝われば」 和歌山カレー事件「長男」がツイッターを始めた理由【インタビュー】

J-CASTニュース / 2019年5月28日 7時0分

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取材を受ける長男

1998年、和歌山市園部で行われた夏祭りで、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒になり、4人が死亡した、いわゆる「和歌山カレー事件」。殺人罪などで死刑が確定した林真須美死刑囚は現在、大阪拘置所にいる。弁護団は再審を求めていたが2017年3月に棄却され、大阪高裁に即時抗告中だ。

林死刑囚から届いた手紙をツイッター上で紹介するアカウント「和歌山カレー事件 長男」(@wakayamacurry)が、ネット上では話題になっている。J-CASTニュース編集部は19年5月26日、和歌山へ出向き、アカウントを運用している男性に話を聞いた。

「風化させちゃいけない」

待ち合わせ場所に現れた男性。身長は、筆者より約10センチ高い180台前半だ。ツイッターのプロフィール画像は幼少期の写真だが、その頃の面影はなく、スラっとしている。目鼻立ちはよく、渋谷や原宿を歩いていそうな出で立ちだ。事件当時は小学5年生。現在は31歳という男性は、和歌山市内で運送業をしている。

現在、林死刑囚との面会や手紙のやり取りは、家族や弁護士しかできない。取材では、林死刑囚から届いたという手紙やはがきも複数通、見せてもらった。「月に一回、(手紙は)必ず来ますね」。

これまで父親がメインで取材を受けていたが、体力や記憶力の面から、代わりに男性が受けるように。関西のテレビ番組に出たのをきっかけに、相次いでオファーが来るようになった。

ドキュメンタリーを撮りに来たカメラマンが半年、密着取材することに。毎週顔を合わせて、話せる仲になった。18年夏、オウム真理教の元死刑囚らの刑が執行され、男性はカメラマンに、こんな質問を投げかけた。

「もし僕の母親が(死刑)執行されたとき、カメラマンさんはマンションの下でたむろをしたり、脚立で座り込んだりするんですか」

カメラマンは「申し訳ないですけども会社の指示があったらします」と答えたが、あわせて「そういう時は何か発信できるツールを持っておいた方がいい」とアドバイスした。「ずっと頭に残っていて、そのこともあってツイッターを始めたのが理由の一つです」。

テレビに出た時は、「被害者面するな」という声もあった。男性は、「本当の被害者は、遺族や亡くなった方。それは至極当然の話で、はがゆい思いをずっとしていたんですけど、何か伝えたいという思いもあった」と葛藤を明かしたうえで「(事件を)風化させちゃいけないのが一番」と強調する。

「風化して処刑されてしまえば、遺族の方も満足はしないだろうし、加害者家族とされる僕や父親も納得はできないということで、メディアとは一定の距離を保ちながら20年過ごしてきました。事件の概要や母親の文書、家族のやり取りっていうんですかね。そういう人となりも伝えられればと。下手な発言は絶対にできないので、言葉を選びながら自分なりに発信していこうかなと思いました」

「応援の声や擁護がほしいために始めたのではない」

ツイッターのフォロワーは、19年5月27日現在、3000人以上いる。ツイッターのプロフィール画像は、両親と七五三に行ったときの写真だ。

「(実家が)放火されて残っている写真の中で一番、気に入っている写真です。袴の脱ぎ方がわからず、おしっこをもらすんですね。そういうエピソードがあって、印象に残っている写真でこれを選びました」

ヘッダー画像は、家族の戸籍謄本。「ぼくにしか手に入らないだろうと。いくら成り済まそうと、これは揺るがない」。4月中旬からツイッターを始めた。

ツイッターでは、カレー事件関連の話題を投稿している。

「母親や父親との交流、弁護士さんの発表だとか、事件に動きがあったとき、カメラマンさんからいただいたアドバイスのように、万が一の時があったときに発信するツールです」

男性は、「保険金詐欺については本人も一部認めている。そこに関して擁護するのは一切なく、ちゃんと刑は受けてほしい」としつつも、「カレー事件に関しては認めていない。手紙でむちゃくちゃなことは書いてないんです」と強調する。

カレー事件を捜査していく過程で、林死刑囚と夫による過去の保険金詐欺の疑いが浮かび、和歌山県警は98年10月に2人を逮捕。80年代後半からカレー事件発生までに起きた一連の事件について、林死刑囚は一部認めている。一方で男性は、カレー事件については、こう語る。

「時間にずれがあったり、責任転嫁したりという部分が見えてこない。目にしている部分も辻褄が合っている部分ばかりなので、それは(ツイッターで)出していこうかなと」

ツイッターでの発信では、注意している点もあるという。

「政治やほかの事件に関して言及するのは避けたいかなと思っていて。立場的に犯罪者の子どもが国に意見するとか、政治に意見する立場じゃないと思っている。犯罪者の子どもというのは絶対的なところではあるので、立場を間違えていわゆる『炎上』みたいになるのは避けたい」

アカウント作成前は、ネット上での反応を気にしていた。

「エゴサーチっていうんですかね、自分がメディアに出た時どういう反応があるんだろうと、アカウントを作る前にネットを見ていました。フェイスブックだと『この子つらかったよね』とか優しい言葉が多いのですが、顔が見えなくなるときつい言葉が並ぶんですね」

アカウント作成によって「サンドバック状態」を覚悟していたが、「『お前も同罪』、『死ね』とか(ネット上に)あふれるだろうなと思っていたんですけど、あまりないですね」と語る。

ダイレクトメッセージ(DM)などには、全部目を通すようにしている。「(林真須美さんは)冤罪です」「裁判所に手紙を送っておきました」「私はお母さんが無罪と思います」など、応援のメッセージが多く寄せられるという。

「応援の声や擁護がほしいために始めたのではない。保険金詐欺に関しては一切擁護できないので。僕はタレントでもないし、ビジネスではないので」

「不愉快」などの否定的な意見には、「誹謗中傷などは無視するんですけど。いじめられた経験で体が慣れちゃって。それを、『こんなこと言われないように頑張ろう』とエネルギーに変えるというか」と前を向く。

「隠しておきたい」ことにスポットライトが当たる

ツイッターの利用について男性は、「もっと早くやっておけばよかったなと思うんですね」と振り返る。マスコミの取材をめぐり、苦い経験があるからだ。

「(取材を受けた)記事を見ようかなと思ったら、見出しが『あだ名が「ポイズン」』って書かれて、『こうなるんだ』と。そういうのを繰り返していたんですね。普通の人なら自分が婚約破棄したことや、いじめられたことだとか、できるだけ隠しておきたいじゃないですか。そういうのにしかスポットライトが当たっていない。マスコミを経由すると、『つらかった』というのだけがピックアップされたりする。(ツイッターでは)自分なりにも母親がこう言っているだとか発信し、自分が目にしてきた母親像が少しでも伝われば」

今後のアカウント運用については「事件に一つの区切りが付いたとき、このアカウントは削除したらいいだけ」と語る。

「1つ目は獄中死、2つ目が死刑の執行、3つ目が再審スタート。3つのうちどれかがいずれやってくるのだろうなと。どれかがくるまで、できるだけのことはしていきたい。再審の扉を開くのがすごく難しい。いろんな手段を使って、できる範囲のことはやっていきたい。ツイッターはその一部として(運用している)」

支援者の中で年配の方が増えてきたという。「ネットを使って何かをするだとかという人もあまり多くないというか。息子本人の僕がやるのが一番いいのかなと」。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)

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