岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 「警察は敵だ!」黒人女性殺され、怒る群衆たち

J-CASTニュース / 2020年9月26日 16時0分

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ニューヨークのマンハッタンの車道を占領し、行進するデモ参加者たち(2020年9月、著者撮影)

「クソ警察のクソ制度なんか、焼き尽くしてしまえ! その灰の中から、希望が、我々みんなが求めている変化が、生まれるんだ!」

米ケンターキー州ルイビルで黒人女性ブレオナ・テイラーさん(当時26)が警官に射殺された事件の大陪審の決定が出たことで、全米で再び抗議デモが繰り広げられている。ニューヨーク・ブルックリンでも2020年9月23日夜、600人が集まり、ジョージ・フロイドさんの事件直後以来、最大規模とも言われる抗議デモが起きた。私が4時間かけてこの目で見たニューヨークのデモの様子を、警官や住民の声もあわせて多角的に報告する。

「ブルー・ライブズ(警官の命)なんてクソ食らえ」

「ブルー・ライブズ(警官の命)なんてクソ食らえ。あんたたちはその職業を選んだんだろ。私はこの美しい皮膚の色になることを選んだわけじゃない。私はそれを恥じたり、自分を憎んだりはしない。あんたたちが私を殺したって。私の兄弟姉妹を殺害したって。寝ている時に。助けてくれと言っているのに。だから、みんな、力を合わせよう。そうすれば、やつらは私たちを分断させることはできない」

9月23日午後7時、ニューヨーク市ブルックリンのバークレイズセンター前の広場は、人でびっしりと埋め尽くされた。黒人の姿も多いが、白人が過半数を占める。

離れた場所で、警備のために立っている大勢の警官に向かって、目以外を黒いフェイスマスクで顔を覆った若い黒人女性が、怒りを込めて力強くメガホンでそう叫ぶと、拍手と歓声がわき起こった。

「(警官の)バッジを付けているだけで、パワーがあるのか。ブラックやブラウンの命を傷つけ続けられると思っているのか! よく聞け。責任を追及してやる。クソ警察のクソ制度なんか、焼き尽くしてしまえ! その灰の中から、希望が、我々みんなが求めている変化が生まれるんだ!」

『オール・ブラック・ライブズ・マター』(すべての黒人の命が大切)

全身汗まみれの黒人男性も、メガホンを手に怒りをぶつける。彼はすでに1時間かけて、マンハッタンのユニオンスクエアからここまで、「Black Lives Matter」の大旗を振りながら、デモ隊を率いて歩き続けてきた。

「ここにいる白人たちのみんな。君たちは白人じゃない。人間だ。僕の家族だ。一緒に戦う仲間だ。皮膚の色は関係ない。自分たちでお互いの命を守るんだ。あそこに立っているあいつらが、俺たちの敵だ!」
「これが俺たちの原爆だ! 核兵器だ! 俺たちには何がある? 言ってみろ、『ユニティー!(団結だ!)』」

「ユニティー!」と聴衆と彼が交互に大声で繰り返す。

そして、別の黒人女性が聴衆に向かって、「ジョージ・フロイドが警官に膝で首を押さえつけられた8分46秒間、地面に横になってほしい」と訴えると、皆がその場で横たわった。

女性は、「頭蓋骨を、声帯を、胸を押さえつけられ、息ができなくなり、心臓が止まる」と語りながら、その苦しみを体感させようとする。

黒人の女子高校生(17)が訴える。

「『オール・ライブズ・マター』(すべての命が大切)。それはわかっている。でも『ブラック・ライブズ・マター』なんだ。なぜなら、私たちは残虐な目に遭い、酷い奴らだと思われ、人種差別をやめてくれと言っても、耳を貸しもしない。私たちはゲットーじゃない。強盗犯じゃない。殺人者じゃない。物乞いじゃない」と、聴衆の黒人女性が「もしそうだとしても、私たちの命は大切なんだ」と声を上げ、聴衆が「All black lives matter.(すべて黒人の命は大切だ)」と口をそろえる。

さらに、トランプ大統領が白人警官による黒人への暴力を許しているとして、「トランプは大量虐殺者、人種差別者だ。これが私たちの望む未来か」と叫ぶと、「ノー!」と声が上がる。

射殺した警官の罪は「隣人への危険行為」

冒頭の事件について、簡単に触れよう。ケンタッキー州ルイビルで2020年3月13日午前0時半頃、麻薬事件の容疑者の出入り先だとして、私服警官が捜査令状を得て、テイラーさんが恋人と就寝中の自宅アパートに踏み込んだことに端を発している。警察側は踏み込む前にドアを何度もノックし警告したと主張。恋人も「ノックは聞こえた」と証言している。

警官はドアの外で叫び、身分を名乗ったと主張しているが、恋人は不審者が侵入したと思ったようだ。警官がドアを突き破って突入すると、恋人は暗がりのなか、合法的に所持していた銃で警官に1発、発砲。これを受けて警官が乱射し、テイラーさんを殺害した。

恋人はすぐに泣きながら警察に通報、「不審者がアパートに押し入り、彼女が撃たれた」と助けを求めている。

元警官で、この事件のブレット・ハンキソン容疑者は、6月に免職処分になっている。ルイビル市は9月15日、市を提訴していた遺族に1200万ドル(約13億円)を支払い、市警改革を進めることで和解している。

その夜、麻薬事件の容疑者は別の場所で逮捕されたが、情報が共有されておらず、テイラーさん宅の捜査は必要なかった可能性がある。容疑者は以前、テイラーさんとつき合っていた。事件の詳細は、未だに明らかにされていない部分が多い。

この事件で、大陪審は9月23日、ハンキソン容疑者の銃弾が隣家にまで達したことから、隣人への危険行為の罪で起訴した。しかし、殺人罪には問わず、さらに現場にいた別の警官2人を「正当防衛」と認めて起訴しなかったことで、全米各地で「警官による黒人への暴力」に対する抗議デモに再び火がついたのだ。

デモに占拠された道路で支持を表明するクラクション

1時間の集会のあと、参加者らは道路を占拠し、声を掛け合って行進し始める。

「Whose streets?(誰の道だ?)」「Our streets! (我々の道だ!)」 
「Say her name!(彼女の名前を言え!)」「Breonna Taylor!(ブレオナ・テイラー!)」
「What do we want?(我々が要求するのは?)」「Justice!(正義だ!)」
「When do we want it? (要求はいつだ?)」「Now!(今だ!) 」
「If we don't get it? (手に入らなければ?)」「Shut it down!(閉鎖しろ!)」
「こいつら警官は消え失せろ!」

多くの抗議デモのように、自転車に乗った一群がデモ隊の先を行き、自転車を横に並べて、デモ隊が通り過ぎるまで交差する道路を閉鎖する。今回は参加者が多いため、デモ隊が通り過ぎるのに時間がかかる。車の長い渋滞の列ができ、中には市バスやタクシーもある。

渋滞の車から30代くらい黒人女性が出てきて、「道路を占領するんじゃないよ。自分勝手じゃないか。仕事に行かなきゃならないんだ!」とデモ隊に怒りをぶつける。

自転車で道を塞いでいる20代くらいの白人女性が、「気持ちはよくわかります。デモ隊の安全のために、全員が通り過ぎるまで待ってください」と申し訳なさそうに伝える。その後も女性は何度も苦情を言いに出てきた。

が、民主党支持者の多いこの街では、交通を妨げられても、デモ隊を支持する人たちが多いようだ。

すれ違う車が、クラクションを鳴らして、デモへの支持を表す。足止めを食っていた市バスの黒人男性の運転手も、窓から顔を出し、拳を突き上げ、投げキスをした。

失業より黒人差別への抗議が大事

デモ隊は車道であるマンハッタン・ブリッジを堂々と占領し、マンハッタンに向かって行進を続ける。マンハッタン側の橋の入口では、デモのために橋を通れず、タクシーや車が渋滞している。

マンハッタンの大通りも占拠し、大声を上げて行進が続く。歩道にはレストランのテーブルが並び、人々が食事を楽しんでいる。デモ隊が近づくと、拳を振り上げ、拍手する人も多い。

食事する人たちに男性がメガホンを向け、「寝ていた時に警官に殺されたんだ! 自分で自分を教育しろ! 目を覚ませ!」と訴える。

警官らが50、60人、通りの反対側の歩道を歩き、デモ隊を見張っている。

30代の白人女性は、「私の家族には、警官も消防士もいる。でも、私たちの子供たちの未来のためにも、こうして声を上げなきゃいけない」と静かに語った。

レストランの店長だったという白人男性は、新型コロナウイルスのために店が閉鎖し、失業した。失業手当で暮らしている今、「皆が力を合わせる時だから」と、週6回はデモに参加しているという。

同じように失業中だという20代の黒人女性は、「今は何よりこれが最優先。いつ自分が殺されるかわからない」と言った。

ほとんどの参加者は平和的に、プラカードを高く掲げ、皆と一緒に声を張り上げ、ひたすら歩き続ける。私が写真を撮るために高い場所に乗ろうとすると、手を貸してくれる人たちもいた。

参加者の一部の男女は警官に近寄っていき、「このクソが、新しい仕事を探せよ!」「この豚野郎!」と叫んでいる。

ある黒人男性が、白人警官に向かって怒鳴る。

「ニガーがお前の家に侵入して、眠っているお前の妻を射殺したら、どう思うんだ! 俺たちニガーは、動物か!」

彼は黒人女性の警官に向かって、「ここにブレオナがいるじゃないか! お前と同じニガーの黒人女が、警官に殺されたんだぞ! どんな気持ちだ? 警官のバッジを取れ! 恥を知れ!」と激しく言い寄っている。

「こんなに大勢いたら、逮捕もできないだろ」と笑う警官

途中で他の地域のデモ隊も合流し、人数は1000人ほどに膨れ上がった。

マンハッタンの14丁目辺りで、デモ隊は逆戻りし、今来た方向へ向かって歩き始めた。これからまた、橋を渡ってブルックリンに戻るのだろうか。

その頃には警官たちも、デモ隊に続いて道路を歩いていた。デモ行進は許可を得ずに、交通を妨げて繰り広げられている。

私は警官たちに声をかけた。

「交通を妨げられたとか、市民から苦情が寄せられますか」
「うん、それがね。驚くかもしれないけど、意外に少ないんだよ」

市内でも地域によって差があるだろうが、やはりここはニューヨークなのだ、と思った。

「こんなに大勢いたら、逮捕もできないだろ。今日はよく歩いたよ」と警官が笑った。

抗議デモが始まる前に、話しかけて来た参加者の1人、若い黒人の青年の言葉を思い出す。

「ここに集まる人たちの中には、ものすごい怒りを抱えている奴らも少なくない。僕たち黒人は長い間、酷い差別を受けてきたよ。もちろん、それは事実だ。でもそれを言い訳にしてはいけないんだ。ただ怒りをぶつけることで、それがネガティブに作用してしまう危険性がある。 大事なのは、君と僕が今しているような対話だろ? 君はどこから来たの? 日本か。日本は長寿国で、天皇制があって。そんなふうに相手のことを知ろうとすることが、大事なんじゃないのか。ほとんどの人は極左や極右じゃない。僕や君みたいに、中間なんだ。そういう普通の人たちの声が、メディアでは取り上げられないんだ」

夜11時、私はデモ隊を抜けて、家路に向かった。地下鉄のホームで、デモに参加していたという白人女性2人が、電車を待っていた。

「警官が今日はよく歩いた、って言ってたわ」と私が笑うと、「あなた、警官と話したの?」と驚きながらも、「警官がそんなこと、言ってたの?」とほほ笑んだ。それが、妙に嬉しかった。(随時掲載)

 

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

           

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