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ボッチャのボールは「育て」て使う、東京パラ後に生まれた公認球…外皮の素材や硬さで戦術も変化

読売新聞 / 2024年8月31日 12時5分

これがボッチャの公認球。外皮の素材ごとに横に3つずつ並べた。最後列から順に、天然皮革、合成皮革、スエード(埼玉県八潮市のアポワテック社で)

 パリ・パラリンピックのボッチャ競技は熱戦が続いている。2021年の東京パラリンピックでは杉村英孝選手が日本のボッチャで史上初めての金メダルを獲得するなど、日本は三つのメダルを獲得し、その認知度が大きく上がった。ボッチャとはイタリア語で「ボール」の意味。勝負の行方を占う、そのボールに東京大会後、大きな変化があった。

 ボッチャは重度の脳性まひや四肢の機能障害を持つ人も楽しめるよう欧州で考案された競技だ。白い目標球(ジャックボール)をめがけ、対戦チームがそれぞれ赤、青のボールを6球ずつ投げたり転がしたりして、いかに多くのボールを近づけるかを競う。ボールの素材や硬さ、縫い目、湿度などで、転がり具合や弾み方がミリ単位で変わるほど繊細な競技だ。

 ボールの外皮には豚や羊などの天然皮革、合成皮革、皮裏を毛羽立たせたスエードが用いられる。中身はペレットと呼ばれるプラスチックの粒が一般的だ。球の重さは263~287グラム、周長は262~278ミリと定められ、一定の距離を転がることが要件とされるが、東京大会までは、こうした規格を満たせば中の素材は自由だった。ボールの硬さは、内容物の量や材質によって変えられるため、プラスチック粒を抜いて豆や米に入れ替える選手もいたという。

 世界に8社のうち、日本では唯一の国際ボッチャ競技連盟公認メーカーであるアポワテック(埼玉県八潮市)の関隆弘社長によると、2016年リオデジャネイロ大会の時には、お手玉のような軟らかいボールを作ったことがあり、前回の東京大会の時には「超ハード」仕様のボールが使用された。縫い目の部分も樹脂のようなもので固められ、記者も実際に触らせてもらったが、外皮も硬く、爪の先でたたくとコツコツと音がするほどだ。

 ところが東京大会後にルールが変わった。日本ボッチャ協会の三浦裕子事務局長は「公認球ができて、ボールの加工ができなくなりました」と話す。ボッチャボールは、重量、周長の規定のほかに球形であること、均一な外皮のパネルを縫い合わせて構成されていることが基準で、さらにパラリンピックなど国際大会で使う国際公認球では、中の素材の入れ替えはもちろん、塗料や薬剤などを塗布することが禁止され、公認メーカーが製作して国際競技連盟(IF)の承認マークがついたものに限定されることになった。

 三浦さんによると、公認球を購入してそれをなじませて、軟らかくする作業を「ボールを育てる」と呼ぶそうだ。「床にごろごろすりつけて軟らかくするようなことをやります。野球のグラブを揉んで使いやすくするのと同じです。握力のない選手はボールが軟らかくないと握れないこともある。自分の障害の程度や投球の仕方(上投げ、下投げ、ランプ=投球を補助する勾配具)、そして戦術に合わせてボールを使いやすく育てるのが今のやり方です」

ボールの硬さは7段階、外皮素材は3種類

 現在、販売されているボールは内容物の量や素材によって「ウルトラソフト」から「スーパーハード」まで7段階の硬さがある。外皮は天然皮革、合成皮革、スエードの3種類だ。ボールによって「グリップ力」や「直進性」も少しずつ差がある。

 合成皮革は、質感をしっとりさせて持ちやすさを重視する規格や、滑りを良くして距離を重視するものなど選択肢が多く、「それぞれの狙いに応じて作られるボール」(関さん)ということになる。

 これに対して天然皮革は、なじんでくると革質が変化してくるので、ボールを育てて理想の球形に仕上げていくことに適したボール。スエードは床面との摩擦が少なく、相手ボールの下から滑り込むような力強いショットが繰り出せるので、ボールを動かして展開を大きく変えたい時に効果がある――など、それぞれの素材に特徴があるという。

 パラアスリートと長い交流があるアポワテックの関さんは「この目的・戦術にはこの素材のボールで良い、という一つの答えで片付く話ばかりではない」と話す。

 同じ公認球でも選手によって握った感触や微妙な転がり具合が違う。持ち球の6球を選ぶ作業にも時間がかかる。障害のため握力がほとんどなく、自分が握りやすいよう、これまで球を軟らかくするなど工夫していた杉村選手は公認球になじむまで試行錯誤を繰り返し、パリで使うボールをそろえた。

 相手のボールをはじくなど、数ミリ単位の投球技術と、先を読む戦術が要求されるボッチャは、冬季競技のカーリングにも似ている。「静かに展開される熱い頭脳戦」と言われ、勝負の行方を乗せてボールは転がっていく。(編集委員 千葉直樹)

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