池袋西武「食品・コスメ・ラグジュアリー・アートの4事業でカテゴリーキラーに」…そごう・西武 田口広人社長
読売新聞 / 2024年9月24日 10時25分
百貨店大手のそごう・西武は、米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループ傘下で立て直しを図っている。労働組合との対立で象徴的な存在となった西武池袋本店(東京都豊島区)は、高級ブランドと化粧品、衣料品、美術品の4事業に力を入れるという。田口広人社長に話を聞いた。(聞き手・岡田実優)
経済合理性を基に再構築
――セブン&アイグループを離れ、環境が大きく変わった。
「2023年夏は、セブンとフォートレスの間を行ったり来たりしていた。ストライキはなんとしても避けたいと思い、着地点を探った。店と雇用を守りたいと思っていた。
それまでは、池袋西武だけでなく、そごう横浜店や広島店、千葉店も、店舗価値を
そごう・西武は、(ミレニアムリテイリングやセブン&アイといった)小売り企業の下でやってきたが、外資は考えが違う。まずは、経営と執行を分離しようと。経営が変わって1か月後に、(プラダ日本法人出身の)セシア氏が副社長で来て、体制を整えることから始まった」
――何が変わったか。
「フォートレスはまず、株式を長く持つと宣言した。店舗の切り売りはしない。店舗も人も守ると約束してくれた。だが、キャッシュは必要だ。池袋西武の改装にあたり、各ブランドや売り場の売り上げや営業利益のデータをすべて見た。何が売れて何がもうかっているか。どうすれば、店の利益が出るか。
百貨店は文化を育てることを重視し、利益をないがしろにしてきた。そのせいで3000億円の借金ができた。売却で借金はなくなったので、経済合理性を基に、事業を再構築する。もうかっていれば、お客様の支持も得られる。
お客様の望みに応えられる店ができれば、こうはならなかった。たとえば、(スマホで注文した食品が届く)『eデパチカ』は私が始めたが、赤字になってしまった。そこそこ売れていたが、利益が出るには時間がかかる。ROA(総資産利益率)が取れて、お客様のニーズがあることはやる。将来、利益が上がる可能性が高ければやる。
二つ目は、投資ができる環境になった。株主が変わり、人への投資がしやすくなった。これまではお金を失わない、これ以上使わないことを考えてきた。人も組織も守りに向かってしまう。チャレンジできる風土ができた。不動産ビジネスをやっているファンドが親会社なので、店舗の好立地を生かしていきたい。
三つ目は、取引先との関係の見直し。かつての百貨店は自分たちが商品を仕入れて、そろえているという意識が強かった。今後は、館を借りて人まで出してくれる取引先を大事にしたい。ようやく新しい店ができる体制になった。採用を増やし、来年には経営陣の半分を若手にしたい」
――セブン&アイの傘下にあったことをどう振り返るか。
「そごうは土地、西武は文化をベースにした錬金術の百貨店だった。いずれも借金をしながら店作りをして、2000年前後にともに経営が行き詰まった。返済ができなくなって両者が一緒になり、銀行の傘下に入った。あれもこれもやってはいけない、店にも人にも投資ができなくなった。
上場を目指した時期もあったが、(小売りの業態ごとの)水平展開を考えたセブン&アイの傘下に入った。上場会社のグループに入り、リスク管理も求められるようになり、手も足も出せなくなった。様々な面で勉強になったと思う」
人の流れ生む、ヨドバシとシナジー
――池袋西武は、改修で売り場が半分になる。
「もうかることを優先している。これまでのように、品ぞろえ重視で、何でもないとダメだという考えは捨てる。食品とコスメ、ラグジュアリー、アートの四つで(特定の商品に特化し、品ぞろえと価格で他社を圧倒する)カテゴリーキラーになりたい。小売業は現在、コンビニエンスストアを除けば、カテゴリーキラーしか生き残っていない。
私はセブン&アイで(グループの店舗とネット取引を融合させる)オムニセブンの開発責任者だった。だが、業態でビジネスモデルは違う。お客様にとっては、何もうれしくなかったのではないか。オムニセブンのような水平ではなくて、垂直の関係が大事。セブン―イレブンは製造現場まで入っていて、垂直になっている。カテゴリーキラーは垂直でうまくいっていると思う」
――ヨドバシカメラに期待することは。
「ヨドバシは当社とビジネスモデルが異なる。ブランディングや仕入れの方法は全く違うので、簡単ではないが、連携できるところから始めたい。
ヨドバシの商品配送は魅力なので、連携できないか、検討を続けている。集客力にも魅力がある。家電は当社がやめた分野で、ヨドバシはカテゴリーキラーだ。人の流れを生むという点でシナジーは必ずあるはずだ」
――ネットを使った商取引(EC)は強化するのか。
「まず力を入れなければならないのは、店作りだ。百貨店は、店作りがないECは考えられない。西武渋谷店で、(店で試してネットで商品を買う)チューズベースという売り場を展開している。将来は利益が出ると思っているが、やっぱりメーンは実店舗。当社はかつてはECで先行していたが、いまは遅れを取っている。まずは店の投資を優先し、ECもやりたい」
――現在の百貨店をどうみるか。その中で、そごう・西武の戦略は。
「世界の百貨店は、米国でダメになり、中国や欧州では(ブランド品の)ラグジュアリーが売れていない。円安もあって、今は日本だけラグジュアリーが売れている。だが、今後は金利が上がるので、厳しくなるのではないか。インバウンドも伸びが小さくなるとみている。
世界の中で、日本は百貨店の数が多く、勝ち残る店でありたい。訪日客ビジネスは不満がある。強化したい。(1990年代後半以降に生まれた)Z世代や(Z世代より前の1980年代以降に生まれた)ミレニアル世代の顧客も増やしたい。外商も強化する」
◆田口広人氏(たぐち・ひろと) 1985年滋賀大経済卒、西武百貨店(現そごう・西武)入社。セブン&アイ・ホールディングスグループDX推進本部副本部長やそごう・西武取締役常務執行役員を経て、2023年8月から社長。石川県出身。
24年本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」に登場する西武大津店(滋賀県)の店長を務めた経験がある。大津店は20年に閉店した。
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