知床沈没逮捕 荒天で出航させた責任免れぬ
読売新聞 / 2024年9月24日 5時0分
多くの命が失われた観光船の沈没事故は、発生から2年半を経て刑事事件に発展した。なぜ惨事は防げなかったのか。捜査や公判で、遺族が抱え続ける疑問に答えてほしい。
北海道・知床半島沖で2022年4月、乗客乗員26人を乗せた観光船が沈没した事故で、第1管区海上保安本部が運航会社社長の桂田精一容疑者を業務上過失致死などの容疑で逮捕した。
船長についても容疑者死亡のまま書類送検する方針だという。
一般に、過失事件の捜査は難しいとされる。特にこのケースは単独航行で、乗客乗員全員が死亡・行方不明となっている。目撃者もいない中で、1管本部は気象データの分析や大型模型による再現実験を重ね、立件にこぎ着けた。
招いた結果が重大で、遺族の被害感情が厳しいことも、逮捕に踏み切った理由だろう。
観光船は、天候の悪化が予想される状況で出航した。船首甲板のハッチが高波にあおられて開き、大量の海水が機関室まで入ったことが沈没の原因だとされる。
桂田容疑者は当時、船長と連絡を取って、判断を支援する「運航管理者」を務めていた。1管本部は、桂田容疑者には運航を中止させる義務があったのに、これを怠ったと判断したという。
海の世界は、船長の責任が大きいとされる。桂田容疑者は「自分は『船の素人』。運航は船長に任せればよいと思っていた」と主張していたという。実際、出航の1時間後に事務所を離れ、観光船との連絡を絶っていた。
今回の逮捕は、経営や運航に携わる者の責任逃れは許されないことを示した点で、意義は大きい。各地で観光船を運航する他の事業者も、肝に銘じてもらいたい。
桂田容疑者は事故の4日後に記者会見して以降、公の場所に姿を見せていない。事故と向き合い、遺族にきちんと謝罪すべきだ。
国土交通省は事故後、悪質な事業者への罰則を強化するなどの再発防止策をまとめた。運航管理者の試験制度も導入した。
事故を巡っては、国に代わって船体の検査を実施した機関が、ハッチの不備を見抜けなかった問題も露呈した。これを受けて、チェック機能の強化も進めてきた。
にもかかわらず、8月にはJR九州高速船による旅客船の浸水隠しが発覚し、運航管理者らが国交省から解任を命じられた。知床の事故から歳月が流れ、危機意識が薄れているのなら、それこそが事故防止の最大の敵である。
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