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有罪立証に強気な検察、3度の「誤算」…「証拠捏造」指摘も聞こえぬ反省

読売新聞 / 2024年9月28日 5時0分

翻弄 袴田さん再審無罪<中>

 静岡地裁が袴田巌(88)に再審無罪判決を言い渡した直後の26日午後4時過ぎ。弁護団事務局長の小川秀世(72)は地裁から約300メートル離れた静岡地検を訪れていた。

 小川は検事2人に強く訴えた。「控訴せず、この長い裁判に決着をつけることが、公益の代表者としての検察官の本当の責任だ」

 1966年に静岡県で一家4人が犠牲になった放火殺人事件。強盗殺人罪などで死刑が確定した巌の再審公判で、検察は有罪立証に自信を持っていた。血液と油が付いていた巌のパジャマ、巌が借金を重ねていたという事実……。「あらゆる証拠が犯人だと示している」と幹部は話した。

 それだけに、有罪の決め手とされていた「5点の衣類」など三つの証拠を「 捏造 ねつぞう」と言い切り、主張を 一蹴 いっしゅうした地裁判断への反発は大きい。判決当日は「こんな判決を確定させてはいけない」との意見が噴出した。

 だが、一夜が明けた27日。新聞各紙の1面には「検察は控訴断念を」という見出しが並んだ。「ここまで世論は厳しいのか」。ある検察幹部は語った。

 控訴期限は来月10日。検察OBの弁護士は「『捏造』が独り歩きしている」と判決に批判的な見解を示す一方で、「主張が全否定されており、覆すのは厳しいのではないか。怒りにまかせるのではなく、検察には控訴の是非を慎重に検討してほしい」と話す。

 検察にとって第2次再審請求は「誤算」の連続だった。

 最初は2014年の再審開始決定。静岡地裁が5点の衣類について捜査機関による「捏造」の疑いを指摘し、釈放まで決めたのは「全くの想定外」(検察幹部)だった。釈放の決定を停止するよう地裁に求めたが拒否され、巌は「死刑囚」という立場のまま拘置所の外に出た。

 昨年3月に再審開始が確定した東京高裁の審理でも当初、「十分な主張ができた」と楽観論が広がっていた。だが、主張はことごとく退けられ、再び「証拠捏造疑惑」にまで言及された。

 そして迎えた再審公判。静岡地検だけでなく、上級庁にあたる東京高検でも多数の検事を「袴田班」に投入。再審開始の決め手となった衣類付着の血痕の「色」を巡り、あらゆる捜査を急ピッチで進めた。

 死刑囚が再審無罪となった過去の4事件と異なり、自白などの供述ではなく多数の客観証拠で有罪立証が可能だと考えた検察側。「再審とはいえ、公開法廷で正々堂々と証拠を示せば裁判所にも理解してもらえるはずだ」と強気で臨んだ。だが、判決は「証拠を捏造した」と断定し、無罪とした。3度目の「想定外」が検察を襲った。

 検察の「自信」と裁判所の「認識」のギャップが大きく表れた今回の事件。「証拠捏造」を再三指摘されても、幹部らの口からは捜査や公判の「反省」は聞こえてこない。

 1966年の初公判から一貫して「犯人ではない」と訴えた巌。人生の多くを「容疑者」「被告」「死刑囚」として生きることを余儀なくされ、 翻弄 ほんろうされた。この半世紀の間に、司法が誤った判断を正し、救う機会はなかったのか。

 死刑とした確定審の静岡地裁判決でさえ、長時間にわたる捜査側の威圧的な取り調べを問題視しており、捜査には疑いの目が昔から向けられていた。

 26日に静岡地裁であった再審公判。裁判長の国井 恒志 こうし(58)は、巌の姉・ひで子(91)に「無罪判決は自由の扉を開けた」と語りかけ、「長い時間がかかったことは、裁判所として申し訳ない」と謝罪したが、どのような点を反省しているかは具体的に述べなかった。

 元東京高裁部総括判事の門野博(79)は「過去の審理では『犯行着衣』として突然示された5点の衣類に目を奪われ、証拠の吟味がおろそかになってしまったのだろう」と分析し、「裁判所が検察側の言い分を無批判に許容してきた側面もある。大きな教訓とすべきだ」と語った。(敬称、呼称略)

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