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司法に翻弄され心を病んだ姿に高まる再審法見直しの声…「事実上の4審制」と法務省は冷ややか

読売新聞 / 2024年9月30日 5時0分

翻弄 袴田さん再審無罪<下>

 「 冤罪 えんざい被害者を一刻も早く救済するためには、再審法の改正が必要だ」。28日午後。日本弁護士連合会が東京都内で開いた市民集会で、会長の渕上玲子(70)が気勢を上げた。

 その2日前、静岡地裁は強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌(88)に再審無罪判決を言い渡した。静岡県で一家4人を殺害したとして逮捕されてから58年。裁判長は「巌さんに自由の扉を開けた」と述べたが、巌の再審を開くか決める審理だけで42年もかかった。

 「なぜこれほどまでの時間と労力を費やさなければならないのか。再審法に不備があるとしか言いようがない」と渕上。巌の姉・ひで子(91)も集会に駆け付け、「弟が47年7か月、拘置所に入っていた。そのことを何らかの形にしないと思い残すことになる」と法改正を訴えた。

 再審は「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」がある場合に開かれる。ただ、弁護側が新証拠を自力で見つけるのは至難の業で、過去の再審事例では、検察側が開示した証拠をきっかけに、再審開始への道が開けたケースも多い。

 しかし、刑事訴訟法には再審に関する規定が19か条しかなく、証拠開示の明文規定もない。証拠を出すかは基本的に検察の裁量にゆだねられ、裁判所がどの程度開示を促すかも裁判官の「さじ加減」次第ともいわれる。

 実際、巌の再審請求で、検察側が、再審開始の「鍵」ともなった「5点の衣類」の鮮明なカラー写真を開示したのは2010年だった。それも裁判所に促された末のことで、検察自ら進んで開示したわけではない。

 「前任の裁判長が勧告して、カラー写真を含む色々な証拠が出てきたが、私が勧告してようやく開示された証拠もある」。14年に静岡地裁の裁判長として巌の再審開始決定を出した村山浩昭(67)はそう振り返る。

 巌は村山の判断によって釈放されたが、検察側が不服を申し立てて、再審無罪となるまでさらに10年を要した。退官後は弁護士として活動し、日弁連の活動にも参加する村山。「証拠開示がされなければ再審手続きも前に進まない」と、証拠開示手続きのルール化や再審開始決定に対する検察側の不服申し立ての禁止を訴える。

 巌の再審を機に、制度見直し論の高まりは国会にも及ぶ。今年3月、超党派の国会議員連盟が発足。6月には早期の法改正を求める要望書を法相に提出し、議員主導での立法を目指す可能性もにじませた。

 だが、刑訴法を所管する法務省は極めて冷ややかだ。

 ある同省幹部は「3審制で十分に議論したにもかかわらず、再審で全ての証拠を開示した上で改めて審理すれば、事実上の4審制となる」と説明する。

 日弁連によると、海外では再審制度が整えられている。ドイツでは、弁護側が検察側の証拠を閲覧できる。英国では、冤罪か否かを判断する第三者機関に調査権限があり、検察側の証拠も入手が可能だ。

 同省は22年から、省内の有識者会議で刑事手続きの課題を検証していて、再審制度も論点の一つとなっている。日弁連が求める証拠開示に関する改正案も議論の 俎上 そじょうに上ったが、検察側の委員が真っ向から反論し、意見集約は見通せない。

 巌の再審無罪は、死刑の執行にも影響を与えうる。

 法務省は17年を境に再審請求中でも刑の執行に踏み切る運用に転換した。それ以来、ほぼ毎年執行してきたが、22年7月から2年2か月の間、執行がない。省内では、巌の再審開始が確定した23年3月の東京高裁決定の影響との臆測もある。同省幹部の一人は「当面は執行をより慎重に考えざるを得ない」と漏らす。

 戦後5件目となった死刑事件の再審無罪。死刑か無罪か司法に 翻弄 ほんろうされ、心を病んだ巌の姿は、社会に重い課題を突きつけている。

(敬称、呼称略。この連載は「袴田さん再審取材班」が担当しました)

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