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NHKオンデマンドの値下げ・受信契約者の無料化は「早すぎる議論」…黒字蓄積には“営利”懸念も

読売新聞 / 2024年11月29日 17時3分

NHKオンデマンドの画面。人気の番組や特集ごとに作品が並ぶ

 過去のNHKの番組を見られる有料動画配信サービスNHKオンデマンド(NOD)の登録会員が今年度上半期で350万人を超えた。長年悩まされた累積赤字が昨年度解消され、黒字化が進むが、値下げや受信契約者が利用する場合の無料化といった話は聞こえてこない。(文化部 辻本芳孝)

 NODは、地上波や衛星放送の番組を、国内限定でパソコン、スマートフォン、タブレット端末などで見られる。毎月約500本を放送後に配信する。10月末時点で、過去の大河ドラマや連続テレビ小説(朝ドラ)、ドキュメンタリーや伝説のコンサートなど約1万6000本を視聴でき、無料で見られる番組もある。今年度上半期の視聴数トップは朝ドラ「虎に翼」だった。

 受信契約の有無にかかわらず利用料が必要で、見放題パック(税込み月額990円)が人気だ。動画配信サービス「U―NEXT」「Amazonプライムビデオ」やケーブルテレビ「J:COM」経由でも視聴できる。

 2008年度のサービス開始時は「3年で単年度黒字、5年で累積赤字を解消」と強気な見方でスタートした。だが、実際には会員数が伸びず、12年度には累積赤字が最大の79億円にまで拡大した。

 13年度の朝ドラ「あまちゃん」のヒットで利用者が増大し、初めて1億円の単年度黒字を達成。その後は堅調に推移し、昨年度は21億円の黒字を記録した。このうち7億円を費やして、当初予定より10年遅れてようやく累積赤字の解消を果たした。

権利処理、設備改修を優先

 受信契約者にはNODを無料にすべきではないかという声が以前からあった。例えば、09年、北海道・函館で行われた「視聴者のみなさまと語る会」でも「デジタルに変わったメリットを視聴者に分けるという意味で無料にならないだろうか」と意見が寄せられた。

 累積赤字がなくなった今こそ、値下げや無料化の機会とも思える。だが、今年1月の定例記者会見で稲葉延雄会長は「設備投資など色々支出がある中で収支均衡を維持していくという課題がある。値下げうんぬんというのは早すぎる議論だと思う」と否定的な見解を示した。

 4月の会見でも、担当者が「権利処理に手間や費用がかかる。より見やすいテレビアプリの開発や、4K画質での配信も考えており、設備改修も進めている」と改めて理解を求めた。

無料の「プラス」との一体化議論も進まず

 難しいのは、20年に始まった「NHKプラス」との関係だ。プラスが同時配信と共に行う見逃し配信は、放送後1週間までで、受信契約者に別料金はかからない。両サービスを一体化する議論もあったが進んでいないのが実情だ。

 立教大の砂川浩慶教授(メディア論)は「本来、NHKはプラスにNODを含めた形で有料化したかった。だがプラスを無料で始めたため後戻りできない状態だ」と指摘。「赤字を埋めているうちは問題視されなかったが、利益が出るのであれば、NHKが営利事業をしていいのかという問題が出てくる。NODは鬼っ子になりつつある」と語る。

 今年度上半期の中間決算で、NODの登録会員は前年同期比17万人増の350万人に拡大。新たな設備強化と、配信本数を増やすために費やした経費の大幅増があってもなお、黒字額は半年で7億円に上った。

 とはいえ、NODは他の動画配信サービスに比べて作品検索がしにくく、品ぞろえも決して良くないとの声もある。テコ入れに経費をかけたい事情も理解できるだけに、受信契約者の“負担感”とどうバランスを取るか、難しいかじ取りを迫られている。

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