スマホで検察官や弁護人のアバターを操り有罪か無罪か議論…「メタバース法廷」で模擬裁判
読売新聞 / 2024年11月29日 15時0分
若者らに裁判を身近に感じてもらおうと、法学者らでつくる団体がインターネット上の仮想空間「メタバース」で模擬裁判を行う「メタバース法廷」を開発した。18、19歳も裁判員に選ばれるようになり、「法教育」の重要性が高まる中、若い世代の司法への関心を高める一手となるか――。(杉本和真)
保険金目当ての放火で審理
「火災は人為的な放火だ」「被告に放火する動機はなく、石油ストーブの消し忘れが火災の原因だ」
仮想空間に作られた法廷で、検察官と弁護人の「アバター」(分身)が意見を交わす。保険金目当てで女が自宅に火を付けたというストーリーの模擬裁判。現住建造物等放火と詐欺未遂罪に問われた被告や裁判官、裁判員、傍聴人のアバターが審理の様子を見守る。
このメタバース法廷を開発したのは、石塚伸一・龍谷大名誉教授(刑事法)が代表理事を務める一般社団法人「刑事司法未来」(東京)だ。裁判員に選ばれる前に裁判の基礎知識を身につける機会を持ってほしいと考え、企画した。
参加者はパソコンやスマートフォンでメタバース法廷にアクセスし、検察官や裁判官など自身の立場を選ぶ。アバターを操りマイクを通じて意見を述べ合い、有罪か無罪かを話し合う。画面上の視点切り替えボタンをクリックすれば、証言台や裁判官らが座る法壇、裁判官と裁判員が話し合いをする評議室などそれぞれの目線から参加することも可能だ。
「それぞれの立場から結論考えるのは楽しい」
放火事件以外にも、昔話や童話、実際にあった事件を参考に複数のシナリオを用意。メタバース法廷に参加したことがある東京都の中学1年生(13)は「それぞれの立場の話を聞いて結論を自分で考えるのはとても楽しい経験だった」と振り返る。
同法人では現在、一般の人が有償で利用できるよう、準備を進めている。システムの安定的な運営を目指し、維持費の確保などを目的にクラウドファンディングを実施。10月にはメタバース法廷の「内覧会」も開き、260万円超を集めたという。
教育現場で活用
同法人が想定するメタバース法廷の活用場所の一つが教育現場だ。
裁判員に選ばれる年齢は2022年4月の改正少年法の施行に伴い、「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられた。実際に選ばれるようになった23年は、26人の18、19歳が裁判員として裁判に参加した。
10歳代でも人を裁く立場になりうるため、若者への「法教育」の重要度が増しているが、取り組みに悩む学校も多いのが現実だ。全国の高校を対象に昨年3月にまとめられた法務省の調査では、回答した291校のうち、240校が「課題を感じる」とし、内容としては「法教育に十分な時間を取る余裕がない」(77%)が最も多かった。
石塚さんは「『近くに裁判所がない』『生徒を法廷に連れて行く余裕がない』という距離的・時間的な問題も、メタバース法廷なら解消できる」と強調。「若い人たちには模擬裁判を通じて、司法の仕組みだけではなく、相手の立場を尊重して議論することの大切さも学んでほしい」と話す。
法曹三者が動画で解説
国も法教育の後押しに取り組んでいる。
法務省は昨年3月、小中高校での授業で、刑事裁判を模擬体験できる動画教材を作成。裁判でのポイントを法曹三者が解説する動画や授業用のワークシートなども合わせてネット上で公開している。
最高裁は今年5月、裁判員制度を紹介する動画を新たにユーチューブにアップした。10歳代が裁判員に選ばれるようになったことを意識し、カラフルなデザインを駆使。裁判員が選ばれる過程や裁判員経験者の声などを紹介している。
ベテラン刑事裁判官は「法を学ぶことは、社会生活での困りごとをルールに基づいて論理的に解決する力を身につけることでもある」と意義を語る。
立ち止まり考える習慣は重要
法教育に詳しい明治大の太田勝造教授(法社会学)は、「闇バイト」に応募して犯罪に加担する若者がいる現状も踏まえ、「子供の頃から法教育を通じて物事を批判的に思考することを学び、一歩立ち止まって考え直す習慣を身につけることは、社会の一員として責任ある行動をとれるようになるために重要だ」と指摘する。
その上で、「デジタル世代にとってメタバース法廷はなじみやすく、楽しみながら裁判を体験できる。国が法教育を支援する団体と教育現場とを結びつけるような取り組みも必要なのではないか」と話している。
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